87歳女性、70年暮らした賃貸住宅から強制退去 観光大国スペイン

スペインの首都マドリードのレティーロ公園(2023年7月11日撮影)。(c)Thomas COEX/AFP

【AFP=時事】スペインの左派ペドロ・サンチェス首相は23日、87歳の年金生活者の女性が首都マドリードの70年暮らした賃貸住宅から強制退去させられたことについて、「容認できない社会的悲劇だ」と非難した。同国の深刻な住宅危機を象徴するショッキングな事件として波紋が広がっている。

支援者らによると、マリカルメンさんは、ユネスコ世界遺産に登録されているレティーロ公園に隣接するレティーロ地区の賃貸住宅に70年にわたって暮らし、家賃を滞納したことは一度もなかった。

マドリード賃借人組合によると、この賃貸住宅を買い取って新大家になった不動産会社が家賃を一気にそれまでの3.75倍の月額2650ユーロ(約48万円)に引き上げたことを受け、マリカルメンさんは同社と長年にわたり法廷闘争を続けてきた。

最高裁判所まで争われたが、最終的に不動産会社側の主張を認める判決が下され、退去への道が開かれた。

23日朝、マリカルメンさんの自宅周辺に集まり、「人間の鎖」を作って立ち退きを阻止しようとした活動家が警官隊に排除された。強制退去に抗議する人々は「恥を知れ!」と声を上げた。

普段車椅子を利用しているマリカルメンさんは、医療従事者らによって担架を使って救急車に乗せられた。集まった何百人もの抗議者からは「マリカルメン、あなたは一人じゃない!」との大合唱が巻き起こった。

国連総会に出席するため米ニューヨークを訪問中のサンチェス首相は現地で記者会見に応じ、「これは容認できない社会的悲劇だ」と述べ、中道右派(保守派)の国民党が政権を握るマドリード州政府およびマドリード市当局の役割を厳しく批判した。

人権団体アムネスティ・インターナショナルのスペイン支部は声明で、「人権侵害だ」「マリカルメンさんの居住権よりもハゲタカファンドの投機的利益を優先させるシステムだ」と批判。

「これは決して特殊な事例ではなく、スペイン全土の何千もの世帯が直面している苦痛の写し絵にすぎない」と強調した。

スペイン公共放送RTVEのインタビューに応じたマリカルメンさんは、不動産会社を「金儲けのためだけに動く非人間的な存在だ」と非難。さらには「(いつ追い出されるか分からない)首元にマチェテ(大型の山刀)を突きつけられたような状態で、人を7年間も生活させるなんて許されない」として、中央政府、州政府、市当局の対応を批判した。

サンチェス首相は、こうした理不尽な強制退去を防ぐために「絶対必要な」住宅関連法案の可決は、自身が率いる左派少数与党と右派野党の「共同責任」だと語り、賃借人保護の強化を呼び掛けた。

他の欧州連合諸国と同様に住宅の供給不足と急激なインフレ・家賃高騰が続くスペインにおいて、住宅問題は長年にわたり国民の最大の関心事となっている。

世界第2位の観光大国であるスペインでは、米民泊仲介大手エアビーアンドビーなどによる民泊の急増が地元の家賃をつり上げ、賃貸住宅の供給を圧迫しているとして市民の不満が爆発しており、バルセロナなどの人気観光地では観光に抗議する大規模なデモが頻発している。
【翻訳編集】AFPBB News

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