イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、ロベルト・マンチーニが再び率いるイタリア代表の船出を読み解く。ネーションズリーグの最初の4試合では、ベルギーに完敗を喫した一方、トルコに大勝し、フランスからも勝ち点を持ち帰った。結果以上に注目すべきは、EURO2020を制した時代の「海賊船」が掲げていた、攻守両面でリスクを恐れず前に出るアイデンティティの再構築だ。長年の課題だった「3バックのジレンマ」にどう向き合い、どのような戦術的修正から新たな主力候補が浮かび上がったのか。4試合の試行錯誤から、アズーリが進むべき航路を探る。
再び「海賊船」へ。マンチーニが取り戻す攻撃的アイデンティティ
足かけ3週間で4試合という、新たなインターナショナルマッチカレンダーに沿ってスタートしたUEFAネーションズリーグ26-27。グループAでフランス、ベルギー、トルコと同居した第2次ロベルト・マンチーニ体制のイタリアは、初戦でベルギーにホームで0-2の完敗を喫したものの、続くトルコ戦(アウェイ)に4-1で大勝、フランスとは敵地で1-1の引き分けをもぎ取り、最後はトルコにホームで3-1。2勝1分1敗(勝ち点7)で、フランス(勝ち点10)に次ぐ2位を走っている。
W杯直後というタイミングもあって、監督交代や世代交代によって新たなサイクルをスタートした国も少なくなく、このネーションズリーグは多くの国にとって、次の4年間に向けた土台作りの機会という位置づけになっている。特にイタリア、フランス、ベルギー、ドイツのように新監督を迎えたところは、多くの選手に出場機会を与えながら、チームの基本的な構成、戦術的な方向性を固めるための試行錯誤に時間を費やした観がある。年に4回(9~10月、11月、3月、6月)しか招集機会がなく、それぞれ純粋なトレーニングに費やせる時間は2、3日ずつしかないという状況の中で、2年後のEUROという節目、そして4年後のW杯を見据えて、どのようにサイクルを構築するかに、監督たちは頭を悩ませている。
例えばドイツのユルゲン・クロップ監督は、44人もの選手を招集し、22人ずつの2グループに分けて、それぞれが2試合ずつを戦うというアプローチを取った。フランスのジネディーヌ・ジダン監督は、23人しか呼ばない替わりに、試合ごとにほぼ全面的に選手を入れ替えるというやり方を選んでいる。イタリアのマンチーニ監督が選んだのは、その中間というべきアプローチ。34人という多めの人数を招集し、その中にこれが初代表となる若手も積極的に組み込んで、試合での選手起用も以前からの主力を中心としつつ、そこに若手も思い切って登用するという手法が取られた。
34人中初招集は8人だが、前任のジェンナーロ・ガットゥーゾ監督の下で戦った北中米W杯予選ではメンバーに入っていなかった若手まで含めた事実上の「新顔」は、全体のほぼ1/3にあたる11人に上っている。そのうち何人かは、今回の4試合の中で複数の出場機会を得ただけでなくポジティブなパフォーマンスを見せ、今後も戦力として代表に定着し得る力を持っていることを示した。これは、世代交代と若手の積極的な登用、育成が大きな課題となっている現在のイタリア代表にとって、新たなサイクルのスタートとしては悪くない成果だと言える。
しかしそれ以上に重要な成果は、マンチーニ監督が打ち出した新たな(というよりもEURO2020を制した2021年当時に回帰した)ゲームモデルが、導入段階にはつきものの多少の困難を伴いながらも、着実にチームに浸透して、プロジェクトとして進むべき方向、そしてその中核を担うべき顔ぶれが、かなりはっきりと見えてきたことだ。
基本システムは[4-3-3/4-3-2-1]。ボール保持時は後方からのビルドアップと2ライン間での細かいコンビネーションによる局面打開、非保持時はハイライン/ハイプレスとゲーゲンプレッシングによる「前に出る守備」が最も基本的な原則。攻守両局面でリスクを怖れず能動的に振る舞う、アグレッシブかつインテンシティの高いサッカーである。
「3バックのジレンマ」を断ち切れるか。受動的な5バックに逃げない決意
今年2~3月に掲載された本誌特集『イタリア代表はなぜ、弱くなったのか』でも繰り返し指摘されたように、EURO2020を制したマンチーニのアズーリは、イタリアサッカーの伝統的価値観(勝つことよりも負けないこと、得点するより失点しないこと、ポゼッション軽視、堅守速攻……)に逆行する「海賊船」だった。この4試合は、その海賊船が同じ旗を掲げての新たな船出を内外に示すに十分なものだったと言える。
ロベルト・マンチーニ監督
1つ大きいのは、これまでイタリア代表が陥ってきた「3バックのジレンマ」が解消されそうなこと。イタリアがW杯予選プレーオフで敗退した直後に書いた当連載コラム『なぜアズーリは変われなかったのか?(前編):マンチーニからガットゥーゾまで“停滞”の4年間』で詳しく考察したように、第一次体制末期のマンチーニ、ルチャーノ・スパレッティ、そしてガットゥーゾという歴代の代表監督はいずれも、4バックのシステムを基本とする能動的なスタイルのサッカーを好み、またそれを望みながら、近年のセリエAで主流となり、インテル組をはじめ代表選手の多くがそれに慣れていた3バック([3-5-2/3-4-2-1])を採用せざるを得ないという「ジレンマ」に直面してきた。
もちろん、3バックのシステムでも「攻守両局面でリスクを怖れず前に出る」サッカーを実現することはできる。しかし同時にこのシステムは、能動的な姿勢を手放すことで、5バックのベタ引きで相手の攻撃を耐え忍ぶという、受動的かつイタリアサッカーの伝統的価値観と親和性が高い振る舞いに「逃げる」ことを可能にする。その点において、受動的5バックはイタリアの監督たち(代表においてはガットゥーゾに特に顕著だった)にとって「ライナスの毛布」のようなものだった。あえて極論すれば、ベタ引き5バックという選択肢をオプションとして持っていること自体が、前回のマンチーニ体制末期からスパレッティ、そしてガットゥーゾに至る代表監督たちにとって、1つのジレンマになっていた。
今のマンチーニも、3バックそのものを否定しているわけではない。しかしそれはあくまで能動的でアグレッシブな姿勢を保つことが前提であり、最終ラインの枚数にかかわらず、その前提を手放す意思を持っていないことは明らかだ。困難に陥った際の「逃げ場」として受動的5バックに引きこもること自体を拒否する。そのように「海賊船」の旗を明確なアイデンティティとして掲げたこと自体、イタリア代表の未来にとっては大きな一歩だと言っていい。
ベルギー戦の完敗からトルコ戦の大勝へ。戦術修正で見つけた「解」
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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