〔特集〕国宝「那智瀧図(なちのたきず)」の謎を追って 那智瀧(なちのたき)を描く 【11人の画家による誌上競作展】 この4月、現代の11人の画家が描く「那智瀧」の展覧会が開かれた。開催地はまさに那智瀧をご神体とする熊野那智大社。神社として初の美術展となるだけでなく、絵のジャンルを超えて画家たちが自発的に開催する展覧会であることも注目される。那智瀧を描いた絵といえば、鎌倉時代の超名品、国宝「那智瀧図」。何かと謎が多く圧倒的な存在感を放つこの作品と対峙しつつ那智瀧に挑む画家たちの思いに迫った。
・特集「那智の瀧を描く」の記事一覧はこちら>>> 画家の目で見た「那智瀧図」と那智瀧
那智瀧とは何か
篠田教夫 × 塩谷亮
画家にとっての那智瀧とはどういった存在なのか。今回の展覧会の発案者である篠田教夫さん、また実現に向けて奔走した塩谷 亮さんの二人の画家に語っていただいた。
見えない月が暗示する向こう側の世界 
塩谷 初めて「那智瀧図」を見たときに感じたのですが、離れて見ると白い刀のような形が浮かび上がっていて抽象絵画のようです。近くで見てやっと、これは自然の風景だとわかる。台形から富士山を思い浮かべるのと似たような記号性を感じるんです。そぎ落とせるものが何もない限界の造形で、これを超えることってできるのかなと思ってしまう。我々だと、ここに霧とか水しぶきを表現しようとか、空間の装飾を考えてしまいますが、まず平面としての抜群の強さがあるんですよね。余計なものが一切ない。


篠田 描かれてから700年は経っていて、かなり退色していると思いますが、瀧の白は胡粉でしょうか、そこだけが残ってやたら鮮やかな印象ですよね。
塩谷 剝落の感じも美しいんですよ。
篠田 絹本に金泥が入っていますからね。かなり神々しい宗教画だったんでしょうね。熊野那智大社の隣にある天台宗のお寺、青岸渡寺のご住職が三重塔の上から見ると「那智瀧図」に似たように見えるとおっしゃっていました。
塩谷 でも全体は見えないんですよ。この角度で見たくて山にも登ったんですけど、この絵のようには見えなかった。瀧の下が見えないですからね。
篠田 「那智瀧図」には月が描かれていますが、なぜ山に月がかかっているのか。
塩谷 角度的にはここに月は出ないんですよね。
篠田 出ない。当時だって月は向こう側にかからないはずなのだけれど、あえて作者は月を描いた。これはたぶん満月なんです。
画家の感性を刺激する那智瀧 塩谷 満月の上が見えている状態ですね。
篠田 何の目的で描いた絵かわかりませんが、この月の意味は、西方浄土あるいは観音霊場の向こう側へ行くという意味合いだと僕は解釈しています
WACOCA: People, Life, Style.