軍事・地政学ナナメ読み

深川 孝行

深川 孝行
ジャーナリスト

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2026.4.17(金)

イランとの戦争でホルムズ海峡の“逆封鎖”を開始したアメリカのトランプ大統領(写真:ロイター=共同通信社)

 イランと戦争を始めたアメリカのトランプ大統領は、相手側の予想外の粘り腰に四苦八苦している。ホルムズ海峡の事実上の封鎖という逆襲に遭い、原油・LNG(液化天然ガス)の一大供給ルートが遮断され、世界は大混乱に陥っている。

 両国はパキスタンの仲介で2週間の停戦に合意し和平交渉に臨んだが、隔たりは大きく結局物別れ。第2回協議までの間の「さや当て」とばかりに、トランプ氏は同海峡の逆封鎖を実施。海峡の掃海にも乗り出すなどイラン側を揺さぶっている。

ホルムズ海峡が事実上封鎖される中、オマーン・マスカットの港に停泊するタンカー(写真:ロイター=共同通信社)

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 これだけでも世界中は激震状態だが、トランプ氏はさらに混乱を助長するかのように、「NATO(北大西洋条約機構)からの離脱」を正式に検討し始めた。

「フリー・ライディング」への報復、トランプ氏が突きつけるNATO脱退の衝撃

 国家安全保障の要は、一方的な軍縮や軍拡ではなく、「軍事バランス(均衡)」である。だが、アメリカのNATO脱退は、欧州大陸での西側とロシアとの軍事均衡が崩壊しかねず、最悪の場合、第3次世界大戦に陥る危険性すらはらむ。

 トランプ氏は以前から、NATO加盟国の国防費が少な過ぎると批判してきた。イラン攻撃に際し、米軍への全面支援をNATO加盟国に求めたが、英仏伊独スペインなど主要加盟国は、軒並み突っぱねた。これにトランプ氏は報復として「NATO脱退を正式に検討する」と、今回はかなりの本気モードで息巻いているのだ。

 4月1日、英デイリー・テレグラフ紙のインタビューで、NATO加盟継続の有無を問われたトランプ氏は、「見直しのレベルはもう超えている」と脱退を示唆。「(NATOが)張り子の虎であることは初めから分かっていたし、(ロシアの)プーチン大統領も知っていることだ」と恨み節を炸裂させた。

 この発言に慌てたのはNATOのルッテ事務総長で、8日に急きょホワイトハウスに飛び、トランプ氏をなだめるべく協議を行ったが、トランプ氏が留飲を下げるはずもない。

トランプ米大統領(左)とNATOのルッテ事務総長(写真:ロイター=共同通信社)

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 ただ、現実問題としてNATO条約第13条で、脱退するにはその旨を通告してから1年が必要だ。加えて米国内法では、2023年に成立した法律で、米国上院3分の2の賛成が不可欠などいくつものハードルがあり、即離脱とはいかない。

 アメリカのNATO脱退が現実となれば、NATOのダメージは計り知れない。現在、加盟国は全32カ国だが、別掲表を見ても分かるようにアメリカ1国と、残り31カ国の戦力を比べると、大半の項目で互角かアメリカの方が上で、桁外れに強大だ。

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 特に国防費は顕著で、NATOの公式リリースによれば、アメリカの約8453億ドルに対し、他の31カ国は合計で約5503億ドルに過ぎない。NATO全体の6割以上をアメリカが賄っている計算で、トランプ氏がほかの加盟国をことあるごとに「フリー・ライディング(タダ乗り)」とこき下ろすのも、ある意味理解できる。

 兵力や武器の数でもアメリカは圧倒的で、特に「中・大型輸送機」「早期警戒機」はずば抜けている。全世界に展開する米軍だから当然だが、これはそのまま「緊急展開能力」、「兵站(後方支援/ロジスティクス)能力」、「C4ISR*注」に優れることを意味する。

*注:C4ISR(シーフォーアイエスアール)/軍事・防衛分野における指揮統制システム。Command(指揮)、Control(統制)、Communication(通信)、Computer(コンピューター)に、Intelligence(情報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)を統合した概念。リアルタイムの情報共有により戦場状況を把握し、迅速かつ効果的な意思決定と部隊運用を可能にする、現代のネットワーク中心戦(NCW)の中核技術。

 言い換えれば、アメリカが抜けた場合、これら領域におけるNATOの大幅な戦力低下は避けられない。

 それでも、アメリカなきNATOの戦力は、数字的にはロシアと比べても遜色がなく、項目によってはやや上回り、国防費も3.5倍あるため、一見余裕に思える。だがロシアの国防費には、兵器の研究開発費や退役軍人恩給などが含まれず、実際の額は数倍に達するとも見られる。

 さらにプーチン氏という1人の強権政治家が軍事戦略で采配を振るい、スピード感で勝るロシアと異なり、NATOは30カ国超の民主主義国の集合体で、意思決定には時間がかかる。このため、特に奇襲攻撃への対応が苦手と言われている。

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