2025年12月27日 午前7時30分

 【論説】福井にゆかりがあり、国際的に活躍した美術作家の作品や資料を収集し記録・保存するアーカイブ事業が進められている。貴重な作品の散逸を防ぎ体系化する試みは、後世の研究や再評価につながり、福井の文化の歴史をつなぐ上でも意義がある。

 現在取り組まれている事業では、アニメーション作家として国際的な評価を受けた鯖江市出身の漫画家、久里洋二さん(2024年11月死去、享年96)のメディア芸術作品のデジタルアーカイブ事業がある。鯖江市と久里実験漫画工房(東京)が共同で進めており、文化庁の補助事業にも採択された。

 久里さん自身がフィルムの劣化を気にしていたといい、修繕やデジタル化を専門業者が担い、長男の栗原由行さんが作品調査やデータベース化を行っている。無数のフィルムの中からは、未公開の作品も多く見つかっているという。

 日本のビデオアート、メディアアートの先駆者であり、今年1月に亡くなった山本圭吾さん(享年88)=福井市=のアーカイブプロジェクトは有志が取り組んでいる。山本さんはサンパウロ・ビエンナーレやドクメンタ6に出品。「ふくい国際ビデオ・ビエンナーレ」(1985~99年)の企画に携わり、武蔵野美術大教授や京都精華大教授も務めた。

 山本さんは、高校時代から福井の前衛芸術運動「北美文化協会」に参加し大きな影響を受けた。自宅には多くのビデオテープ、絵画などの作品、メモなどが残されている。テープのデジタル化は教え子らが2年ほど前から進めているが、事業はまだ緒に就いたばかりだ。

 アーカイブされた作品や業績は、県民に公開されてこそ価値がある。鯖江市出身の現代美術作家、斉藤陽子(たかこ)さん(今年9月死去、享年96)の日本初の大規模な回顧展「斉藤陽子×あそぶミュージアム」は今年8~10月に鯖江市まなべの館で開かれ、注目を集めた。

 充実した展示は、深瀬記念視覚芸術保存基金(東京)のコレクション。長年、斉藤さんの作品は国内にほとんどない状態だったが、斉藤さんから購入するなど収集し散逸を防いだ。展示には50年代のドローイングが並び、創造美育運動に参加した鯖江での教員時代の様子も紹介。訪れた人たちに、世界的に知られた作家の原点として、福井の文化風土が大きく関わっていることを示した。

 「遊び」の要素がある斉藤さんのアートは鯖江での創美運動に、山本さんのビデオアートは北美につながっていく。作家たちの記録を残す事業は、福井の文化の歴史を照らし出す力にもなる。同時に展覧会開催など、県民の目に広く触れ、理解を深める機会を設けていくことも期待したい。

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