Googleが発表した「Gemini Enterprise」

 Googleのクラウド部門であるGoogle Cloudは10月9日、同社が同日開催する「Gemini at Work 2025」と呼ばれるイベントで発表される、SaaSベースのAIエージェント「Gemini Enterprise/Business」(以下Gemini Enterprise)の提供開始を明らかにした。

 従来のGeminiは、いわゆる会話ベースのAIチャットボットの形で、Google Workspaceのアドオンや機能の一部として提供されてきた。それに対してGemini Enterpriseは、AIエージェントとして活用できるだけでなく、Google Workspaceはもちろんのこと、Microsoft 365をはじめとしたGoogle以外が提供するSaaSツールとも連携して動作できる。

 最大の特徴は、データのコンテキスト(文脈)を理解して、会議のスケジュールを設定してくれたり、前後のメールなどから出席してもらう必要がある人に会議の案内を出したり、自動で会議のアジェンダを作成したりすることが可能になる点だ。

AIエージェントで業務効率を改善する「Gemini Enterprise」ビジネスの自動化にはタスクの高速化だけでなく、業務の最初から最後までのワークフローを自動化することが必要

 Googleは、2023年12月に新しいLLM(大規模言語モデル)「Gemini」を発表するなど、ここ数年生成AI関連のソリューションの拡充に力を入れている。Geminiは2023年に最初のバージョンが提供された後、2024年にGemini 2.0、そして2025年2月にはGemini 2.5が発表されており、それ以外にも画像生成モデルのImagen 4と動画生成モデルのVeo 3が5月に発表されるなど、AIモデルの拡充にも力が入っている。

 また、Googleは同社のSaaS型生産性向上ツールとしてのGeminiにもいち早く取り組んできた。Google Workspace向けのGeminiは、チャット型のユーザーインターフェイスをベースにしたアプリとして、Google AI ProやGoogle AI Ultra(個人向け)、Google Workspace(法人向け)などの有料プランに提供されてきた。

 今回Googleが発表した「Gemini Enterprise」は、従来のAIチャットボットをベースにしたAI機能ではない。より統合され、ビジネスプロセスの自動化などを可能にするAIエージェント、あるいはエージェント型AI(Agentic AI)などと呼ばれるより発展したAI機能を、クラウド上でアプリケーションとして(つまりSaaSとして)実現するものになる。

Gemini Enterprise Agent Designerのプレビュー提供

 Gemini Enterpriseでは、GeminiなどGoogleの最新AIモデルが利用可能だ。最近導入されて話題になったGemini 2.5 Flash Image(nano banana)やImagen、Veoなどの生成AIモデルなど、Googleが提供する各種の最新AIモデルが利用できる。

 また、Google CloudはこれまでAIエージェントをローコード・ノーコードで作成するツールとして「Google Agentspace」を提供してきたが、その発展形となるAIエージェント作成機能が今後提供される。それがプレビューとして提供される「Gemini Enterprise Agent Designer」で、自然言語を利用して、ないしは視覚的にエージェントを構築・編集できるだけでなく、企業のビジネスのやり方をAIが自動で理解して、プロセスの自動化を実現できる。

Gemini Enterprise パーソナライゼーションGemini Enterprise コーディングエージェント

 さらに、Googleやサードパーティが作成したAIエージェントを、カスタマイズして利用することも可能だ。今回発表された「Gemini Enterpriseパーソナライゼーション」を利用すると、企業内の組織図をAIが自動で作成し、それを元に企業や個人にパーソナライズしたAIエージェントの活用が可能になる。ほかにも、コーディングを自動化する「Gemini Enterpriseコーディングエージェント」も発表され、企業内のプログラマーの作業の生産性を向上させることができる。

Microsoft 365データを参照してコンテキストを理解しながら業務プロセスを自動化Gemini EnterpriseはGoogle以外のSaaSにも接続し、コンテキストを理解することが最大の特徴

 Gemini Enterpriseのもう1つの特徴は、Googleのクラウドストレージにあるデータだけでなく、サードパーティのSaaSアプリケーション上にあるデータも活用できることだ。

 従来のGoogle Workspaceに紐付いているGeminiの機能とは異なり、Gemini Enterpriseは単体で契約できる。Google Workspaceのアカウントを入手する必要すらなく、MicrosoftのEntra IDのアカウントでもサービスを利用できるとGoogleでは説明している。

 もちろん、Google Workspaceのアプリ(GoogleストレージやGmailなど)との連携も可能だが、Microsoft 365、ServiceNow、Salesforce、SAPといったGoogle以外のツールを利用している場合でも連携ができる。たとえば、Microsoft 365の電子メールサービスであるOutlook、クラウドストレージのSharePoint(OneDrive for Business)、Teamsなどと連携して利用することも可能だという。また、Google Cloudが提唱しているAIエージェント同士がやりとりするプロトコル「A2A(Agent2Agent)」にも対応しており、Googleだけでなく他社のAIエージェントとも接続して安全にデータをやりとり可能だ。

AIエージェントがメールなどと連携してコンテキストを理解し、会議の議題やスケジュール、参加者などを決定する

 こうした機能を利用することで、Gemini EnterpriseのAIエージェントが、Microsoft 365のような外部のSaaSが持つデータにアクセスしながら利用することも可能になる。たとえば、「10月のセールに関する会議を行ないたい」というプロンプトをGemini EnterpriseのAIに投げると、Outlookの電子メールやSharePointのストレージを参照して、10月のセールに関連している電子メールや文書ファイルなどを読み込む。そしてそのコンテキストをAIが解析して理解し、10月のセールに関する会議に必要な議題などを自動で生成して、それを元にメールなどで関係している人に会議リクエストを送るといった作業を自動で行なってくれる。

曖昧な指示でも、前後のコンテキストをAIが自動で理解して画像を生成する

 また、「10月のセールのための宣伝画像」などという非常に曖昧なプロンプトでも、ユーザーのメールやクラウドストレージを参照して、現在行なっているセールの商品が何なのかをAIエージェントが理解し、Imagenでその商品に関連した画像を生成するところまで作業を自動化してくれる。

 このように、ユーザーの持っている情報を解析し、その情報が持つコンテキストが何であるのかを理解して、AIエージェントがさまざまなプロセスを自動化してくれることがGemini Enterpriseの大きな特徴になる。

 GoogleによればGemini Enterpriseは、StandardとPlusという2つのエディションが用意され、年契約で1ユーザーあたり月額30ドルで提供される。Gemini Enterpriseを中小企業向けにしたGemini Businessもあり、こちらは年契約で1ユーザーあたり月額20ドルとなる。

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