(CNN) ロシアのプーチン大統領は、危機の中から好機を見つける方法を心得ている。広範に飛び火するイランを巡る戦争は、それを示す直近の好例だ。
プーチン氏は年明け早々、ウクライナを屈服させる軍事作戦への自信を表明した。実際の戦場での進展には時間がかかっていたにもかかわらず。しかし1月初め、トランプ米政権がロシアの顔に泥を塗る形で、ベネズエラのマドゥロ大統領を失脚させる。ロシア政府の戦略的パートナーであるマドゥロ氏は、米軍特殊部隊の大胆な急襲を受けて拉致・拘束された。
湾岸地域で新たな戦争が勃発したときも、プーチン氏は当初敗者のように見えた。米国とイスラエルが遂行した斬首作戦でイランの最高指導者ハメネイ師が殺害され、イラン国内の軍事標的は大打撃を受けた。ハメネイ師もまた、ロシアにとって長年の盟友だった。昨年ロシアがイランとの間で結んだ戦略的パートナーシップは、単なる紙くず同然になったかと思われた。
ハメネイ師が、失脚したクレムリン(ロシア大統領府)の友人の最新事例でしかないことは覚えておいた方がいい。マドゥロ氏がその地位を追われるわずか1年ほど前の2024年12月初めには、シリアの独裁者、アサド大統領の政権が崩壊した。アサド氏もまた、長年にわたるロシアの得意先だ。
しかし地政学上の見通しにもかかわらず、プーチン氏は自身の重要な目標を見据え続けているようだ。つまり、独立国としてのウクライナを崩壊させるという目標を。
9日、プーチン氏はトランプ大統領と電話で会談した。昨年12月以来のことだ。ロシア大統領補佐官のユーリー・ウシャコフ氏が明らかにした会話記録によると、約1時間に及んだ電話会談ではその日の主要課題が話し合われた。それは米国とイスラエルによるイランとの軍事衝突であり、ウシャコフ氏によれば「極めて本質的な」議論が交わされたという。
重要なことに、会談ではプーチン氏自身の目標にも話が及んだ。ウシャコフ氏はトランプ氏が「ウクライナでの紛争終結を実現することへの関心を改めて示した」と説明。「なるべく早期に停戦し、長期的な解決を達成する意向を示唆した」という。
会談のこの部分に関して、トランプ氏側の受け止め方はやや異なる。電話会談について問われたトランプ氏は、プーチン氏が中東問題で「力になりたがっている」と述べつつ、次のように付け加えた。「私はこう言った。『ウクライナ・ロシア戦争を終わらせてくれる方がもっと力になれる』。そちらの方がよほど助かる」

9日、米フロリダ州のマイアミで開かれた共和党議員らの集まる会議で演説するトランプ大統領/Mark Schiefelbein/AP
公的な発言では、ロシアは米国とイスラエルの軍事行動を非難している。プーチン氏は公式のメッセージの中でイラン最高指導者の死を「暗殺」と表現し、弔意を示した。しかしプーチン氏がトランプ氏個人の批判を避けていることは、複数の観測筋が気付いている通りだ。
「結局のところ、(プーチン氏からの)どんな提案だろうとその中身自体にはほとんど意味がないのかもしれない」。ジェームズ・マーティン不拡散研究センターでユーラシア地域の担当責任者を務めるハンナ・ノッテ氏は、X(旧ツイッター)でそう指摘した。「建設的な役割を演じようと申し出ることで、プーチン氏は自らの主要な目的を達成できる。トランプ氏をおだてて、気に入られるという目的を。ウクライナにおけるロシアの目的を考える上でそれが重要になる」
世界的なエネルギー危機がプーチン氏の助けに
当該のトランプ氏との電話会談が行われたのは、ちょうどロシアの経済的命運が変わりつつあるように見えるタイミングでもあった。ホルムズ海峡の実質的な封鎖を受け、世界ではエネルギー危機が高まっていた。
原油価格は9日に1バレル=100ドル(約1万5800円)を超えて急騰。専門家らは重要な水路の混乱が続けば3月末までに1バレル=150ドルに達する可能性があると警告している。
これは主要な石油輸出国のロシアにとって朗報だ。しかもトランプ政権は、ロシアにとって最も重要な輸出相手国の一つ、インドに対して圧力を掛ける動きを一時的に転換。インドの精製業者に対し、現在海上に出ているロシア産原油を購入できるように30日間の免除を付与した。
昨年、米財務省はロシアの二大石油会社に制裁を科し、ロシア産石油の購入に対してインドに二次関税を適用した。これはすべてロシアの軍事力を支える資金の流れを阻止する取り組みの一環だった。

ロシアのいわゆる「影の艦隊」のタンカー「ボラカイ」。2025年10月1日に仏サン・ナゼール港沖で撮影/Damien Meyer/AFP/Getty Images
世界の石油・ガス市場の状況を評価する上級顧問らとの9日の会議で、プーチン氏は楽観的な様子を見せた。
「現状ではエネルギー供給業者並びに安定的かつ予測可能な石油・ガス供給の確保をめぐり買い手の間で競争が激化している」「この点について私ははっきりと伝えずにはいられない。この場にいる同僚だけでなく、我が国の石油の消費者全般にも改めて思い起こさせたい。安定性こそが、まさにロシアのエネルギー企業の代名詞であり続けているのだということを」
過去数カ月、ロシアの国家財政が戦時体制を維持できるかどうかが疑問視されてきた。急進するインフレと、膨れ上がる財政赤字がその要因だ。だがここへ来て、石油・ガス輸出による収入増加の見通しは、ロシア経済に潜在的な活力をもたらしている。
イラン戦争に関して言えば、ロシアは別の地政学的影響力も有している可能性がある。
ロシアとイランの防衛・安全保障上の結びつきに加え(米情報機関の報告に詳しい複数の関係者によれば、ロシアは湾岸地域における米軍のアセットの位置や動きに関する情報をイランに提供しているという)、プーチン氏は中東の複数の指導者と長年にわたる個人的な関係を築いている。
米国とイスラエルの軍事作戦開始後、プーチン氏はバーレーンのハマド国王、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領、カタールのタミム首長 、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を行った。
ウクライナがイランの標的に接触
ウクライナのゼレンスキー大統領にもこの地域での切り札がある。ここ数日、同国はイラン製の「シャヘド」ドローンへの対処に関する豊富な経験を提供しようと各国に持ちかけている。シャヘドは湾岸全域の標的への攻撃に使用されている。
しかし、そうした支援が米国からの好意につながるかどうかは別問題だ。トランプ氏はロシアがイランに情報を提供しているとの報道を軽視しているように見える。国際社会の注目が中東危機に集中する中、プーチン氏は西側の政策立案者たちの関心がウクライナから逸(そ)れていることに気づくかもしれない。同国では戦争が今なお継続しており、ここ最近もロシアのドローンやミサイルがウクライナの都市を攻撃したが、大きな見出しにはならなかった。

2日、ロシアのドローン攻撃を受けたウクライナ北東部ハルキウの集合住宅/Pavlo Pakhomenko/NurPhoto/Getty Images
英ロンドン大学キングスカレッジでロシア政治を専攻するサム・グリーン教授はXに投稿した分析で、プーチン氏の長期戦略は依然としてトランプ氏との関係に焦点を当てていると示唆した。
「まずアサド氏であれマドゥロ氏であれハメネイ師であれ、盟友を失えばプーチン氏は苦境に陥るという見方は、西側アナリストの頭の中だけに存在するのであり、観察可能な事実に基づくものではない」「彼が(盟友の喪失を)気にかけている証拠は(一切)なく、それが国内での権威や国外での正当性に影響を与えるという証拠もない」
そしてプーチン氏がイラン最高指導者の死をどう感じようと、「彼はトランプ氏との関係を犠牲にはしないだろう」と、 グリーン氏は言い添えた。「何しろ、それでハメネイ師が戻ってくるわけでもないのだから。だがもっと重要なのは、トランプ氏こそがプーチン氏にとって欧州に対する最大の影響力の源だということだ。彼はその点を見誤りはしないだろう」
したがって当面の間、世界的なエネルギー危機は、ウクライナ侵攻を続けるプーチン氏に新たな利益をもたらす可能性がある。
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本稿はCNNのネイサン・ホッジ記者の分析記事です。

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