今野 晃嗣

麻布大学獣医学部動物応用科学科講師

村山 美穂

京都大学野生動物研究センター教授

世界一賢い犬といわれるボーダー・コリーは本当に賢いのか。飼い犬の性格を科学的に考察した今野晃嗣、村山美穂の『犬の性格を科学する』(集英社新書)より紹介する――。

アジリティコースの棒の間をジグザグに走るボーダーコリー

写真=iStock.com/Luis Diaz

※写真はイメージです



「最も賢い犬」はボーダーコリーか

「犬種の賢さランキング」などというまことしやかな情報を目にしたことがある方も多いでしょう。そこでは必ずボーダー・コリーが上位にランキングされています。こうした言説の元をたどれば、スタンレー・コレンという研究者が書いた『デキのいい犬、わるい犬 あなたの犬の偏差値は?』(邦訳は、木村博江訳、文春文庫、2000年)という本に行き着きます。この本では、訓練士への聞き取り調査の結果としてボーダー・コリーがもっとも「賢い」犬種であるとされています。でも、このような巷にあふれる「ボーダー・コリー天才説」はもっと慎重に解釈する必要があります。


コレンの本をよく読むと、彼はイヌの知性を「本能的知能」「適応的知能」「作業・服従知能」の3つに分け、そのうち「作業・服従知能」の犬種ランキングを作成しているだけにすぎません。その「作業・服従知能」とは、主にドッグスポーツの一つである「オビディエンス(服従)競技」の訓練のしやすさのことです。つまり、ボーダー・コリーはヒトが発した指示によく耳を傾け、それに応じて従順にふるまう能力に優れているということです。


200、300、1000の単語を識別できた例

たしかに、ボーダー・コリーの服従性は高い。同じような結果は、イヌに物体の名前を教える研究からも垣間見えます。2004年にはリコというボーダー・コリー(オス)が200を超える物体の名前を覚え、専門家を驚かせました。その後、ベッツィーという別のボーダー・コリー(メス)が300以上の単語を覚えました。極めつけはこれまたボーダー・コリー(メス)のチェイサーで、彼女が覚えた単語の数は1022を数えました。


最近、ハンガリーの研究チームが「天才犬発掘プロジェクト」を立ち上げ、物体の名前の学習能力に優れたイヌを世界中から募集したところ、その半数以上がボーダー・コリーでした。これらの結果から、ボーダー・コリーは物体をヒトの音声と結びつける学習能力においては「天才」であるといえるでしょう。


純粋犬種を対象とした遺伝解析による系統



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