4月25日から群馬県立館林美術館で、「熊田千佳慕の世界 ~愛するからこそ美しい~」が開催されます。会期は6月28日まで。花や昆虫、動物たちを細密に描き、「プチ・ファーブル」とも称された熊田千佳慕(1911–2009)。その世界を紹介する本展では、熊田が手がけた『ファーブル昆虫記』シリーズをはじめ、『みつばちマーヤの冒険』や『ふしぎの国のアリス』などの挿絵作品を紹介します。加えて花や虫、妖精たちが織りなす幻想的な作品も展開。約180点の原画が一堂に会する大規模な回顧展です。
熊田千佳慕の世界 ~愛するからこそ美しい~
会場:群馬県立館林美術館 展示室2~4(群馬県館林市日向町2003)
会期:2026年4月25日(土)~6月28日(日)
開館時間:9:30~17:00 ※入館は16:30まで
休館日:月曜日(5月4日は開館)、5月7日(木)
入館料:一般850円)、大高生420円
問い合わせ先 0276-72-8188(群馬県立館林美術館)
詳しくは公式サイトへ
小さな命に寄り添い続けた画家のまなざし
花や昆虫、動物を丹念に描き続けた熊田千佳慕は、幼少期に親しんだ自然の観察を原点に創作を深めていきました。工業学校でデザインを学び、20代にはグラフィックデザインの仕事に携わったのち、戦後に絵本の世界へと転じます。「小さな人たちにこそ美しいものを」という思いのもと、『ふしぎの国のアリス』などの挿絵を手がけました。
物資の乏しい時代に画家として歩むことを決意した千佳慕は、対象をよく観察し、絵具をわずかに重ねていく独自の技法を貫きます。その集大成ともいえるのが『絵本ファーブル昆虫記』のシリーズです。1981年にはボローニャ国際絵本原画展で入選、喜んだ千佳慕は70歳が自身の「ルネサンス」だと語りました。自然と向き合い続けたその姿勢は、晩年まで変わることはありませんでした。
「J.H. ファーブル展」の会場でファーブルの帽子をかぶって顕微鏡をのぞく熊田千佳慕(1989年) ©Chikabo Kumada
自然は愛するからこそ美しい
本展では、『ファーブル昆虫記』をはじめ、『みつばちマーヤの冒険』などの絵本原画に加え、花と虫だけでなく、妖精を描いたファンタジー作品までの約180点を一堂に紹介し、細密でありながら温かなまなざしに満ちた世界を、丁寧にたどる構成となっています。
『ファーブル昆虫記』より「リラの花まつりとキンイロハナムグリ」1978-1988 年 ©Chikabo Kumada
また、千佳慕が残した言葉にも注目しながら、その創作の背景にある思想にも光を当てます。「自然は愛するからこそ美しい」という信念のもと、虫と同じ目線に立ち、地面に這いつくばるようにして観察を続けたその姿勢からは、自然への深い愛情を感じることができます。
『みつばちマーヤの冒険』より「マーヤのゆめ」1993-1996年 ©Chikabo Kumada
本展の見どころ
17年ぶりに振り返る、熊田千佳慕の画業
熊田千佳慕の大規模な回顧展が開催されたのは、2009年が最後となります。全国巡回が予定されていたその展覧会は、初会場での開幕直後に千佳慕が98歳で亡くなったことで、大きな節目として記憶されることになりました。以来17年ぶりの開催となる本展では、『ファーブル昆虫記』の原画をはじめとする約180点の作品を通して、長い画業をあらためてたどります。
『ふしぎの国のアリス』装丁 1953年5月刊行 ©Chikabo Kumada
『オズの魔法つかい』より 1953-1955年 ©Chikabo Kumada
作品と言葉で味わう、自然へのまなざし
「自然は愛するからこそ美しい」という言葉に象徴されるように、千佳慕が見つめ続けたのは、ただの写実ではなく、命への深い敬愛でした。本展では、作品とともに残された言葉にも光を当て、その創作の背景にある思想をひもときます。
「北極の動物たち」1968-1975年 ©Chikabo Kumada
《ミャーン》1976-1988年 ©Chikabo Kumada
体験を通して広がる千佳慕の世界
本展会場では、千佳慕が残した鉛筆デッサンを使ったぬり絵コーナーが設けられるほか、群馬在住の画家、渡辺香奈氏を講師に迎え、自然を観察して描くワークショップも開催されます。細密に描かれた世界に触れるだけでなく、自ら「見る」ことの楽しさを体験できる内容です。
《春の草原》1968-1975 年 ©Chikabo Kumada
小さな命に寄り添い、見つめ続けることで生まれた熊田千佳慕の作品。その繊細な描写の奥には、自然への深い敬愛が息づいています。作品とともにその視線をたどる本展は、私たち自身の「見る」という行為をあらためて問いかける機会となるでしょう。会場にて、静かに広がるその世界に目を凝らしてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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