※【連載】サラリーキャップ/連帯と改革の狭間①はこちら。

 サラリーキャップ制度を巡る『レキップ』紙の追及と、それに対するスタッド・トゥールーザンの反論は激しさを増していく。

 同紙がクラブ側弁護団の主張を逐一論破し、さらにアントニー・ジュロンの契約に関する「覚書」という裏書類の存在を具体的に報じたことで、疑惑は一気に信憑性を帯び始めた。この一連の追及に対し、スタッド・トゥールーザン側は、法的に「攻め」の姿勢へ転じる。

 この記事の掲載直後、スタッド・トゥールーザンは危機管理コミュニケーション会社「ヴェ・ソリス(Vae Solis)」を介して、以下の声明を発表した。

「2026年2月17日付の『レキップ』紙に掲載されたフレデリック・ベルネス記者の記事、『スタッド・トゥールーザンは、3S-アリジア社とデュポンの契約をサラリーキャップ・マネージャーに対して隠蔽していたことを認め、罰金を支払った』を受け、スタッド・トゥールーザンは名誉毀損で告訴することを発表する。クラブは、当該記事の中でなされた告発内容に対し、正式に異議を唱えるものである。本件に関する詳細な情報については、近日中に改めて提示する予定である」

 2月19日、スタッド・トゥールーザンは改めて『レキップ』紙を名誉毀損で提訴することを発表した。クラブ側は「本手続きに関する透明性を確保するため」として、事態の詳細を明確にしている。

 スタッド・トゥールーザンは、2023年の調停手続きにおいて「3S-アリジア社とアントワンヌ・デュポンの間の契約をサラリーキャップ・マネージャーに対して隠蔽していたことを認めた」という同紙の主張を「虚偽である」と断じた。クラブは声明の中で、サラリーキャップ・マネージャー自身が作成した2020-21年度および2021-22年度に関する報告書を引用し、「マネージャーは当該契約の存在と金額を完全に把握していた」と断言。さらに次のように付け加えた。

「争点は、いわゆる隠蔽などでは決してなく、解釈の相違にあった。すなわち、LNRの規定に照らし合わせ、3S-アリジア社を『関連当事者』とみなすべきか否かという法的な定義の問題である。したがって、隠蔽の事実は存在しないし、当然ながら、そのような隠蔽を認めたという事実も一切存在しない」

 一方でスタッド・トゥールーザンは、「サラリーキャップの原則そのものに異議を唱えているのではなく、その中の特定の規定が果たして合法的かつ整合性が取れているのかを問い直しているのだ」と主張している。
「選手がスポーツ活動以外で行った肖像権契約や役務提供の対価として、第三者企業から直接受け取る報酬を、クラブが支払う給与と同等とみなすべきだろうか。現行の規定は、パートナー企業から支払われるこれらの報酬を、自動的に競技上の給与として扱っている。我々が議論の対象としているのは、この『機械的な同一視』の是非についてである」

 そして、声明は力強い言葉で締めくくられている。
「スタッド・トゥールーザンは、意見の対立する議論を拒むことは決してない。しかし、当クラブが以前よりLNR内部で提起してきた議論を歪曲するために、不正確な事実が提示されること、そして根拠のない主張に基づいてクラブの誠実さが公に疑われることは、断じて受け入れられない。今回開始した法的措置は、もっぱら事実の真実を認めさせ、クラブとその選手たちを守ることを目的としたものである」

 2月21日、『レキップ』紙はスタッド・トゥールーザンの声明に対し、さらなる事実を突きつける形で再反論を展開した。
「2021-22シーズンに関してリーグとの調停手続きに入ったこと、それが3S-アリジア社とアントワンヌ・デュポンの契約に関するものであったこと、そしてクラブがその結果として規定違反を認め、20万ユーロ規模の罰金を支払ったこと。スタッド・トゥールーザンの声明は、我々の報じたこれらの核心部分に対して一切の異議を唱えていない。つまり、反論の余地がないことを自ら露呈しているのだ」

スタッド・トゥールーザンのディディエ・ラクロワ会長。2024年、チームのInstagramが誕生日を祝う

 さらに、同紙は新たな裏付け情報を公表した。
「2021年12月の時点で、スタッド・トゥールーザンのディディエ・ラクロワ会長、3S-アリジア社の顧問弁護士であるブレリ氏、そして選手の代理人の三者の間で密接に連絡が取り合われていたことを示す複数の電子メールが存在する。事実、ジュロンの契約書には、2022年1月から同社より総額17万ユーロ(約3145万円)の報酬が支払われることが明記されている」

 これらの電子メールは、同紙が2月17日の記事で暴露したラクロワ会長とジュロンの署名入り「覚書」の内容を、実務レベルで裏付ける延長線上のものであると見られている。

 また、スタッド・トゥールーザンが「サラリーキャップ制度の原則を疑ったことなど一度もない」と強調している点に対しても、『レキップ』紙は真っ向から反論している。
「スポンサー、サービス提供者、サプライヤーといった『クラブの関連当事者』から選手が受け取る金銭や利益をサラリーキャップの対象外にしようとすることは、制度の原則そのものを否定することに他ならない。それどころか、制度を管理不能に陥らせ、その存在意義を根底から無効化しようとする試みですらある」

 さらに、同紙は近年の不正事例を引き合いに出し、こう続けた。
「近年発覚し、処分の対象となった悪質な規定逃れの大部分がどこに起因しているかを見れば、一目瞭然である。それらはすべて、本体の契約に付随する『肖像権契約』や、サラリーキャップ・マネージャーに報告されていなかった『当事者間の署名入りの覚書』から生じている。今回のジュロンの件は、まさにその現実を裏付ける新たな実例となるだろう」

 3月11日、LNRが声明を発表した。ヤン・ルベール会長は、スタッド・トゥールーザンの弁護団から、サラリーキャップ規定における複数の条項の根本的な修正、および撤廃を求める書面を受け取ったことを明らかにした。

「この制度の見直し要求は、監視機関の独立性、クラブのパートナー企業から選手へ支払われる報酬の算入、移籍金の給与枠への統合、そして透明性に関する特定の義務に関わるものである。同書面の中でクラブ側は、現行のルールは欧州の大会においてフランスのクラブに不利に働き、競争を歪める可能性があると主張している」

 もっとも、欧州チャンピオンズカップの直近5大会は、すべてフランスのクラブが制覇しているのだが。

 LNRはさらに、提訴という動きを認識した上で、冷静かつ毅然とした態度で現行の枠組みを死守する姿勢を鮮明にしている。
「サラリーキャップ制度の正当性は、過去に司法の場ですでに証明済みである。本制度は、競技の公平性とモデルの経済的な持続可能性を保証するために、プロクラブおよびリーグ関係者全員の合意によって選ばれたものであり、この制度があるからこそ、大会はオープンで拮抗したものとなり、観客や放送局、パートナーにとって魅力的なものとなっているのである」

左は2026年1月1日付けのレキップ紙。また、同紙1月18日発売のウィークリーマガジンの表紙はデュポンが飾っていた。ともにレキップのInstagramより

 また、リーグ側は全クラブの合議のもと、制度がむしろ強化の方向に進んでいることを強調した。
「ここ数か月間にわたり、加盟クラブの大多数によって、この制度を長期的に強化・定着させていくという合意が形成されてきた。ルールの実効性を確保し、いかなる規定逃れの試みも阻止するため、2025年6月には勝ち点剥奪などのスポーツ面での制裁も導入されている。さらに2026年2月には、選手の健康保護と競争力のバランスを維持するため、上限額の段階的な引き上げやプロ契約選手数上限の廃止を決定するなど、枠組みはより強固なものとなっている」

 リーグ側はさらに、算入規定の重要性について強く訴えた。
「こうした文脈において、クラブのスポンサーや株主から契約選手に対して支払われる金銭は、引き続きサラリーキャップの算入対象となることが改めて確認された。長年前に導入されたこの規定は、パートナー企業による資金提供を通じた『規定逃れ』を未然に防ぎ、制裁を加えることを可能にするものである。したがって、この規定はサラリーキャップを機能させる上で不可欠な要素なのだ。サラリーキャップとは、バランスの取れた高性能かつ持続可能なモデルを実現するための、クラブ間の連帯に基づく確固たる選択なのである」

 同日、トップ14とプロD2の全クラブ会長が集まる会議が開催された。ルベール会長は席上、出席したすべての会長に対し、スタッド・トゥールーザンから提出された要求内容を通知した。そしてリーグ側は、この要求に対し、明確に「ノー」という回答を下したのである。

 LNRによる強硬な声明を受け、同日、スタッド・トゥールーザンも即座に声明を発表した。
「現在進行中の問題に関する当クラブの立場を、改めて明確にせざるを得ない状況にあります」と切り出し、規定の一部の条項について、関係者の間で長らく激しい議論が交わされてきた事実を明かした。

 クラブは、制度の原則自体には賛成の立場であることを改めて強調しながらも、「具体的な運用方法については、法律や良識に照らしても改革が必要であり、スタッド・トゥールーザンを含む多くの関係者が、かねてよりその実現を強く望んできました」と本題に入った。

 さらに、反論を展開した。
「これまでスタッド・トゥールーザンは、一貫して経済的・スポーツ的な観点から議論することを最優先としてきた。こうした円満かつ建設的な姿勢を保つため、当クラブは、本来であれば司法の場で争うに値した制裁であっても、あえてそれを受け入れてきたという経緯があります」

 これは、「調停で過ちを認めて罰金を支払ったのは隠蔽の証拠ではないか」という『レキップ』紙の主張を、クラブの「大局的な配慮」による譲歩であったと読み替えるものである。

 そして、LNRのサラリーキャップ制度改革について「踏み込んだ集団的議論の場は設けられず、期待されるべき主要な改善は何らなされていない」という現実に直面し、「LNRに改革要求を送付したが、即座に拒絶された」と訴えた。

 声明は、以下の言葉で提訴への構えを新たにし、締めくくられている。
「LNRによるこの拒絶が確定した場合には、司法手続きへ踏み切らざるを得ません。それでもなお、スタッド・トゥールーザンは、冷静かつ厳格で透明性の高い議論の場を設けるよう提案し続けます。それこそが、合法性においても整合性においても疑いの余地がなく、選手の正当な利益とクラブの利益を両立させ、ひいてはフランスのプロラグビー界全体の利益に資すると誰もが確信できるような、新たなルールを定義することに繋がるからです」

 そして3月27日、ラクロワ会長はトップ14とプロD2の全クラブ会長に宛て、4ページにわたる書簡を送付した。

 まず書簡の中で会長は、3月11日の会長会議において激しい論争が巻き起こり、自身が直接的な非難の対象となったことに言及している。その上で、LNR側から自身の書面が正当に共有されているか不透明であるとして、自らその写しを全会長に送付する決断に至ったと述べた。

 ラクロワ会長は、「スタッド・トゥールーザンはサラリーキャップの原則には一貫して賛成である」と改めて強調した上で、あえて改革を求める理由を説明している。
「現行の規定は、一部の運用において違法かつ不合理であると言わざるを得ない。今、改革を断行しなければ、制度そのものが内側から自壊することになるからだ」

トゥールーズの街になくてはならないクラブに厳しい目が向けられている。写真は2023年時。(ジャスラグ編集部)

 この書簡の中で、現行制度が法的・合理的に欠陥を抱えているとして、以下の4つのポイントが挙げられている。

1.
パートナー企業からの収入の合算 :かつては「偽の肖像権契約」による脱税を防ぐため、スポンサーからの支払いをすべて給与と見なすルールを自ら策定したが、時代は変わった。今や選手はSNSで数十万人のフォロワーを持つスターであり、正当に肖像権を収益化する権利を有している。これを一律に「給与」と見なすのは、現代の法曹界の視点からすれば明らかに「違法」である。

2.
移籍に伴う違約金(解約補償金): 選手が前所属クラブに支払う違約金を移籍先のクラブが肩代わりした場合、それをサラリーキャップに含めるのは不合理である。これは「労働の対価」ではなく、実質的な「移籍金」に他ならない。この条項を維持することは移籍金の制限に繋がり、育成クラブ(特にプロD2)が正当な対価を得る機会を奪うだけでなく、ひいてはフランスラグビーの強化をも妨げている。

3.
透明性と協力の義務 :クラブが「知っていること」を誠実に申告するのは当然だが、「知り得なかったこと」にまで責任を負わされ、結果責任で罰せられるのは不当である。著名選手に対し、サラリーキャップとは無関係な私的収入まで報告を強いることは、憲法が保障する「私生活の尊重」を侵害するものであると弁護士も指摘している。

4.
サラリーキャップ・マネージャーの独立性 :スポーツ基本法は監視機関の独立を求めている。しかし、現行のマネージャーはリーグ側と交渉して「調停金」を決定するなど、完全な独立性が保たれているとは言い難い。任期の固定や再任禁止など、一般的な独立性の基準を設けるべきである。

 最後に会長は、現時点ではまだ国務院やスポーツ仲裁裁判所に提訴したわけではないとした上で、「司法の勝利ではなく、ルールの明確化と合法化を求めているに過ぎない」と主張した。しかし、もしリーグ側が対話を拒絶し続けるのであれば、司法の場で争う準備はできているとも示唆している。

 それは実質的な「宣戦布告」であった。

【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大-神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。

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