後日に名前が消えて事なきを得たものの、ヴァンフォーレ甲府とジェフユナイテッド市原・千葉が入ったことでJリーグファンからも注目を集めた「FIFA(選手)登録禁止リスト」。その処分と解除を読み解く上で参考となる3つの類型を、サッカー関連紛争の手続代理人を務める杉山翔一弁護士に解説してもらった。

 2025年9月、国際サッカー連盟(FIFA)が、ヴァンフォーレ甲府、ジェフユナイテッド市原・千葉の2つのJリーグクラブに対し、それぞれ選手登録禁止処分が課したことが公表されました(本稿執筆時点ではいずれの処分もすでに解除されています)[1]。

 その際に話題になったFIFA Registration Ban List(以下「FIFA登録禁止リスト」[2])を見ると、各国の多くのサッカークラブに対し、FIFAによる選手登録禁止処分が現在も課されていることがわかります(本稿執筆時点で有効な選手登録禁止処分の件数は、947件)。

大陸協会名
件数

UEFA
465件

AFC
172件

CAF
148件

CONMEBOL
125件

CONCACAF
36件

OFC
1件

合計
947件

大陸協会別・選手登録禁止処分の件数表

 本記事では、日本でも起きる可能性のある以下の3つの類型を取り上げて、クラブに対してどのようなケースでFIFAから選手登録禁止処分が課されるのか、どのようにして処分解除に至るのかを明らかにします。

類型①クラブが選手・コーチに対する報酬や選手の移籍に伴う移籍補償金をFIFA Football Tribunalの決定に従って支払わないケース

類型②クラブが連帯貢献金やトレーニング補償金をFIFA Clearing House Regulationsに従って支払わないケース

類型③クラブが「保護期間」中に選手契約を正当な理由なく解除するなどしたケース

類型①クラブが選手・コーチに対する報酬や選手の移籍に伴う移籍補償金をFIFA FTの決定に従って支払わない場合

 類型の1つ目は、選手やコーチに対する報酬や選手の移籍に伴う移籍補償金の支払いを、FIFA Football Tribunal(FIFA FT)[3]により命じられたにもかかわらず、期限までに支払いを行わない場合です[4]。

 サッカー界では、選手やコーチの報酬、移籍元クラブに払われる移籍補償金をめぐる紛争が、所属国内協会の異なる当事者間で生じた場合、関係する選手やコーチ、移籍元クラブは、支払義務を履行しないクラブを相手方として、FIFA FTの該当する部門に申立てをして、未払金の支払いを求めることができます[5]。

 申立てを受けたFIFA FTは、選手・コーチ契約や移籍契約書に基づいて、相手方のクラブに金銭の支払義務があるかを決定するわけですが[6]、当該クラブの支払義務が認められる場合、FIFA FTは、規則に則って、相手方のクラブに対し、金銭の支払いを行うことなどを命じる決定を下します[7]。

 この決定が通知されたにもかかわらず、相手方のクラブが45日以内に金銭を支払わない場合で、「債権者」の立場になる選手、コーチ、移籍元クラブ(以下「債権者側」)が求めたとき、FIFAは、相手方のクラブに対し、金銭の支払いを促すため、選手登録禁止処分を課します[8]。

 この時に課される選手登録禁止処分の期間は、「3回の登録ウィンドウ」とされており、また「3回の登録ウィンドウ」を過ぎてもクラブが支払いを行わない場合は、追加の処分が課される可能性があります[9]。

類型①の選手登録禁止処分までの流れ

 では、どうすれば処分が解除されるのでしょうか?

 この類型の選手登録禁止処分は、クラブがFIFA FTの決定で命じられた金銭の支払いを行わないことが処分の原因ですので、その原因を解消すれば、すなわち、FIFA FTの決定によって命じられた支払いを行えば、選手登録禁止処分は解除されます。

 解除までの具体的な方法としては、まず、選手登録禁止処分を課されたクラブが、FIFA Legal Portal[10]上に、FIFA FTの決定の通りに支払いを行ったことを証明する書類(例えば、金融機関口座の送金明細書)や債権者側の受領確認書をアップロードします。FIFAはアップロードを確認すると、債権者側にFIFA FTの支払いが行われたことの確認を行い、この確認が済めば、課された選手登録禁止処分は速やかに解除されます。

 2025年9月にヴァンフォーレ甲府に課された選手登録禁止処分の期間が「3回の登録ウィンドウ」であったこと、選手の移籍補償金が問題になっていたことから考えると、ヴァンフォーレ甲府のケースは、類型①にあたるケースだと思います。

9月26日に「2022年8月1日~2023年12月31日までトンベンセFC(ブラジル)から期限付き移籍にて弊クラブに所属しておりましたジェトゥリオ選手の移籍金について、当該クラブとの間で支払いに関して、齟齬が生じておりました」と公式声明を発表したヴァンフォーレ甲府。4日後に両者の間で同意に至ったため、FIFAから選手登録禁止処分を解除されていた
類型②クラブがトレーニング補償金や連帯貢献金をFCHRに従って支払わない場合

……

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Profile
杉山 翔一

Field-R法律事務所・弁護士。FIFA Football Tribunal、Court of Arbitration for Sport等でサッカー関連紛争の手続代理人を務める。主な役職に、日本スポーツ仲裁機構・仲裁調停専門員、スポーツ法学会国際スポーツ学術推進委員会委員長、東大LB会(東京大学運動会ア式蹴球部OB・OG会)理事など。

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