角銅真実ときりんちゃん。(Photo by Kei Murata)

猫と音楽家の二重唱 第8回
[バックナンバー]

「保護をしているとか世話しているというよりも、二匹の群れとして一緒に暮らしている」

2026年4月17日 14:22
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打楽器奏者、シンガーソングライターとして唯一無二の活動を繰り広げる角銅真実。細野晴臣やceroなど数多くのアーティストのライブやレコーディングにも参加してきた彼女は、現在「きりん」という名の猫と暮らしている。角銅が「きりんは愛の先生であり、音楽の先生でもあります」と話すように、その関係は「飼い主とペット」にとどまるものではないのだという。

音楽家のクリエイティビティに猫が与える影響について聞く本連載。8回目となる今回は、その角銅を迎え、音楽と愛にあふれたきりんとの暮らしについて話を聞いた。角銅との対話はやがて、猫の身体性や時間感覚など哲学的領域へも踏み込んでいった。

取材・文 / 大石始 メインカット撮影 / Kei Murata

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目次

角銅真実の愛猫・きりんは愛の先生

「一緒に暮らしている猫はきりんという名前です。性別はオスで、今年10歳になります。かわいいです(笑)」

角銅はパートナーであるきりんのことをそう紹介する。きりんという名前だからてっきり茶トラかと思いきや、「真っ黒の猫です」とのこと。名前の由来を尋ねると、中国の想像上の動物・麒麟から取られているのだという。

「まず、猫に名前を付けることにちょっと躊躇もあって。『猫』と呼ぶのもなんだし、なんて呼ぼうかなと思ってたんですけど、架空のものならいいのかなと思って。自分の名前も『真実』という存在しないものだし、それで『きりん』と名付けました」

凛とした表情のきりんちゃん。

凛とした表情のきりんちゃん。
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きりんが角銅の家にやってきた経緯もまた、かなり直感的なものだったようだ。

「それまで猫と暮らしたこともなかったんですけど、ブラブラ商店街を歩いていたとき、保護猫の譲渡会をやっていたんですよ。暇だったし、なんとなく入ってみたら、いろんな子猫がいて。これが猫なんだ……とボヤボヤ見てたんですね。そうしたら、譲渡会の方から『抱っこしてみますか?』って言われて。それがきりんとの出会いでした」

そのとき、きりんは1歳になる少し前。すでに子猫ではなかったものの、「ブルブル震えていて、生まれてきたことに戸惑っている感じがした」と角銅は話す。

「そこにちょっと興味が湧いたし、シンパシーも感じました。そのとき一緒に住むことに決めたんですよ」

きりんの性格について角銅は「愛の先生です」とひと言。きりんとの出会いは、彼女の人生観さえ変えたのだという。

「愛の伝道師みたいな感じです。いろんなことを教わってるんですよ。なんて言うかな……今在ることがすべてで、とにかく遊ぼう!みたいな感じ。以前の私は『明日死んでもいい』と思っていて、自分の体を全然大事にしてなかったんですよ。でも、きりんと暮らし始めてから、朝と夜、この子にごはんをあげなきゃいけなくなった。この子が生きている間、私は生きなきゃいけないわけで、未来という時間軸が生まれたんです」

それは「守るべきものが初めてできた」という感覚でもあるのだろうか。

「ああ、そうかも。ただ、私のほうが守られているとも思いますけどね。だから、『猫を飼ってる』という感覚はあんまりないんです。ごはんとか掃除はするけど、私のほうがケアされてます。元気? 大丈夫?って心配してくれるし」

きりんちゃんのドアップ。

きりんちゃんのドアップ。
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そこまで語る角銅だけあって、生活の中心には常にきりんがいる。

「たぶん、きりんも自分の家だと思ってますね。もしかしたら私のことを『自分の家によく来る人』ぐらいに感じてるかも。『一緒に住んでやってる』って」

きりんのために何かをしたいとき、角銅真実は歌を歌う

きりんとの暮らしはどのようなものなのだろうか。角銅はそのワンシーンを次のように語る。

「きりんはもともと人見知りで、家に人が来ると私のキャリーバッグに隠れて出てこなかったんですけど、最近は人が好きになりました。よく知ってる友達だと怖がらずに出てきて、会話の輪に入ってくるんですよ。今は初めて会う人にも逃げなくなりましたね」

角銅はきりんを抱っこしながらよく歌を歌う。「きりんのために歌を歌いたくなるんですよ。言葉でもなく、なでるだけでもなく、きりんのために何かをしたいとき、歌を歌う」のだという。愛しいものに対し、語りかけるように歌う歌。それは子守唄にも近い感覚なのかもしれない。

「あと、きりんと私は体の大きさも違うじゃないですか。それが楽しいんです。人間だったら私の体を踏まないように歩くけど、きりんは体があろうがなかろうが、お構いなしに体の上を通っていく。そのときに自分が山や川になった気がするんです。そういう体験も思わず歌にしてしまいたくなります」

楽譜の横で寝そべるきりんちゃん。

楽譜の横で寝そべるきりんちゃん。
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きりんと角銅の暮らしぶりは、さまざまな楽曲からうかがい知ることができる。例えば2020年のアルバム「oar」に収録された「Lullaby」にはこんな歌詞がある。

「赤いカーテン 紙コップのコーヒー 鳩のあくび お喋りな猫」

角銅真実「Lullaby」

もちろん「お喋りな猫」とはきりんのこと。「(きりんは)めっちゃおしゃべりなんです。なんかしゃべってくるんですよ。一緒に暮らしているから、そういうものは歌詞にも入ってきますね」と角銅は話す。

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きりんはもう自分の一部

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