VWイルティスに敗れたゲレンデが、10年越しにドイツ連邦軍の正式装備へ返り咲いた

いまや高級SUVの代名詞となったメルセデス・ベンツ「Gクラス」。その血統の源流には、ドイツ連邦軍が“Wolf(ヴォルフ)”と名付けた軍用車がある。ベースは民生用のゲレンデヴァーゲンだ。ところが採用への道は平坦ではなかった。一度はコンペで敗れ、それでも10年後に正式装備の座を勝ち取る。ミリタリースペックに惚れ込んだオーナーを取材した。

メルセデス・ベンツ「250GD Wolf」はドイツ連邦軍のコンペに一度敗れていた

Gクラスのオーナーには、軍用由来の血統に強く惹かれる人が少なくない。ここで取材したのは、その魅力の源泉とも言える1台、ドイツ連邦軍の軽多用途支援車両であるメルセデス・ベンツ「250GD Wolf」だ。

物語の発端は1970年代初頭にさかのぼる。当時ダイムラー・ベンツの株主でもあったイランの君主、ムハンマド・レザー・パフラヴィー氏が、国境警備隊および狩猟用の車両開発を要請した。同じころ、ダイムラー・ベンツはオーストリアのシュタイアー・ダイムラー・プフ(現マグナ・シュタイアー)と1972年にオフロード車の共同開発で合意する。この流れのなかで、ドイツ連邦軍の補給部隊が求める要件に沿って、ゲレンデ(オフロード)車両のコンセプトが固まっていった。

1974年から1975年にかけて、ホイールベースやエンジン出力の異なる試作車が数多くテストされた。しかし1976年、ドイツ連邦軍は主にコストを理由に、フォルクスワーゲン・イルティスを新型の乗用オフロード車として採用する。ゲレンデは本国の軍用コンペに一度敗れたわけだ。

民生用から始まったゲレンデが世界の軍で採用された経緯

敗れたダイムラー・ベンツは、Gを民間市場へ投入する道を選んだ。生産拠点はオーストリアのグラーツに置かれ、ダイムラー・ベンツとシュタイアー・ダイムラー・プフの協力のもと、ゲレンデヴァーゲンファーツォイグ・ゲゼルシャフト(GFG)が設立された。棲み分けとして、ボディーとシャシーをシュタイアー・ダイムラー・プフが、エンジンやトランスミッション、アクスルをメルセデス・ベンツが担い、組み立てをGFGが受け持つ体制が組まれた。

民生車として1980年ころに歩みだしたGは、その後、各国の軍からも注目を集める。1982年にはフランス軍向けにプジョーとのライセンス生産が決まり、プジョーブランドの「P4」として軍用車初採用が実現した。以降、NATO加盟国のギリシャで240GDのライセンス生産、ノルウェーやデンマークでもゲレンデヴァーゲンの軍採用が進んでいく。そして本家ドイツ連邦軍がVWイルティスの後継としてWolfを正式採用したのは1989年からと、随分あとになってからだった。

Wolfもグラーツで手作業により組み立てられ、生産ラインが1日に送り出す台数はわずかだ。ほぼすべての部品が修理・再生可能な状態に保たれ、軍用として100万マイル(約160万km)の走行に耐える設計とされる。Wolfをはじめとするゲレンデは世界で60カ国を超える軍で日々活躍しており、ドイツ連邦軍だけでも1万2000台以上が納入された。

250GD Wolfの特徴は防空ライトやヘリ空輸装備などミリタリー専用装備

250GD Wolfの真骨頂は、軍用に特化した装備の数々にある。まずボディ横に設けられた航空輸送用のラッシングポイント(荷物を固定するためのベルトなどを取り付ける固定箇所)。リアタイヤ後方左右のラッシングアイと、フロントアンダーパネルから突き出た2カ所の牽引フックの計4点にハーネスを掛けることで、ヘリコプターによる外部積載輸送が可能になる。1989年以降のドイツ連邦軍採用車には、着脱式の折りたたみルーフと、新設計の2.5リッター5気筒ディーゼルエンジンが与えられた。

Wolfならではの機構が、前側へ倒せるフロントウインドウだ。ダッシュボード両サイドにレバーが備わり、ボンネット上には窓枠を固定するゴム製ホルダーが2つ並ぶ。灯火管制用の防空ライトも装着される。暗闇で隊列を組む際は、中央の電球が白い十字にうっすらと光り、後続車のドライバーがそれを目印に走行する。テールランプは純正位置のさらに外側に丸型の独自形状で配され、上にブレーキ灯と赤色灯、中央にウインカーを備える。故障中や牽引中などを知らせる識別用の旗を掲げるポール穴も用意されている。

取材車の心臓は、本来のOM602 2.5リッター無過給ディーゼルから、同じ2.5リッターのディーゼルターボへ換装されていた。純正の無過給OM602は94ps前後という控えめな出力だ。

車重は約2.7tにおよぶため、シフトにはリバースの下に1速のさらに下を示す“スーパーロー”が備わる。オーナーは、この重量と非力なエンジンにこそ必要なギアだと語る。デフロックは前後ともに装備される。国によってはリアのみの仕様もあるなか、ドイツ連邦軍車は前後デフロックを標準とした。装着タイヤは225/75R16。指定空気圧とみられる数字が、各タイヤハウス上部にペイントされていた。

250GD Wolfの内装は軍用に徹したライフルマウントや水抜き栓が残る

室内も軍用車ならではの割り切りが貫かれている。フロントシートはカーキ色で、ヘビーデューティーな使用に耐えるビニールレザー張りだ。リアもフロントと同じ独立式の2座で、シートベルトはリアのみ2点式となり、定員は4名となる。前席と後席のあいだには、G3アサルトライフル4挺、もしくはG36折りたたみ式ライフル2挺を収められるライフルマウントが設けられている。マウントは金具で固定される蓋を兼ね、その下は物入れだ。後席の足元にも金属製の収納がある。

ダッシュボードは一見するとW460などと共通に映る。ただし民生の230GEでは助手席側Aピラーに付くマップライトが、ウインドウを倒す構造ゆえダッシュボード中央寄りのステーに移されている。前席の左右足元には、室内に水が侵入したときのための水抜き栓まで用意される。取材時、オーナー自身の手で簡素な内張りが外されており、Wolfの素っ気ないまでの機能性が露わになっていた。荷台の床面はレールのあいだに木製の板が敷き詰められている。燃料携行缶にはカバーが掛けられ、不純物の混入や盗難を防ぐため厳重な錠前でガードされていた。

一度は本国のコンペに敗れながら、世界を巡って評価を高め、最後は生まれ故郷の軍へ返り咲いたWolf。その履歴を知るオーナーは、装備の一つひとつに宿る意味を丁寧に読み解きながら、この無骨な相棒と向き合っている。派手さとは無縁の軍用車に惚れ込む姿勢こそ、Gクラスという文化の根っこにあるものだと感じさせる1台である。

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