米カリフォルニア州にあるバンデンバーグ宇宙軍基地から発射された大陸間弾道ミサイル「ミニットマン3」。約6800キロ離れたマーシャル諸島にある米陸軍宇宙ミサイル防衛司令部の弾道ミサイル防衛試験場に正確に着弾した(8月11日、米陸軍のサイトより)

台湾総統が「台湾ドーム」構築発表

 台湾の頼清徳総統は、「台湾の盾(台湾ドーム:Tドーム)」と称される新たな防空システムを構築する方針を発表した。

 中国軍の航空機等による威嚇や攻撃的行動が常態化し、極超音速ミサイルを含む長距離ミサイルや航空機・ヘリコプター、無人航空機(UAV、ドローン)など「中国の経空脅威は日を追って増している」ことを踏まえたものだ。

 同発表は、台湾国防部が10月9日、最新の国防報告書を公表した翌日に行われた。

 台湾の既存の防空システムは、主として早期警戒システムと地対空ミサイルから構成されている。

 米国と共同開発した早期警戒システムの中心は、標高約2600メートルの台湾西側山中に設置されたフェーズドアレイ早期警戒レーダーシステム(「ペーブポーズ」)で、約5600キロ先の中国内陸奥部からの弾道ミサイルの発射や航空機の脅威を探知できる。

 地対空ミサイルは、米国製ミサイルの導入と自主開発した国産ミサイルによる。

 米国製ミサイルでは、地対空ミサイルシステム「パトリオット」(射程約160キロ)と個人携帯用対空ミサイル「スティンガー」(射程約5キロ)を保有している。

 国産ミサイルでは、地対空弾道弾迎撃用の天弓2号(射程約150キロ)と天弓3号(射程約200キロ)を運用している。

 以上に加え、Tドームは中高度防衛を強化することを目指している。

 米国防総省の国防安全保障協力局(DSCA)は2024年10月末、台湾へ先進中距離地対空ミサイルシステム(NASAMS)、センチネル・レーダー (AN/MPQ-64F1)および2種類の新型防空レーダーと100発以上の射程延長型先進中距離空対空ミサイル(AMRAAM-ER)などの売却を発表している。

 また今後、地上配備型の終末高高度防衛(THAAD)システムやイージスシステムの売却・導入に発展する可能性も否定できない。

 国産では、「天弓」シリーズなどのミサイル生産を増強する計画である。

 台湾は、防衛固守(断固たる防衛)・重層抑止(縦深防御)の軍事戦略を採用しており、そのため、非対称戦と統合強化の作戦構想を掲げる中、特に非対称戦を重視している。

 非対称戦は、戦いにおいて相手より優位に立つため、相手との違いを活用する戦い方をいう。

 これは、敵の強みを逃れ、弱点を利用する戦い方であり、戦力の質量で台湾をはるかに上回る中国軍に対し、全土にくまなく配備した分散型の各種兵器によって深刻な痛みを与え、断じて占領を許さない決意を示すものである。

 台湾では「ヤマアラシ戦略」と呼ばれている。

 そのため頼清徳総統は、「我々はTドームの構築を加速させ、多層防衛、高度な探知、効果的な迎撃を備えた厳格な防空システムを台湾に確立し、国民の生命と財産を守る安全網を(全土に)張り巡らせる」(括弧は筆者)と述べている。

 ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争において民間人や重要インフラに深刻な犠牲や損害を与えている悲劇的な状況を踏まえ、大量の防空ミサイルを配備するTドームは台湾の抑止力の強化はもとより、国民に心理的な安心感を与える狙いがあると見られる。

 このように、Tドームは、「非対称戦」「ヤマアラシ戦略」の一環としてイスラエルの国土防衛用ミサイル防衛システム「アイアンドーム(Iron Dome)」の台湾版を目指しているのは間違いなかろう。

 アイアンドームは、イスラエル・ハマス戦争において、ハマスによる数千発の短距離ロケットや、イランによる一挙に約300発のミサイルとドローンによる飽和攻撃に対する迎撃において有効性を実証した。

 台湾のTドームも、それに匹敵するものになるという。

 台湾の顧立雄国防部長は英ロイター通信に対し、このシステムは「センサーから射撃まで(sensor-to-shooter)」の統合モデルに基づき、レーダーセンサーとミサイル発射システム間の連携を迅速かつ効率的に行い、迎撃精度を向上させる仕組みである」と述べた。 

 台湾の2025年度国防費は、前年度比7.7%増の国内総生産(GDP)比2.45%に相当する。頼清徳総統によれば、来年には3.32%へ、そして2030年までに5%に達する見通しだという。

 Tドームと国防費の増額によって、台湾は自力で防衛を遂行できる体制を構築し、「防衛固守(断固たる防衛)」の決意を示そうとしている。

 これに対し、中国共産党は早速、頼清徳総統の発表を批判したが、台湾の大陸委員会はこれに次のように反論、中国の軍事的威嚇を非難した。

「(中国の行動が)東シナ海、台湾海峡、南シナ海で繰り返し問題を引き起こしている」

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