ISRO(インド宇宙研究機関)が計画を進める月サンプルリターンミッション「チャンドラヤーン4号(Chandrayaan-4)」について、着陸候補地が月の南極域にある「モンス・ムートン(Mons Mouton)」内の特定エリア「MM-4」に選定されたと、2026年2月9日付の現地英字紙The Hinduが報じました。打ち上げ時期については、早ければ2027年ともされています。

インド史上もっとも複雑な月探査ミッション

チャンドラヤーン4号はISROにとって4回目の月探査ミッションであり、月面で採取したサンプルを地球へ持ち帰る「サンプルリターン」を主な目的としています。

これまで月からのサンプルリターンに成功したのは、アメリカ(アポロ計画)、旧ソ連(ルナ計画)、そして中国(嫦娥計画:5号・6号)の3か国のみです。チャンドラヤーン4号が成功すれば、インドはこれに続く4番目の国となります。

特に、中国の嫦娥6号が着陸したのは南極エイトケン盆地(南緯40度付近)ですが、チャンドラヤーン4号はさらに高緯度の「月の南極域」を目指しており、南極域由来のサンプルを持ち帰ることが実現すれば、月の南極域からのサンプルリターンとして世界初の快挙となる可能性があります。

インド宇宙研究機関(ISRO)の月探査ミッション「Chandrayaan-4」の上昇モジュール(AM)と降下モジュール(DM)が組み合わさった機体の構成図【▲ インド宇宙研究機関(ISRO)の月探査ミッション「Chandrayaan-4」の上昇モジュール(AM)と降下モジュール(DM)が組み合わさった機体の構成図(Credit: ISRO)】インド宇宙研究機関(ISRO)の月探査ミッション「Chandrayaan-4」の帰還モジュール(RM)とトランスファーモジュール(TM)および推進モジュール(PM)が組み合わさった機体の構成図インド宇宙研究機関(ISRO)の月探査ミッション「Chandrayaan-4」の帰還モジュール(RM)とトランスファーモジュール(TM)および推進モジュール(PM)が組み合わさった機体の構成図【▲ インド宇宙研究機関(ISRO)の月探査ミッション「Chandrayaan-4」の帰還モジュール(RM)とトランスファーモジュール(TM)および推進モジュール(PM)が組み合わさった機体の構成図(Credit: ISRO)】着陸地点「MM-4」が選ばれた理由NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」の広角カメラで撮影された月の南極付近。中央上部の平坦な高地がモンス・ムートン(Mons Mouton)で、右下の影に覆われた領域がノビレ・クレーター、左端付近にマラペルト・クレーターが位置する(Credit: NASA/Arizona State University)NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」の広角カメラで撮影された月の南極付近。中央上部の平坦な高地がモンス・ムートン(Mons Mouton)で、右下の影に覆われた領域がノビレ・クレーター、左端付近にマラペルト・クレーターが位置する(Credit: NASA/Arizona State University)【▲ NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」の広角カメラで撮影された月の南極付近。中央上部の平坦な高地がモンス・ムートン(Mons Mouton)で、右下の影に覆われた領域がノビレ・クレーター、左端付近にマラペルト・クレーターが位置する(Credit: NASA/Arizona State University)】

月の南極周辺に位置するモンス・ムートンは高地状の地形で、周辺の永久影領域(PSR)にアクセスしやすい可能性もあることから、科学探査の観点で注目されている地域です。

ISROは、チャンドラヤーン2号の周回機に搭載された高解像度カメラ(OHRC)が取得したデータを用い、モンス・ムートン域内の候補地(MM-1、MM-3、MM-4、MM-5)を詳細に分析しました。その結果、南緯約84度に位置する「MM-4」が、1km四方の範囲における障害物の少なさや平均傾斜、標高などの条件で最も適していると評価されたといいます。

これは、2023年にチャンドラヤーン3号が着陸した南緯約69度の「シヴ・シャクティ(Statio Shiv Shakti)」よりも、さらに南極点に近い地域となります。

月の南極をめぐる各国の動向

月の南極域はクレーター内の永久影領域に水氷が保存されているとみられ、将来の有人月面活動や月面基地の建設において飲料水、酸素、ロケット燃料の生成源となる可能性が指摘されています。

現在、CNSA(中国国家航天局)は「嫦娥7号(Chang’e-7)」でシャクルトン・クレーター(Shackleton Crater)付近への着陸と水氷探査を計画しているほか、「嫦娥8号(Chang’e-8)」で資源利用技術の実証を予定しています。

一方、NASA(アメリカ航空宇宙局)は月の南極域で氷などの探査を行う探査車「VIPER」を計画し、商業月輸送サービス(CLPS)のもとでAstrobotic Technologyの月着陸船「Griffin」によって月面へ輸送する構想を進めていました。着陸目標地点は、月の南極近くにあるノビレ・クレーター(Nobile)の西縁付近に位置する「モンス・ムートン」でしたが、遅延に伴うコスト増加などを踏まえた内部審査の結果、NASAは2024年にVIPERミッションの中止を決定。その後の代替案検討を経て、2025年9月にBlue Originの月着陸船「Blue Moon MK1」により、VIPERを2027年後半に月南極域へ届ける契約を発表しています。

月面に到着したNASAの月探査ミッション「VIPER」の探査車(左)とBlue Originの月着陸船「Blue Moon Mark 1」(右)のCGイメージ(Credit: Blue Origin)月面に到着したNASAの月探査ミッション「VIPER」の探査車(左)とBlue Originの月着陸船「Blue Moon Mark 1」(右)のCGイメージ(Credit: Blue Origin)【▲ 月面に到着したNASAの月探査ミッション「VIPER」の探査車(左)とBlue Originの月着陸船「Blue Moon Mark 1」(右)のCGイメージ(Credit: Blue Origin)】

今回、ISROがモンス・ムートンを着陸候補地に選定したことは、月の南極域をめぐる宇宙開発競争においてインドが存在感を高めていることを示しています。複雑なドッキング技術を要するとされるチャンドラヤーン4号の今後の開発動向に注目が集まります。

 

文・編集/sorae編集部

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