[17日 ロイター] – バンス米副大統領がイランと合意できないままパキスタンを後にした先週末、中国外務省はロシアのラブロフ外相やスペイン、ベトナム、アラブ首長国連邦(UAE)の各首脳を招く準備を進めていた。
米軍がホルムズ海峡でイランの港への船舶の出入りを封鎖する措置を講じ、イラン側が海峡の安全な通航を保証する対価として暗号資産(仮想通貨)の支払いを要求し続ける中、中国は自らを幅広い国際社会の有力な仲介者として位置づけるための外交努力を強化しつつある。
習近平国家主席がスペインのサンチェス首相との14日の会談で世界が「弱肉強食が支配する状態に戻る」ことへの反対を表明したように、中国こそが国際社会の健全さと安定を提唱する存在だとアピールすることもその外交努力に含まれる。
中国の周辺地域において強硬な軍事的・外交的メッセージを発することもその取り組みの一部だ。日本との間で高まった緊張をさらにエスカレートさせているほか、長年領有権を主張する南シナ海にフィリピン艦船が接近するのを阻止するため艦艇を展開し、2028年の台湾総統選挙をにらんで台湾の野党・国民党を公然かつ積極的に取り込もうとしている。
こうした一連の動きを通じて中国は、密かに、しかし素早く、台湾に関する自らの基本的な公式メッセージを再定義し、さらに重要な点として、将来どのタイミングで行動に出るかの時間軸までも刷新しつつある。
米政府は何年も前から、中国は27年までに台湾侵攻の態勢を整えることを目指して軍事力を強化していると警告してきた。しかし新たな公式メッセージで重点が置かれているのは28年の台湾総統選だ。国民党の勝利が両岸の対立を回避し、関係をより緊密化する道だとの働きかけがかつてないほど熱心に行われている。
台湾で現与党の民進党が再び勝利した場合、中国は対立姿勢を強めることを前提とした構えを固めつつある。具体的には、一方で将来の米国政権に対して台湾を見捨てる方向へ圧力をかけ、もう一方で台湾の今後を巡る日本側の発言を理由として対日関係を根本から破壊しようという姿勢だ。
その理由は分かりやすい。中国政府は公式の場で高市早苗首相について、特に台湾有事が集団的自衛権の行使を可能とする「存立危機事態」になり得るとした昨年11月の国会答弁を非難してきた。
高市政権は日本が核兵器を保有しない方針を堅持すると表明しているものの、中国の政府高官やメディアは、日本が核兵器保有を検討するかもしれないと懸念している。本当に実現すれば、中国がリスクを背負って台湾、あるいは日本を攻撃することがほぼ不可能になる。
ただ、ほとんどの分野では表立っての威嚇ではなく、外交的な地歩固めを進めている。先週大々的に宣伝されたのは、国民党新党首の鄭麗文氏が28年の選挙に勝利した場合、習近平氏を台湾に招く考えを示したことだ。
これに対して民進党は、独自の防衛態勢を整備しつつ、何度も延期されている米中首脳会談の行方を神経質に見守っている。民進党側は、習氏が中東の緊張緩和への協力との交換条件として、米国に台湾支援を弱めるよう迫る可能性を警戒している。
<改善した国際的イメージ>
中国がイラン情勢を巡って実際に何をしているのかは、引き続きはっきりしない。中国政府当局やメディアは、今回の危機で中国がイランに武器を供与したというCNNの報道を強く否定している。別の専門家の分析では、中国はウクライナ戦争でロシアを支援した際と同様に、完成した武器や武器システムを直接渡さず、軍事転用可能な民生品(デュアルユース品)の供給を好むとされている。
トランプ米大統領は、中国がイランへ武器を供与していると確認されれば新たな関税を課すと明言している。一方で、今回の世界的な混乱の責任が「米国にある」と世界が受け止める状況は、中国としては諸手を挙げて歓迎する展開でもある。
実際、中東だけでなくデンマーク自治領グリーンランドなどを巡る米国の振る舞いによって、大半の欧州諸国は対米関係を見直さざるを得なくなった。欧州連合(EU)のカラス外交安全保障上級代表は、中東における米国の行動は「国際システムの破壊という点で、ロシアのウクライナ侵攻に次ぐ要素だ」とまで指摘した。
ただ、それで欧州などが一足飛びに中国と抱擁を交わすかどうかはなお疑問の余地がある。例えば英国は、国連安全保障理事会で議長国のバーレーンが提示したイランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を非難する決議案に対し、中国とロシアが拒否権を行使したことを批判した。
とはいえ、今週トランプ氏が打ち出した米海軍によるホルムズ海峡の「逆封鎖」は、中国などが関係するイラン産エネルギー輸送を阻止することにつながり、以前の対中関税と同じく、結果として中国の思惑通りに事態が進んだように見える。つまり中国が「自由貿易の擁護者」という立場を主張するのを可能にした。
中国の一部論者は、この流れが一層加速すると予測。トランプ政権による派手な動きが注目される一方で、水面下では各国が米国を介さずに自国の死活的利益を確保しようとする全く新しい国際関係の枠組みが形成されるとみている。
中国の国際政治学者の1人は、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報に「中国は平和、発展、主権、対話を一貫して重視してきた大国としてさらに多くの人に受け止められるようになっている。中国に対する懸念が全て消えたというわけではないが、中国が発言すると以前よりも多くの人が注意深く耳を傾けるようになった」と記した。
<野心への警告>
中国が世界に最も学んでほしい教訓は、もし、あるいはいつか中国軍が台湾支配に乗り出すことがあっても、日本や米国がどう動こうとも国際社会は介入すべきでない、という点にある。
多くの国は、米国のイランに対する行動やロシアのウクライナ侵攻に見られる軍事行動が、即座に世界規模の深刻な混乱をもたらすという結論にも達するだろう。ペルシャ湾岸の紛争が引き起こしたエネルギー危機も甚大だが、太平洋で大規模な戦争が発生した場合の供給ショックは、それをはるかに上回りかねない。
米国は今回のイラン攻撃で、昨年6月のイラン核施設空爆と同じく、戦略的に望んだ成果を得たとは言えないかもしれない。しかし米国防総省は他の潜在敵国に対し、中国が実戦では試したことがないレベルの高度で複雑な軍事作戦を遂行できる能力を、なお米軍が保持しているという事実を明示した。
逆に習氏の中国軍に対する信頼性は、最近数カ月から数年にかけて多くの軍高官が更迭されてきた事実を踏まえると、せいぜい「半信半疑」程度にとどまるのではないか。
中国にとって別の大きな問題は、複雑な台湾の政治が中国の望む方向に進むとは限らないということだ。国民党の鄭党首が中国への歩み寄り姿勢を示したからといって、有権者の支持を得られる保証はない。また支持を集められたとしても、鄭氏が掲げる「(両岸)関係改善」は、中国による台湾併合を求める地点には程遠い。
日本の高市政権を国際的に孤立させようとする中国の試みも、今のところほとんど成果は出ていないように見える。米国の将来の政策を巡る不安は、逆に欧州諸国や太平洋諸国を以前にも増して日本や韓国との連携に動かすことを後押ししている。
中国自身、中東情勢にどう対応すべきかいまだ明確な方針を見つけられていない。中国資本や中国船籍のタンカーは断続的にホルムズ海峡を通航できているものの、危機以前の通航量にはとうてい届いていない。また中国が依存する世界的な供給網も既に大きく揺らぎ始めている。
中国は中東での新たな戦争に巻き込まれかねない状況を脱するため、米国との間で何らかの「取引」に応じる必要が出てくるかもしれない。その際にはこれまで機能不全に陥っていた国連の機構を通じてでも、イランに圧力をかけてより多くの船舶の通航を認めさせなければならないだろう。
今回の中東危機は中国にとって確かにチャンスとなったが、世界的超大国を目指す野心にはいくつかの「警告」も発せられた。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


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