ハリスコ州の州都グアダラハラ(写真:Isacdaavid / CC BY-SA 4.0)
今年の2月、メキシコ・カルテルのリーダー殺害を機に無差別テロが激化した。カルテルは長年、若者を救おうとする牧師、正義を貫く敬虔なキリスト者の政治家などを組織的に標的としてきた。この国では、真理によってカルテルに立ち向かう信仰者たちが殉教に散る過酷な現状がある。暴力の嵐の中、信仰者たちは命懸けで暗闇にあらがっているのだ。(第1回から読む)
メキシコ中央部に位置する7つの州。そこにはキリスト教徒がわずか2%しかいない。公にイエスの名を語ることが困難で、ほとんどの人が自分の信仰を隠している。そのため、この円を描く7つの州は「沈黙の円環(サークル・オブ・サイレンス)」と呼ばれる。この地でキリストに従うことは、社会からの拒絶、そして死に至るまで、さまざまなリスクを引き受けることを意味する。宣教師のマルコスとベアトリス(※安全のため仮名となる)は、この地に福音を運ぶべく、北部の安定した生活を捨てて神の召命に従った夫婦である。しかし、この召命に応じることは決して簡単ではなかった。
ベアトリスがこの地で最初に目にしたのは、衝撃的な光景だった。伝統的な儀式の中で、あろうことかイエスを象徴する像が聖母マリアの像の前にひれ伏させられていたのである。人々は「マリアこそは道であり、真理であり、命である」と公然と口にしていた。この地域では、カトリックと土着の精霊信仰がグロテスクに混ざり合った「シンクレティズム(混合宗教)」が支配しており、多くの住民は聖書を読むことさえ許されていないのだ。
「伝統的な信仰を捨てることは、先祖の血を裏切ることだ」。このような呪縛のような連帯が、この地の人々を根深く縛っている。そのため、キリスト単独への信仰を告白して秩序を乱す者には、地域を挙げての排斥や暴力が容認されているのだ。マルコスは語る。「彼らの社会の秩序に異議を唱える者たちに対して、彼らは自分たちには迫害する権利がある、いや、そうする義務さえあると信じているのです」
さらに、この地域の大部分を支配する麻薬カルテルの存在が、より一層、緊張を増幅している。この「円環」を二重に包み込む問題だ。マルコスは言う。「多くのカルテルのリーダーはキリスト教に反対します。伝統的な宗教とは異なり、人々が本物の福音に触れると、彼らは罪深い生き方をやめます。これがカルテルの権力を脅かすのです」
福音によって人々が罪を捨てて新しく生きようとすることは、カルテルの支配基盤である「腐敗」を破壊することに他ならない。歪んだ宗教伝統と、暴力による犯罪支配。この2つの巨大な壁に囲まれた「沈黙の円環」という暗闇の中で、宣教師夫妻は静かに、しかし決死の覚悟で福音の種をまき始めた。だが、彼らを待ち受けていたのは、人間による妨害だけではなかった。(続く)
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■ メキシコの宗教人口
カトリック 77・7%
プロテスタント 11・2%
無神論者 3・6%
土着の宗教 1・2%
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(いしの・ひろし)
2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。

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