「I never used to~ と I have never~ 違いを教えてください」
 レスリングの登坂絵莉がインスタグラムで呼びかけた。見ず知らずの人々から返信があり、前者は「昔は決して~しなかった」、後者は「~したことがない」という意味だと知った。
 リオデジャネイロ五輪女子48キロ級の金メダリストはいま、英語の習得に燃えている。昨年12月、東京五輪の代表選考会に敗れ、目標を失った。同世代の練習仲間は相次いで引退。所属先で社業に専念するなど次の道に進んだ。自身はひとまず現役を続けることにしたが、「私だけ何も変わらない。何かしなきゃ」。そんな折、新型コロナウイルスの影響で、拠点の至学館大(愛知県)で練習ができなくなった。富山県の実家に身を寄せ、1日の大半を家で過ごすなか、4月上旬から英語の勉強を始めた。
 世界選手権でも3連覇し、国内外で見本となる存在。外国人選手から「技を教えてほしい」と請われることは度々あった。だが、「タックルに入る」すら英語で言えない。「教えるのを渋っていると思われるのが嫌だった」。レスリングにオフシーズンがなく、本腰を入れて勉強する機会はなかったが、英語力を上げる必要性はずっと感じていた。
 さすがは、人一倍の練習量で世界の頂点に登り詰めただけある。やると決めたら徹底的にやる。毎日5~6時間、多いときは1日10時間も机に向かった。
 インスタグラムのライブ配信機能でファンと交流している時、「英文投稿に挑戦してみては」と提案された。それから毎日、インスタに英文で投稿。知らない単語は辞書で調べるが、あとは自分の知識だけが頼りだ。間違いも多いが、「始めたばかりだから間違うのは当たり前。それが本当の自分。翻訳機能を使って完璧を装っても上達はしない。失敗は良くないと思わないで、みんなにもどんどんチャレンジしてほしい」。ファンら投稿を見た人々が「先生」となり、正してくれる。「でも、意味は通じますよ」という温かいコメントにも励まされた。
 インスタライブでは眼鏡姿で勉強机に向かう姿を見せ、視聴者に勉強法の助言も求めた。多くの人々を巻き込んだことで、「後に引けない状況を作れた」と笑う。

WACOCA: People, Life, Style.