韓国の金民錫首相は24日、ブルームバーグ・ニュースの単独インタビューに応じ、関税を巡って合意した対米投資額の3500億ドル(約52兆円)について、日本が同意した5500億ドル規模の要求を米国から受けているとして、「国民は要求を受け入れがたいと感じている」と語った。

  また、米国で起きた韓国人労働者の査証(ビザ)問題で世論に強い反発が起きており、すでに合意した内容も保留状態になっていると明らかにした。韓国人労働者が現地で再び拘束されることへの懸念を和らげるため、米政府に迅速に対応するようにも求めた。

  ソウルで単独インタビューに応じた金首相は、「ビザの問題が解決されない限り、有意義な進展は事実上不可能だ」と述べ、「投資プロジェクトが完全に中断されたり、正式に保留となったりしたわけではないが、この問題が解決されるまでは労働者の多くが米国に入国あるいは再入国することが非常に難しい」と指摘した。

  韓国は7月、ファンドを設立して米国に3500億ドル規模の投資を行うことで合意しているが、米国はさらに日本が同意した5500億ドル規模の対米投資と同様の要求を韓国に行っているという。金首相は「交渉チームだけでなく、国民も要求は受け入れがたいと感じている」と述べた。

  日本との合意では、トランプ米大統領が選定する投資案件に資金が拠出されない場合や拠出が45日以内に実行されない場合、米国が日本への関税を引き上げる可能性がある。

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Prime Minister Kim Min-seok

韓国の金民錫首相

Photographer: Woohae Cho/Bloomberg

  今月、米ジョージア州で建設中の現代自動車とLGエナジーソリューションのバッテリー工場で実施された不法移民の捜査では、数百人の韓国人労働者が拘束された。これを受け、米国と韓国はビザ制度の見直しに着手している。

  労働者たちは拘束から1週間ほどで釈放されて韓国に帰国したものの、現地で手錠をかけられた映像が拡散され、世論の怒りを招いた。このため、韓国財閥による巨額の投資計画は、その先行きが不透明になっている。

  金首相は「この問題が解決されず、安全が確実に保障できない状況では、労働者とその家族が米国への入国に消極的になるのは当然だ」と述べた。

  ビザの問題は、自動車を含む韓国製品に米国が15%の関税を課す合意について詰めの調整が進められる中で浮上した。合意の柱となるのが韓国による3500億ドルの対米投資計画だが、その枠組みや実施方法を巡って両国の意見は隔たり、交渉は難航している。

  金首相は、米国と合意した投資規模が韓国の外貨準備高の70%超に上ると説明し、米国との通貨スワップ協定がなければ韓国経済が深刻な打撃を受けると指摘した。

  李在明大統領も最近、ロイター通信のインタビューで、米国の要求を全て受け入れる場合、1997年に起きたアジア通貨危機のような事態を避けるためにスワップ協定が必要だと述べている。

  金首相は米国との交渉の詳細を明かさなかったが、韓国に大きな財政負担をもたらす合意は国会での承認が必要となる可能性があると指摘。交渉を来年までは引き延ばしたくないとの考えも示した。

  安全保障について金首相は、今後10年間で防衛費を国内総生産(GDP)比3.5%に引き上げ、自立した防衛力の強化を進める計画だと説明。「最近われわれが3.5%という数字に言及したのは、持続可能な水準だと判断したからだ」と述べた。韓国の防衛費は今年、GDP比で2.32%となる見通し。

  韓国首相府はその後、防衛費については依然として議論が続いており、決定されたわけではないと説明している。

  トランプ氏は来月韓国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に参加し、李大統領と会談する予定だ。

  こうした中、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記はトランプ氏について「良い思い出がある」と述べ、非核化要求を放棄すれば再び会談に応じる可能性があると示唆している。

関連記事:金正恩氏、トランプ氏との会談示唆-米の非核化要求取り下げが条件

  これについて金首相は「米朝間で具体的な対話が進んでいるかどうか承知していない」とした上で、米朝首脳会談の可能性については「予期せぬ事態は常に起こり得るので、可能性を残しておくことができると思う」と語った。

原題:South Korea Says US Projects Will Remain in Limbo Until Visa Fix(抜粋)

— 取材協力 Jaehyun Eom, Kazunori Takada, Katria Alampay and Andy Hung

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