2025年上半期、アフリカのスタートアップ市場が再び勢いを取り戻しています。総額14億ドルの資金が調達され、その中心にあるのはこれまでの「フィンテック一強」から、多様な分野へと広がる新たな動きです。

特に注目を集めたのはクライメートテック(気候テクノロジー)の急成長と、ヘルスケアや物流・輸送分野の着実な拡大です。

今回は、アフリカ経済を牽引する主要セクターごとの動向をわかりやすく整理していきます。


Source: Africa: The Big Deal H1 2025 Mid-Year Review

クライメートテックが台頭:21%を占める新たな主役

2025年上半期、クライメートテック分野のスタートアップは3億ドル(全体の21%)を調達しました。これは数年前のフィンテックの規模に迫る勢いです。

この成長は単なる「ESGブーム」ではありません。アフリカにおけるクライメートテックは、深刻な社会課題を実際のビジネスチャンスに変えています。

主な成長ドライバーは次の通りです。

電力アクセスの拡大:いまだ6億人が安定した電力を利用できない現状。
農業のスマート化:気候変動に対応する持続可能な農業ソリューションの需要。
交通・物流の効率化:都市部の移動課題が巨大市場を形成。

これらは「未来の問題」ではなく、今まさに現実の商機となっているのです。

安定成長を続けるヘルスケア産業

他分野が資金の波に翻弄される中、ヘルスケア分野は1億6,000万ドル(全体の11%)を維持し、安定した成長を見せました。

この分野が堅調な理由は明確です。

価値がわかりやすい:命や健康という誰もが共感できる課題に直結。
収益モデルが安定:病院・クリニック向けのB2Bモデルで予測可能な収入。
制度が整っている:複雑ながらも法規制や枠組みが明確。

COVID-19によるパンデミックは一時的なバブルを生むどころか、持続的な医療投資への理解を深め、より成熟した市場形成を促しました。

物流・輸送が静かに支える「デジタル経済の背骨」

物流・輸送分野も1億1,600万ドル(全体の8%)を調達し、アフリカのデジタル経済を支える基盤となっています。

Eコマースの拡大、越境貿易のデジタル化、都市化の進行によるモビリティ課題などが、この成長を後押ししています。

特筆すべきは、物流系スタートアップはフィンテックほど華やかではないものの、収益構造が明確で黒字化の道筋が立てやすいという点です。今後は「勝者総取り」型の競争が進む可能性もあります。

フィンテックは成熟期へ:次の進化が始まる

フィンテックは依然として6億4,000万ドル(全体の45%)で最大シェアを占めていますが、従来の勢い一辺倒ではありません。

決済や融資サービスが成熟する中で、成長の焦点は次の領域へ移っています。

中小企業・法人向けのB2B金融サービス
プラットフォームへの組み込み型金融(エンベデッドファイナンス)
貿易・送金向けのクロスボーダーソリューション

また、資金の流れはケニアやナイジェリアに偏らず、エジプト・ガーナ・セネガルなど新興市場へも広がっています。単なるデジタルウォレットを超え、複数の収益源を持つ総合金融プラットフォームへと進化しつつあります。

多様化が進むスタートアップエコシステム

不動産テック(プロップテック)、教育テック、ディープテック、サービス分野など、他分野にも2億ドル以上の資金が流れています。

これは、アフリカのスタートアップエコシステムが「一極集中」から脱却し、

各産業に専門性を持つ起業家の増加
地域課題に根ざした独自ソリューションの台頭
投資家によるリスク分散投資の進展

といった健全な多様化が進んでいることを示しています。

国別に見る成長の特徴

地域別に見ると、各国が得意分野で成長を遂げています。

🇳🇬 ナイジェリア:依然としてフィンテックが主導、物流も急拡大中。
🇰🇪 ケニア:エネルギー・農業分野が好調で、産業の多様性が際立つ。
🇿🇦 南アフリカ:ヘルステックやB2Bソフトウェアのリーダー的存在。
🇪🇬 エジプト:新たなフィンテック拠点として台頭し、インフラ投資も加速。

また、主要4カ国以外ではクライメートテックや農業関連が強く、自然資源と地域特性を活かした成長が見られます。

投資家が見る“次の一手”

投資家のタイプによって注目セクターは異なります。

海外VC:世界展開可能なフィンテック・B2Bソフトウェアを好む
ローカルファンド:インフラやヘルスケアへの投資に積極的
インパクト投資家:クライメートテックや金融包摂分野を重視
デットファンド:収益性のあるフィンテック・物流企業に注目

このように、資金の性質や目的によって、投資の方向性が明確に分かれています。

2025年下半期の展望

今後の展開としては次の動きが予測されます。

クライメートテックの淘汰と統合:3億ドルの投資が集中し、勝者と敗者が分かれる。
ヘルスケアの大型化:成熟企業によるシリーズB〜Cの大型調達が見込まれる。
フィンテックの再編:基礎サービス市場が飽和し、差別化が必須に。
新分野の登場:エドテックやB2B SaaSが投資家の関心を集め始めている。

多様化がもたらす「エコシステムの進化」

2020〜2022年の「フィンテック一強」から、2025年は明確な転換期を迎えました。この多様化は、アフリカの経済・社会に次のような効果をもたらしています。

リスク分散による安定化
起業家人材の多領域での成長
複数産業での市場検証とスケール化
雇用創出・経済発展への波及効果

もはやアフリカのスタートアップ市場は「金融」だけの話ではありません。現実の課題をビジネスで解決する多層的な経済変革の物語へと進化しています。

まとめ

2025年上半期のアフリカ・スタートアップ市場は、「資金が集まるか」ではなく、「どの分野が持続的に成長できるか」が問われる段階に入りました。

クライメートテックの台頭、ヘルスケアの安定成長、物流のデジタル基盤化など、アフリカのスタートアップは大陸固有の課題を強みに変える挑戦を続けています。

次なる焦点は、こうした多様なセクターがどこまで momentum(勢い)を維持し、新たなアフリカのテック・ジャイアントを生み出せるかという点にあります。

著者:Lawrence Maina (Axcel Africa Consuliting アソシエイトコンサルタント)

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