川久保賜紀川久保賜紀

ROKポーランド室内オーケストラ・ラドムと川久保賜紀による「ヴィヴァルディとピアソラ:2つの四季」ドイツツアーの第4公演が、ミュールハイム・アン・デア・ルール市のシュタットハレで開催された。開場前からロビーはすでに人で溢れており、ケルンやデュッセルドルフほど知名度の高くない街にこれだけの聴衆が集まったことに驚かされると同時に、この日を心待ちにしていた様子が肌で感じられた。また近隣の総合学校の生徒も授業の一環として訪れており、文化と教育を身近に結びつけるドイツならではの光景も目をひいた。

ROKポーランド室内オーケストラ・ラドムはポーランドを代表する室内オーケストラの1つ。高い精度と調和のとれたアンサンブルで知られ、ドイツでも定期的に演奏活動を行なっている。会場内でポーランド語が折々に聞こえたことから、祖国のオーケストラの演奏を楽しみに駆けつけた在独ポーランド人も多かったのだろう。

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プレトークを前に会場はほぼ満席。指揮者ユレク・ディバウと共に川久保もステージへ登場するサプライズに会場が大いに沸いた。ドイツ留学経験のある川久保がドイツ語で語りかけると客席から感嘆の声と温かい拍手が広がった。公演への期待の大きさが自然と伝わってくる瞬間だった。

コンサートはゴルチツキの『ボール・ポロネーズ』で開演。打楽器で堂々たるポロネーズのリズムが刻まれ、ディバウの合図と共に会場は荘厳で華やかな響きに包まれた。曲の終盤には打楽器奏者が実はヴィオラ奏者だったという仕掛けが明かされ、客席の笑いを誘った。

続くヴィヴァルディの『四季』では、華やかさと喜びに満ちた「春」、エネルギッシュな「夏」、豊穣の情景を明るく響かせた「秋」、寒さとぬくもりとの対比を繊細に表現した「冬」と、各楽章が鮮やかに描き分けられていた。川久保の響き豊かな高音と技術力が聴衆を魅了し、緻密なアンサンブルも光った。

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休憩後のピアソラ『ブエノスアイレスの四季』では音色や表現が一変。ソロと中低音の対比が際立った「夏」、アンサンブルの一体感溢れた「秋」、豊かで温かい響きの「冬」、ソリとソロがテンポ良く絡み合いクライマックスへと高まる「春」と、多彩な表情が展開された。途中、手拍子で客席を巻き込むエンターテインメント性も加わり、演奏者と聴衆が一体となっていた。川久保とオーケストラが紡ぎ出すアンサンブルはまさに阿吽の呼吸で、タンゴの情熱を宿した中低音の響きを土台に、ソロとの対話も聴きごたえ十分。豊潤な音楽に惹き込まれたまま、気づけば終演の時を迎えていた。

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演奏終了後、割れんばかりの拍手とスタンディングオベーションが沸き起こり、アンコール後もその拍手がなかなか鳴り止まないほどだった。終演後のロビーはビールやワインを片手にコンサートの余韻を楽しむ聴衆で溢れていた。楽屋では川久保ら演奏者たちの清々しい笑顔が印象的だった。

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●ドイツ・ツアー・スケジュール
指揮:ユレク・ディバウ
ROKポーランド室内オーケストラ・ラドム

2026年3月5日 ビーティヒハイム=ビッシンゲン:クローネンツェントルム(文化センター)
2026年3月8日 フィッシェン:フィスキーナ(文化交流センター)
2026年3月10日 ランツフート市役所ホール
2026年3月13日 ミュールハイム市民ホール
2026年3月14日 ヴォルムス劇場
2026年3月15日 リップシュタット劇場
2026年3月19日 シュヴァインフルト:福音派集会所

取材・文:堀江和子(在デュッセルドルフ)

⇒ 川久保 賜紀のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/TamakiKAWAKUBO/

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