物価上昇が続くなか、自動車メーカーも価格を抑えた車両の提供を迫られている。とりわけ平均価格が5万5,000ドル(約890万円)に達する電気自動車(EV)メーカーにとって、この課題はより切実だ。
そうしたなか、米国で最も新しく、最も安価な電動ピックアップトラックが正式発表された。低価格EVの新たな選択肢として注目を集めそうだ。
米ミシガン州の新興自動車メーカーSlate Auto(スレート・オート)が6月24日(米国時間)に正式発表した小型のモジュール式電動ピックアップトラックは、ベースモデルの価格が2万5,000ドル(約400万円)をわずかに下回る。
ただし、標準仕様の装備は最低限にとどまる。パワーウィンドウからスピーカーまで、多くの装備は追加料金を支払わなければならない。
もっとも、装備を極限まで削っただけではこの破格の価格は実現できない。もうひとつの鍵となっているのが、リン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーだ。米国で発明され、中国で完成度が高められたこのバッテリーは、従来のニッケル・マンガン・コバルト(NMC)バッテリーよりも低コストで製造できる。
EV価格を引き下げようと、Slate Auto以外にも、米国でこれまであまり主流ではなかったLFPバッテリーを採用するメーカーが現れ始めている。そして皮肉なことに、米国でLFPバッテリーが広がり始めた背景には、中国と米大統領ドナルド・トランプの双方の存在がある。
LFP採用の壁だった税額控除
Slate Autoは当初、LFPバッテリーを採用する予定ではなかったと、EV専門ニュースサイト「InsideEVs」は6月24日に報じた。その理由は単純だ。2022年、米連邦議会は包括的な気候変動対策法を成立させ、新車のEV購入者を対象に最大7,500ドル(約122万円)の税額控除を創設したからだ。
控除を満額受けるには、米国内で組み立てられ、さらに将来的には米国または同盟国で調達した材料を使って製造されたバッテリーを搭載する必要があった。とりわけ重要なのは、新たな制度が、ロシア、イラン、北朝鮮、中国といった「懸念される外国事業体(foreign entities of concern)」に由来する材料の使用を事実上避けるよう求めていた点だ。
Slate Autoを含め、低価格EVを目指すメーカー各社はこうした要件を前提に車両開発を進めていた。
こうした税額控除の要件のもとでは、LFPバッテリーの採用は難しかった。LFPの電池への応用は米国の研究者らによって見出されたが、西側諸国や中国以外のアジアの電池メーカーは、よりエネルギー密度が高く、航続距離を伸ばしやすい別の電池材料へと軸足を移していった。
一方、中国メーカーは航続距離で不利になるという弱点を受け入れる代わりに、低コスト化と安全性の向上というLFPの利点を重視した。
中国では、BYD(比亜迪)やCATL(寧徳時代新能源科技)をはじめとするEV大手が、LFPバッテリーを軸とする強固なサプライチェーンを構築してきた。LFPの正極材(カソード)の製造だけでなく、バッテリーに必要な原材料の採掘や精製から各種部材の製造までを手がけている。
ロンドンの調査会社Benchmark Mineral Intelligenceによると、現在、LFP正極材の97.8%は中国で生産されている(正極材全体でも約85%が中国で生産されている)。
だが米自動車メーカーは、税額控除制度が発表された後も、LFP技術に関心を示し始めていた。例えばフォードは、CATLと提携して米国内でLFPバッテリーを生産する計画を打ち出した。ただし、税額控除の対象となるかどうかを踏まえながら、コストと性能のバランスを慎重に見極める必要があった。

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