失業中の若者はゴキブリだと!?憤りからインドに「政党」誕生   その名もゴキブリ人民党、医学系大学入試不正で教育相の辞任要求

失業中の若者はゴキブリだと!?憤りからインドに「政党」誕生   その名もゴキブリ人民党、医学系大学入試不正で教育相の辞任要求

 ゴキブリは祖先に当たる昆虫を含めると3億年以上前に誕生したとされ、恐竜より古い歴史を持つ。日本ではすっかり忌み嫌われる生き物の代表格になってしまっているが、インドであえてこの名前を冠した団体が注目を浴びている。
 その名も「ゴキブリ人民党(CJP)」。5月の旗揚げ時にはインターネット上で存在感を示していたが、6月以降は創設者や支持者たちが「リアル」の集会を開催し、教育相の辞任を声高に要求するようになった。
 ゴキブリは頭から生えている2本の長い触覚をアンテナのように使い、空気の振動を感じ取ったり、周辺にあるものとの距離を測ったりしているという。ゴキブリの党は時代の空気をどう読み取り、どう動こうとしているのだろうか。(共同通信ニューデリー支局 岩橋拓郎)

▽侮辱発言から誕生

 きっかけはインドのカント最高裁判所長官による侮辱発言だった。

 カント氏は5月15日、法廷でのやりとりの中で、仕事のない若者を「ゴキブリ」や「寄生虫」に例えた。これに怒ったのが、アメリカ在住のインド人男性アビジート・ディプケ氏(30)だ。翌日、「パロディー」として架空の政党であるCJPを立ち上げた。

 名称は、モディ首相率いる政権与党、インド人民党(BJP)をまねた。公式サイトでは怠け者や失業者のための政党とうたい、本部は「Wi―Fiが使える場所」。交流サイト(SNS)で「私もゴキブリだ」とのハッシュタグが付いた投稿が拡散し、インスタグラムのフォロワーは2200万超とうなぎ上り。BJPの約940万を抜き去った。公式サイトを通じて「党員」登録した人は140万人に上る。

 注目を集めた背景にあるのがインドの若年層の高い失業率だ。政府によると、昨年の15〜29歳の失業率は9・9%で、都市部では13・6%に上った。侮辱発言に対する若者たちの反発が、CJPのフォロワー数に反映されたとみられる。

▽教育相をロックオン

 ディプケ氏は1995年9月生まれ。インド西部の都市プネでジャーナリズムを学んだ後、渡米してボストン大で広報を研究した。インドの野党でソーシャルメディア担当のボランティアをした経験もある。
 創設時にディプケ氏は「CJPは始まりに過ぎない。若者たちは今の政治体制にうんざりしており、今後さらに多くの若者の組織が台頭してくるだろう」と若年層による「反乱」を予言。早速、今年6月6日にインドの首都ニューデリーで政権に対する抗議集会を開くと告知した。

 要求はプラダン教育相の辞任。5月に実施された医学系学部の大学入試問題が試験前に一部流出した疑惑があり、不正の責任を取るべきだという主張だ。
 約220万人が受けた試験は無効となり、6月に再試験が実施されることになったが、無効を苦にした学生が十人以上、自ら命を絶っていた。
 当初、若者を侮辱した最高裁長官に向けられていた矛先は、教育相に転じられた。

▽炎天下「ゴキブリが来る!」

 アメリカを出発したディプケ氏は抗議集会当日の朝、デリー国際空港に到着した。着いた瞬間に逮捕されるかもしれないとSNSで不安を吐露したこともあったが、大勢の若者が出迎え、身柄拘束の懸念はひとまず杞憂に終わった。

 初の対面形式の集会。ディプケ氏は「平和的な抗議」を訴え、事前に警察署で開催の許可を取得した。集会はニューデリー中心部の観光名所近くの街頭で開かれ、警察官約千人が各所に配備された。周辺はバリケードで封鎖され、入り口には金属探知機が設置。警察が入場者の手荷物検査を行った。

 気温が40度近くに迫る炎天下、若者を中心とした数千人とみられる参加者はゴキブリを模したお面をかぶり「ゴキブリが来る! プラダン(教育相)は去る!」と気勢を上げた。ディプケ氏は演説で「この国の若者たちは何も恐れず闘うだろう」と鼓舞した。

 大学入試を受けたニューデリー在住の男性(20)は「モディ政権になって経済格差は拡大し、宗教間の分断は深まった。公平な試験もできず、ほころびが生じている」と批判した。CJPはこうした不満を抱く若者たちからの求心力を高めていった。

▽政権は静観か

 CJPはその後、プネや北部ラクノー、南部ハイデラバードなど主要な都市でも抗議集会を開催。6月20日にはニューデリーで再び大規模な集会を開いた。各回とも大勢の参加者が駆けつけ、「私はゴキブリだ!」と連呼し、侮辱の言葉を団結の合言葉として使った。

 モディ政権への反発が強まる中、政権側はどう対応しているのか。

 CJP発足当初、政権はCJPのX(旧ツイッター)のアカウントは「国家安全保障を脅かす恐れ」があるとして、閲覧を制限して締め付けを強化していた。集会では、治安当局に属するとみられる私服の男性が取材中のメディア関係者に社名や氏名を聞いて回っており、神経をとがらせている様子がうかがえた。
 参加者側には、治安当局が取り締まりに打って出るのではとの懸念も根強かった。
 しかし、実際には目立った強権的な対応は取っておらず、特段の反応も示さず静観する姿勢に転じたもようだ。政権や治安当局が、CJPは放置しておけばそのうち雲散霧消するだろうと踏んだ可能性がある。

 ただ警戒を緩めていない参加者もいる。ニューデリー在住の大学生マナスビーさん(20)は「当局は監視を続け、取り締まりの口実を探しているだろう。この活動はインドの民主主義の強さを試している」と語った。

▽隣国では若者が反乱

 政権側が黙殺を貫く中、CJPは振り上げた拳を下ろすのか。

 抗議集会会場でディプケ氏に今後の方針を尋ねると「若者のためにせめて一度は各政党が協力し合えることを願っている」と語り、一部の野党と既に話し合いをしていると明らかにした。将来的に既成政党と連携する可能性があるという。

 「失業は政府の失敗だ。インドの若者は政府にほとんど期待していないが、皮肉にも風刺を基盤とする運動の中に希望を見いだした」と述べ、「CJPの活動は教育の未来に疑問を投げかけている」と主張。「子どもが医師になる夢をかなえるため多額の借金を抱えた家庭もあり、政府は(自死した学生の)遺族に1千万ルピー(約1700万円)を補償すべきだ」と訴えた。

 ディプケ氏は6月20日の集会以来、路上で寝泊まりする生活を続け、日中は支持者たちと教育相辞任を求めて声を上げている。
 「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を受賞したことがあるインドの活動家ソナム・ワンチュク氏も現場に駆けつけ、ハンガーストライキを始めるなど、持久戦の様相を呈してきた。

 インドの隣国のバングラデシュとネパールでは、それぞれ2024年と2025年に若い世代による反政府デモが起きて政権崩壊につながった。いずれも若年層の失業率が高く、現状に不満を抱いた若者たちが発火点となった。
インドでの若者たちの行動は支持を広げて「ゴキブリ」のような生命力と繁殖力を持ちうるのか、それとも政権に駆除されてしまうのか。CJPの生存戦略と政権の対応が試される。

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