中東の軍事衝突がヘリウム価格を1週間で最大100%急騰させた。半導体製造に欠かせないこの希少ガスは、カタールが世界供給の34%を担うという構造的な脆弱性を抱えている。
QatarEnergyの主力LNG(液化天然ガス)施設がイランの攻撃を受けて停止し、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖と重なったことで、世界のヘリウム供給の最大27%がオフラインになる事態に陥っている。韓国はカタールからの調達が64.7%に達しており、SamsungとSK hynixの時価総額から合計6兆ウォン超が消えた。一方、台湾はカタール依存を30%に抑え分散調達を徹底してきた結果、今回の危機への耐性で明暗が分かれた格好だ。
半導体工場でヘリウムが代替不可能な技術的理由
ヘリウムは半導体工場で使われる気体(窒素・酸素・アルゴン等)の中では使用量が最も少ない部類に属する。しかし特定の工程では代替が効かない。代表的な用途が「背面冷却(Backside Cooling)」だ。ドライエッチング(化学的にウェハー表面を削る工程)の最中、ウェハー裏面とステージの間にヘリウムを充填して製造プロセスで発生する熱を素早く逃がし、ウェハーの過熱・変形を防ぐ。分子サイズが極めて小さく導熱性が高いというヘリウムの物理的特性が、この役割に不可欠だ。
もう1つの主要用途がフォトリソグラフィー(光露光)だ。チップに微細回路を焼き付けるこの工程でも、ヘリウムが精度維持の役を担う。真空システムの微小なリーク(漏れ)検出という用途もある。ガス分子が小さいためにどんな微細な隙間にも入り込めるからだ。大宗気体に求められる純度は9N(99.9999999%)以上で、現在のところ代替ガスで同水準の精度を出せる選択肢は存在しない。
ヘリウムは窒素や酸素と比べて絶対的な使用量は少ない。だが製造プロセスの特定工程では絶対に欠かせない物だ。先端プロセスへの移行が進むほど、ウェハー冷却の精度要求は上がり、EUV(極紫外線)露光装置の普及はミラー洗浄にヘリウムを使う需要を追加する。つまり、半導体の微細化が進むほど、ヘリウムなしでは製造できない工程が増えていくのだ。
ホルムズ閉鎖とラス・ラファン攻撃:供給の急所を同時に失った
問題の発端はQatarEnergyのラス・ラファン工業都市への攻撃だ。同施設は世界最大のLNG輸出拠点であり、ヘリウムはLNG生産の副産物として産出される。イランのドローンが施設を攻撃して生産が停止した後、3月18日にはイランのミサイルがプラントを再び機能停止させた。QatarEnergyはLNG輸出能力の17%が損傷を受け、完全復旧には3〜5年を要すると発表している。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖がさらに事態を悪化させた。Kornbluth Helium ConsultingのPhil Kornbluth氏によれば、海峡閉鎖が続けば世界のヘリウム供給の最大27%がオフラインになる。スポット(現物)価格は同氏の観測では1週間で70〜100%急騰しており、Bank of Americaの試算でも最大40%の上昇を確認している。戦争前に1,000立方フィート(MCF)あたり500ドル前後だったヘリウム価格は、供給逼迫が長引けばエネルギー分析会社AKAP Energyの予測で最大2,000ドルに達する可能性がある。
ただし市場への実際の打撃は、スポット価格が示すほど即座ではない。ヘリウム市場の大半は長期契約で取引されており、Kornbluth氏は「契約価格はまだほとんど動いていない」と述べる。直近2年間の供給過剰も緩衝材として機能しており、同氏は現時点の実際の不足を最大値の27%でなく約15%と推計する。問題の深刻化は、長期化した供給不足がサプライヤーを「不可抗力(フォース・マジュール)」の宣言に追い込んだ場合だ。その時点で、長期契約に守られてきた大口ユーザーにも契約価格の大幅改定が波及する。
64.7%対30%:調達戦略の差が生んだ危機耐性の格差
同じ半導体大国でありながら韓国と台湾の脆弱性が大きく異なる最大の理由は、長年の調達戦略の蓄積にある。韓国経済の報道によれば、韓国は2025年のヘリウム調達の64.7%をカタールに依存していた。対して台湾TechNewsが国内サプライチェーン関係者の話として伝えるところでは、台湾のカタール依存度は約30%にとどまり、米国からも同程度の30%を調達している。残り40%は複数の国と国内調達で賄う分散構造だ。
台積電(TSMC)は複数のサプライヤーからヘリウムを調達しており、自由時報の取材では現在2ヶ月分以上の在庫を確保していると答えた。生産への影響はないとしながらも、引き続き情勢を監視すると述べた。台湾第2位のファウンドリーUMC(聯電)、記憶チップメーカーのウィンボンド(Winbond)、旺宏電子(Macronix)も同様に、複数調達ルートと1〜2四半期分の安全在庫によって当面の影響は軽微と表明している。
韓国勢は状況が異なる。SamsungとSK hynixは現在約6ヶ月分のヘリウム在庫を持つとされるが、米国サプライヤーへの転換を急ぐとともに、ロシア企業との交渉も模索していると報じられている。SamsungはSolution Newsの報道によれば、昨年4月から一部の製造ラインで自社開発の「ヘリウム再利用システム(HeRS)」を稼働させ、使用済みヘリウムを回収・精製して再使用する取り組みを進めている。現行ライン投入での年間削減量は約4.7トンで、全ライン展開が実現すれば年間使用量の約18.6%を削減できると見込む。先見性のある取り組みだが、全体調達量に占める削減分はまだ限定的だ。
「既知のリスク」が問う、供給鎖の再設計
今回の危機は完全な不意打ちではなかった。SIA(米半導体工業会)は2023年時点でヘリウム供給が途絶した場合に「世界の半導体製造業界に衝撃が及ぶ可能性が高い」と警告していた。SemiAnalysisのコンピューターメモリアナリスト、Ray Wang氏が今回の事態を受けて指摘するように、紛争の長期化は最終的に材料調達の見直しを迫る——その予兆は2023年から存在していた。
皮肉なのは、この危機で最も利益を得るのがチップメーカーではなくガスを売る側の企業であることだ。JP MorganがLinde株をアップグレードし、同社は2026年に入って15%高(同期のS&P500は3%安)。Air Products & Chemicalsも14%高で推移している。ガス生産会社の収益に占めるヘリウムの割合は低中一桁%台と小さいが、Bank of Americaは数週間の停止であれば利益押し上げに働くと分析している。危機が長引くほど、この構造は強化される。
半導体メーカーにとっての本質的な問いは、こうした「既知のリスク」をどこまで調達多様化で吸収できるかにある。台湾の分散戦略が今回の緩衝になったように、リスク回避は突然の危機対応ではなく平時の意思決定で決まる。ヘリウムに限らず、先端半導体製造に必要な希少材料の多くは生産地域が偏在しており、地政学リスクが構造化した時代においてその偏在は恒常的な脅威となっている。カタールのヘリウムが次の危機を起こすか、あるいは別の材料が別の地域で同じ構造を露わにするかは分からない。問いかけは明確だ——「単一産地依存」のまま先端プロセスの恩恵を受け続けることは、もはや許容できるリスクではない。
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