・世界で初めてマイクロRNAの全身投与によって炎症性腸疾患(IBD)を罹患したマウスの治療に成功した。
・生体内での不安定性や細胞への導入効率の等の問題からマイクロRNAを炎症性腸疾患の治療薬として用いる試みは殆どなされてこなかった。研究チームは、これまでの研究で、固形癌に対する核酸デリバリーで高い効果を示してきたスーパーアパタイト法を用いて、炎症腸管の免疫応答担当細胞に効率的にマイクロRNAを送達することに成功し、腸炎マウスの予防・治療で有効性を示した。
・潰瘍性大腸炎などの難治性炎症性腸疾患の治療法として新しい道を開いたとともに、同様の手法を用いれば、免疫応答担当細胞が病態の根幹をなす免疫・アレルギー疾患や臓器線維症に対する新たな治療法の創出が期待できる。
大阪大学大学院医学系研究科の山本浩文教授(消化器外科学/保健学科分子病理学)と水島恒和寄附講座教授(炎症性腸疾患治療学)らの研究グループは、炎症性サイトカイン を抑えることが知られているマイクロRNA (miR)-29a及びmiR-29bを、全身性の核酸デリバリーシステムであるスーパーアパタイト に搭載し、炎症性腸疾患 (IBD)モデルマウスに全身投与したところ、腸炎の発症予防と治療効果について顕著な有効性が認められました。
これまでマイクロRNAなどの核酸医薬が全身投与でその効果を発揮するためには、血中での不安定性や標的細胞への取り込み効率の問題など実用化には多くの障壁がありましたが、研究グループはスーパーアパタイト法を用いることで、治療的マイクロRNAを炎症腸管の樹状細胞 へと送達し、それに引き続く炎症反応を分子レベルで修正する (図1) ことにより、マウス腸炎の予防・治療に成功しました。この治療法は血管内投与のみならず皮下注射による投与でも同様の効果を示したことから、炎症性腸疾患に対する新たな実用的な治療法の創出が期待できます。
本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy-Nucleic Acids」にて、7月15日に早期オンライン公開され、9月7日に出版されます。

図1 IBDにおけるマイクロRNAの作用
スーパーアパタイトに搭載されたmiR-29は樹状細胞から分泌される炎症性サイトカイン(IL-6, TGF-β, IL-23など)の産生を抑制し、ナイーブT細胞 のTh17細胞 への分化を抑えることで炎症の進行を食い止める。
国内で、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)に悩まされる患者数は上昇の一途をたどっています。これらの疾患は、TNFαやIL6を含む様々な炎症性サイトカインが腸管壁を傷害して発症するので、サイトカインのシグナル経路が治療の標的になります。抗サイトカイン療法やサリチル酸やステロイドなどの古典的な薬物治療によって、一時的に緩解を得られる場合もありますが、再発などのために外科治療が必要になるケースも後を絶たず、これらの難治性腸疾患には新たな治療法の開発が継続的に求められています。これらの炎症性サイトカインの産生を抑制するマイクロRNAは複数明らかとなっていますが、これらのマイクロRNAを安定して効率よく患部へと届ける方法はありませんでした。
これまでに、同研究グループは、固形がんの治療法開発において、マイクロRNA等の核酸をスーパーアパタイトのナノ粒子と結合させることで、優れた核酸デリバリー効果を報告してきました。今回、スーパーアパタイト法を用いて、IBDの治療法開発への応用とその作用メカニズムに迫りました。
研究グループは、2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液の自由給水によりIBDモデルマウスを作製し、炎症性サイトカインの産生を抑制することが知られているマイクロRNA(miR)-29aおよびmiR-29bに着目して、効果を検証しました。
スーパーアパタイト法を用いてmiR-29aまたはmiR-29bをIBDモデルマウスに全身投与したところ、マイクロRNAが炎症腸管にあまり集積しないにも関わらず、炎症性サイトカインが減少し、腸炎の予防と予想以上の治療効果が示されました。
さらに、マウスの腸管を調べたところ、スーパーアパタイトに搭載したマイクロRNAが効率よく炎症腸管の樹状細胞(免疫応答の司令塔細胞)に送達され、炎症性サイトカインの産生を抑制していることが明らかとなりました (図2) 。
今回の結果から、スーパーアパタイト法が炎症部位の樹状細胞へと核酸医薬を輸送する特異なドラッグデリバリーシステムとして機能し、それに引き続く炎症反応を分子レベルで抑えることで腸炎の予防・治療効果を示すことが明らかとなりました。これまでに核酸医薬を特異的に炎症部位に集積させる技術は開発されておらず、静脈注射・皮下注射などの全身投与でこれを可能にするスーパーアパタイト法はこれまでにない画期的な核酸デリバリー法であるといえます。

図2 IBDにおけるスーパーアパタイト法によるマイクロRNAの効果
スーパーアパタイトに搭載されたmiR-29(赤色蛍光標識)は炎症腸管のCD11c + 樹状細胞(緑色標識)に効率よく取り込まれた。その結果、デキストラン硫酸ナトリウムによる腸管の炎症はほとんどみられなくなった。
本研究の結果は、日本だけでなく欧米でも増加しており医療上の大きな問題となっている炎症性腸疾患の治療薬を創出へと繋がる可能性が高く、非常に大きな意義があると考えられます。スーパーアパタイト法は、炎症性腸疾患はもとより炎症反応が関与する様々な疾病に対する幅広い応用が可能で有り、これらの疾病に対する新たな治療薬の開発が期待されます。
本研究成果は炎症性腸疾患の予防又は治療剤として特許出願されています(特願2017-085318)。
本研究成果は、2018年7月15日に米国科学誌「Molecular Therapy-Nucleic Acids」に早期オンライン掲載され、9月7日に出版されます。
【タイトル】“Super carbonate apatite-microRNA complex inhibits dextran sodium sulfate-induced colitis”
【著者名】Tadafumi Fukata 1 , Tsunekazu Mizushima 1 , Junichi Nishimura 1 , Daisuke Okuzaki 2 , Xin Wu 3 , Haruka Hirose 3 , Yuhki Yokoyama 3 , Yui Kubota 3 ,Kazuya Nagata 3 , Naoto Tsujimura 1 , Akira Inoue 1 , Norikatsu Miyoshi 1 , Naotsugu Haraguchi 1 , Hidekazu Takahashi 1 , Taishi Hata 1 , Chu Matsuda 1 , Hisako Kayama 4, 5 , Kiyoshi Takeda 4, 5 , Yuichiro Doki 1 , Masaki Mori 1 , Hirofumi Yamamoto 1, 3
【所属】
1. 大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科
2. 大阪大学 微生物病研究所 遺伝情報実験センター
3. 大阪大学大学院医学系研究科保健学科 分子病理学
4. 大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学
5. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 粘膜免疫学
なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成・挑戦的萌芽研究の一環として行われ、大阪難病研究財団の助成金を得て行われました。
炎症性腸疾患は長期にわたって患者を苦しめ、増加の一途をたどる世界共通の難病です。マイクロRNAやsiRNAなどの新しい核酸医薬が利用できるようになれば多くの薬が誕生します。免疫応答の司令塔細胞にマイクロRNAを送りこむ私達の技術は明日の医療を作ります。

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