欧州サッカー界で存在感を高める日本企業・投資家。その潮流の中で、オランダ2部(エールステ・ディヴィジ)のMVVマーストリヒトを共同保有する出島フットボール(Deshima Football Consultancy B.V.)が、新たな動きを見せている。2024年10月にオランダで設立された同社は、日本サッカーの人材育成を目的とした欧州拠点の構築を掲げており、その取り組みの一環として、2026年8月にユース国際大会「MVV Maastricht Cup」を初開催する。立ち上げから事業を担う飯塚晃央執行役に、現場の実態と構想を聞いた。

欧州と日本をつなぐ「出島」という構想

20260423-MVV Maastricht Football HUB_3©Deshima Football Consultancy

出島フットボールを率いる利重孝夫氏(写真右、左は飯塚氏)は、楽天でスポーツ事業参入を手掛け、シティ・フットボール・グループ日本法人代表などを歴任してきた、日本スポーツビジネス界のキーパーソンだ。飯塚氏にとっては、新卒で入社した楽天の最終面接官でもある。

飯塚氏はベルギー1部シント=トロイデンVV(STVV)でCFOを務めた後、KMSKデインズの運営プロジェクトに参画。しかし同プロジェクトの終了に伴い進退を検討していたタイミングで、利重氏から声がかかったという。

「デインズの件でどん底にいた時に、出島フットボールから『一緒にやろう』と声をかけてもらいました。日本に戻る選択肢もありましたが、ワールドカップで優勝したい、そのためにここで踏みとどまって日本サッカーのために働き続けようと考えました」

社名の由来は、江戸時代に日本の対外窓口だった長崎の「出島」。同社が掲げるのは、欧州クラブ経営の現場を活用した“人材のハブ”機能だ。選手や指導者に限らず、フィジオや強化スタッフ、さらにはビジネス人材まで含め、日本人が欧州で実地経験を積める環境を構築する。その中核としてMVVマーストリヒトを位置づけている。

「人材」と「育成」のハブへ──ユース国際大会を開催

20260423-MVV cup©Deshima Football Consultancy

オランダでは非EU選手に対する年俸基準が高く(20歳以上で最低約60万ユーロ/約1億円)、日本人選手のチームでの獲得には一定の制約がある。このため出島フットボールは、移籍ビジネスに依存せず、ユース年代を軸に据えた育成・交流モデルを志向する。2025年10月に「MVV Maastricht Football HUB」を立ち上げ、本格的な事業をスタートさせた。

その象徴となるのが、来たる8月に開催される「MVV Maastricht Cup」だ。欧州のクラブユース(U-18)と、日本のU-17選抜が対戦するエリート大会として設計されている。参加予定チームは、ビジャレアルCF、AZアルクマール、FCユトレヒト、ロイヤル・アントワープFC、NECナイメヘン、STVV、そしてMVVマーストリヒト、U-17日本選抜の計8チーム。日本選抜は全国の高校・クラブユースから編成される見込みだ。

飯塚氏はこの大会の位置づけを明確にする。「欧州のスカウトに対して、日本の若い選手が自分を示せる“ショーケース”にしたい。単発ではなく、5年、10年と継続することで、日本と欧州をつなぐ場にしていきたいと考えています」。

同時に、「MVV Maastricht Football HUB」を拠点とした人材育成も進む。大学院生のインターン受け入れや、副業人材の参画、さらには国立北海道教育大学岩見沢校との共同プログラムなど、アカデミック連携も拡張中だ。将来的にはマーストリヒト大学との連携による留学・インターン一体型モデルの構築も視野に入れる。

問われる「ビジネスとしての強度」

欧州における日本人選手の評価は、明確に変化している。その転機として飯塚氏が挙げるのが、2022年のカタール・ワールドカップだ。

「スペイン、ドイツに勝利したインパクトは大きかった。クオリティの高さが証明され、以降はあらゆるカテゴリーで日本人選手の移籍が増えています」

一方で、構造的な課題も指摘する。

「日本サッカーに不足しているのは、ビジネスとしての“強さ”です。選手の質は高いが、それを市場価値に転換し、交渉で主導権を握る力がまだ十分ではない」

特に育成年代の選手は、欧州クラブから見れば依然として“割安な投資対象”である側面が残る。高校年代では契約構造の違いもあり、移籍金が発生しにくいケースも少なくない。

「海外流出は止められない流れです。ただ、その中で日本側がトレーニング補償や育成費をどう確保するか。そこには明確にビジネスの視点が必要になります」

「出島」が示す次のハブ

欧州でのクラブ運営と人材育成を結びつけ、日本サッカーに還元する──出島フットボールの取り組みは、その両輪を回そうとする試みだ。欧州在住の日本人サッカー好きが集まってサッカー談義をすると、やはりその先に「2050年日本代表ワールドカップ優勝」という目標が自然に語られるという。

飯塚氏はいう。「日本は“2050年優勝”という共通目標を持っている。それをサッカー関係者の誰もが本気で信じていること自体が強みだと思うんです」。クラブ強化とビジネスを結びつけ、欧州と日本サッカーとの持続可能なサイクルを実現する。その一つの具体策として、「出島」というハブは機能し始めている。

◎MVV Maastricht Football HUB
◎MVV Maastricht Cup大会情報
開催日:2026年8月15日(土)・16日(日)
会場:8/15:Maastricht Sportspark West 8/16:Stadion Guesselt
参加年代:2009年生まれ以降。日本における高校2年生年代・U17年代以降/欧州におけるU18年代以降
参加チーム:U17日本選抜チーム 、ビジャレアルCF、AZアルクマール、FCユトレヒト、ロイヤル・アントワープFC、NECナイメヘン、STVV、MVVマーストリヒト
公式サイト(準備中) / 公式Instagram / 公式X

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