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ゆりやんレトリィバァ悲願の優勝『R-1グランプリ2021』採点徹底分析。審査員たちはなぜしゃべれなかったのか
3/8(月) 7:30
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ゆりやんレトリィバァ悲願の優勝『R-1グランプリ2021』採点徹底分析。審査員たちはなぜしゃべれなかったのか
古坂大魔王がZAZYにつけた「99点」は印象的だった。イラスト=まつもとりえこ
“ひとり芸日本一”を決める『R-1グランプリ2021』(カンテレ・フジテレビ)。番組はCreepy Nutsが書き下ろしたテーマソング「バレる!」をバックにはじまった。予選に挑む芸人たち、勝ち上がったファイナリスト、そこに「俺の天賦の才がバレる」とR-指定の歌うサビが乗る。しかし終わってみれば、優勝したのは「既に才がバレてる」ゆりやんレトリィバァ、5回目の決勝進出で『THE W』との2冠を果たした。生まれ変わった『R-1グランプリ』を改めて振り返ってみたい。
【画像】ファーストラウンド全組の採点一覧。表中の赤字がその審査員がつけた最高点。青字が最低点
友近だけが低い点をつけている
2002年にスタートした『R-1ぐらんぷり』は、19回目の今回から『R-1グランプリ』と名称を変え、大幅なリニューアルを果たした。司会が霜降り明星&広瀬アリスになり、放送はCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールから生中継。審査員や審査方法も大幅に刷新された。
審査は『M-1グランプリ』などと同様に、1人100点満点で採点。これにTwitterでの視聴者投票の結果から、1点、3点、5点のいずれかが加わる。
採点の一覧を眺めると、90点台が多いことに気がつく。審査員ごとの平均点も90点以上で、標準偏差(点数のバラつき)も少ない。審査員の多くが90点近くで小幅に点差を上下させており、平均点が高いホリや古坂大魔王は95点前後で点数をつけていることがわかる。
裏を返せば、大きな点差がつけづらいということ。漫才の『M-1グランプリ』、コントの『キングオブコント』と違い、R-1はコント、漫談、フリップ芸となんでもあり。同じくなんでもありの『THE W』は1対1で対決する“相対評価”なのに対し、今回のR-1は100点満点の“絶対評価”。ひとり目のマツモトクラブを基準にしようにも、次々にタイプの違うネタがかかってしまう。評価にメリハリをつけるためには、審査員のなかに独自の「基準」を設ける必要がある。
その「軸」が顕著に表れたのが、古坂大魔王がZAZYにつけた「99点」だろう。ピンクの奇抜な出で立ち、4回繰り返される「なんそれ!」なフリップ、そして独特のリズムが最後にひとつに重なる大技。音ネタを得意とする古坂大魔王だからこそ、まだふたり目なのに「完璧な芸」と惜しみなく高得点をつけることができた。
審査員はそれぞれ「軸」を持っている。だからこそ審査員たちのコメントを聞きたかった。祠(ほこら)に住む怪物を手懐けた吉住に、ナンセンスが好きそうなザコシショウが88点をつけたことも、外れた祖父の乳首の代金をリコーダーで稼いだ高田ぽる子に、同じ女性芸人の友近だけが低い点をつけていることも。最終決戦で誰が誰に何点を入れたのかも。
おいでやす小田絶叫「わしいらんやないかい!」
ゆりやんレトリィバァ悲願の優勝『R-1グランプリ2021』採点徹底分析。審査員たちはなぜしゃべれなかったのか
『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』優勝はヒューマン中村。イラスト=まつもとりえこ
今回の『R-1グランプリ』はとにかく慌ただしかった。審査員にコメントを聞く時間がないことがわかるくらい、見ていてハラハラする進行だった。
これは審査ルールが大幅に変わったことが大きい。昨年は同時間帯の生放送で12人のファイナリストがおり、4人ずつ3つのブロックに分けて審査を行っていた。審査員ひとりが3票を4人に分ける相対評価であり、12人に対して審査は3回で済んだ。
今年はファイナリストが10人に減ったが、審査形式が変わったため審査は10回に増えた。さらにツイッターを使っての視聴者投票を受け付けるため、ひとりに対し1分間の待ち時間が発生する。ツイッターの結果がなかなか出ないトラブルもあった。
これが積もり積もって、どんどん進行がせわしなくなっていく。出場者のキャラクターを知る時間、審査員と共にネタを振り返る時間、敗れた者にフォーカスする時間……次々と余白や余韻がなくなっていった。
ただ、司会の霜降り明星や広瀬アリスは、放送中にこうしたことを一切話さなかった。ネタ終わりから審査までの1分間をファイナリストたちとのトークでつなぎ、時間が押してることも、スタッフがバタバタしていることにも触れない。
そして、こんなに時間がないなかで、最も時間をかけて笑いを完成させたのは、暫定ボックスにいたおいでやす小田だった。
番組冒頭、暫定ボックスのレポーターとして紹介されたおいでやす小田。その後、敗者コメントをとる時間がなくなり、再登場したのは全組のネタが終わったあと。1時間以上カメラに映らない、という十分過ぎるフリの時間を過ごしてからの「わしいらんやないかい!」という咆哮は、胸がすく思いがした。
放送時間があと1時間、いや30分あったら、もっと全員に話を聞けたし、もっと小田さんをいじれたのに……と思う一方で、これまで当たり前のように見ていた賞レースの生放送は、さまざまな経験とスキルのうえに成り立っていたと改めて知る。新生『R-1』はその一歩目を踏み出したに過ぎず、これから成長していくに違いない。
■突然の芸歴制限。だがエントリー数は「増えた」
今年の『R-1グランプリ』を語るには、「芸歴制限」にも触れなければならない。これまで芸歴不問だった出場資格が「芸歴10年以下」と制限されたのだ。
この制限が発表されたのは2020年11月25日、『R-1』開催決定を伝える記者会見の場でのことだった。突然の発表だったため、予選に向けて1年間腕を磨いてきたベテラン芸人たちは、いきなり目標を失ってしまった。決勝常連のルシファー吉岡はイスから半日動けなくなったといい、会見ではおいでやす小田が「どうしてくれんねん!」と絶叫した(その1ヶ月後に小田が『M-1グランプリ2020』で準優勝するとは誰も予想できなかった)
その後、出場資格を失った芸人たちのために、クラウドファンディングによって『Be-1グランプリ』が立ち上がる。『霜降りバラエティ』(テレビ朝日)や『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)などで、ベテランピン芸人が吠える動きもつづいた。遂には、『R-1グランプリ』本選の前日 3月6日、芸歴制限をした張本人の『R-1』運営が、自らイベント『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』(U-NEXT)を開催するにまで至っている。
ただ、ベテランたちが参加できないからといって、今年の『R-1』が楽な戦いになったわけではない。
『R-1グランプリ2021』のエントリー数は、昨年の2532名から2746人へ増えているのだ。一旦は廃止されたアマチュアの出場が、再び認められたことも大きいだろう。今回の出来事を思えば再び芸歴制限が変わるかもしれず、若手にとってはこのチャンスを逃すわけにはいかない。また、突然「ラストイヤー」になってしまった芸人たちも、並々ならぬ思いで出場せざるを得ない。
■ゆりやん、本物の涙から
優勝が決まった瞬間、ゆりやんはその場で顔を覆った。泣いていると見せかけて面白い顔……という、いつものくだりではなく、本物の涙を流していた。過去に3度も最終決戦に残りながらも敗れ、今回が5回目の決勝進出。激戦を制する過酷さは、誰よりもわかっている。
悲願の優勝トロフィーを前に、ようやく顔を上げたゆりやんは……やっぱり面白い顔をしていたのだった。
井上マサキ
(いのうえ・まさき)1975年宮城県生まれ。ライター。テレビ好き&お笑い好き。元SEの経歴を活かしコーポレートサイトや企業広報も担当。「路線図マニア」としても活動し、共著に『たのしい路線図』『日本の路線図』がある。
文=井上マサキ
引用元 Yahooニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/63bb5ea3f933609b96776b0a110e66b82a20a72b?page=1
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