全国600万人以上といわれる認知症の当事者。65歳未満で発症する若年性認知症は、働き盛り世代の経済面・精神的な問題を浮き彫りにしています。認知症の進行を抑える治療薬の実用化が加速する中、今を生きる若年性認知症・当事者たちの姿に光を当てます。

わたしのこと、まだわかる?

加藤雅津美さん: 「見える?海ですよ。まーちゃんちょっと目を開けてみてよ。ねえ、まーちゃん。前に来たときは、あの先のホテルに泊まったんちゃう?覚えている?」

加藤正哉(かとう・まさや)さんが、若年性認知症を発症したのは9年前。百貨店や外資系の製薬会社で経理を担当していました。妻の雅津美(かつみ)さんが、異変に気づいたのは、転職のために面接を受けた日のことでした。

雅津美さん: 「会社から電話があって『先方さんが怒っている』と。『(正哉さんが)遅刻してきたのに何の挨拶もない。どういうことでしたか?』って。ビルにはたどり着いたけど、どの部屋なのかわからなくて、『これはおかしいやろ』って」

最初の診断では認知症は見落とされ、ストレスによる心の不調だと診断されました。

雅津美さん: 「『会社を退職したことによる うつ症状だ』と。『どうもない』とおっしゃった。脳がどうもないんやったら、気持ち的なことだったら何とかなると」

認知症と診断されるまで3年かかりました。経理の仕事を続けたいと願いましたが叶いませんでした。

ようやく見つけた介護の仕事で、送迎の手順を忘れないために書いたメモ。

雅津美さん: 「このノートを書いてはビリビリ破って。これが破った後のノートなんですけど、どっさりある。覚えている?これ?」 「これ まーちゃん書いたんやで」

「真面目なんです。働かなあかんと。ありがたいことなんですけど、私を養わなあかんと。その3年間が本当に…いま、ご飯を食べられなくなったりとかいろいろあるんだけど、その時の彼の頑張りが…本当に尊敬しています。すごいです」

失われていく記憶を何とか留めようと、闘った証。ある日突然、そして少しずつ以前と同じことができなくなる現実。

♢ ♢

夏、正哉さんと 妻の雅津美さんは、 “思い出の水族館”を訪ねることにしました。

雅津美さん: 「私がショーに参加した時の写真なんですけど。雨で観客が少なくて、私がショーに出る羽目になったんですけど。この時のことをいつまでも言ってましたね。『あんなところ出て恥ずかしい』と言いながらも写真を撮ってくれてたので。楽しかったと思います」

写真を撮ることができなくなった正哉さん。雅津美さんは、同じ認知症の下坂厚さんに、旅の記録係をお願いしました。夫婦で積み重ねてきた26年。一緒に振り返ることができるのは、夫の正哉さんだけ。13年前、シャッターチャンスを逃すまいと目を凝らした“ステージ”です。

雅津美さん: 「たぶん…涙を流していたんですよね。目を開いて見ていた。何か思い出したかなと思いました」

♢ ♢

認知症になると、いずれは記憶を失ってしまうのでしょうか。

雅津美さん: 「『私の名前をこの頃は呼ばないけど、わかっている?』って聞いた時に、その時に、すごく『わるっ!』っていう顔をしたんですよ」

正哉さん:「ちょっと待ってくださいよって(笑)」

雅津美さん: 「『わるっ!』っていう顔をした。その時の顔が出てこないけど、出てこないことは悪いこととわかっていた。しまったという顔をした。たぶん私の名前は出てこなくても、わかっている。絶対わかっている。全然忘れていないっていうのは、自信があります」

『記憶は、失われるのではなく、思い出が仕舞ってある引き出しが、うまく開かなくなっただけ』雅津美さんは、そう確信しています。

雅津美さん: 「『どういう生活したいですか?』と、 ケアマネジャーさんが(正哉さんに)聞いた。 『(妻を)自由にしてやりたい』と言った。 それに感動して。(夫)らしいなと。最後まで見なしょーがないなという気にさせてくれたね」

正哉さん:「ありがとう」

制作:読売テレビ

※この動画は2023年9月10日に「NNNドキュメント」で放送されたものを再編集したものです。
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20 Comments

  1. 私の主人も58歳で若年性アルツハイマー病を発症し…今現在68歳・・約10年自宅介護しています。どんどん記憶が薄れ,今は私や息子の名前すら言葉に出てきません。認知症の経過が解っていたから悲しいショックより…『遂にその時がきたかぁ~。』そちらの気持ちの方が強かったです。主人が忘れても私の主人に何ら変わりなし!!記憶が無くなっても言葉が上手く出てこなくても…只々そばに居てくれるだけでいい〜気配を感じるだけでも有り難い〜後何年お世話出来るか解らないけど今を今日を一瞬一瞬生きるだけ…人間生きて要るだけで丸儲けの精神で日々生活しています。私の今置かれている立場と似ていて…コメントしました。ありがとうございます。

  2. 疲れちゃったんだね😢お仕事に神経使い過ぎたんだわ涙💧(TT)自由が1番大切な栄養だね〜優しい奥様、みんなが付いてるからね、頼っていいんだよ😢

  3. 旦那さんの昔からの心は変わっていない。
    言葉がうまく出なくなっても、表情や涙や『ありがとう』の言葉から犇々と伝わります。
    愛は美しい。

  4. 大変で悲しいことも 時には嬉しいこともたくさんあるでしょうね。。
    感動しました🥺
    私は約3年前に旦那さんと死別しました。急死だったのでぽっかり穴が空いたようですが、夫婦の在り方を考えさせられますね。

  5. 多分、病を発症されるまでのご主人の生き方が、奥様にとってとても素敵で尊敬できるものだったんだろうなと感じました。
    愛して、愛されてきたからこそ、こんな大変な病気になってもむしろ絆を深めて最後まで支えていきたいと決意できたんだと思います。
    胸を打たれました。
    毎日の積み重ねが掛け替えのない愛を育てるのですね。。。

  6. 私の父も定年退職してこれから夫婦で楽しむぞ!という時に若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。それから色々家族で乗り越えて、現在は特老に居ます。母は面会に頻繁に行って目を瞑って寝たままの父に色々お話してくるそうです。私ももっと父と会話してくるおけば良かった。後悔しています。

  7. 仕事したいのにできないって….すぐ仕事辞めたいとかいってる自分がどうしようもなさすぎる。人生はこう言う人のためにある。変わってあげたい。どうしてこんなにも仲良い夫婦が幸せそうなのに神様はいじわるじゃないですか?

  8. こんな優しい嫁さんて本当にいるんだね。
    こんな嫁さんといられる旦那さんは幸せものです。こんな女性が増えればいいのに。

  9. 注射一本で認知症が治る時代が来ればいいのに……

  10. 気持ち的なことで認知症になることはあり得る。病院にずっといるのと家にいるのとでは認知症の速度も変わる。 真面目な人ほどなりやすい

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