(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年9月23日付)
ポーランドの空軍基地に着陸したフランスの2人乗り戦闘機「ラファール」(9月18日、NATOのサイトより)
北大西洋条約機構(NATO)はバルト諸国の防衛にどれほどコミットしているのか――。
これは先週、ロシアの戦闘機がエストニアの領空を侵犯した時にウラジーミル・プーチンが間接的に投げかけていた疑問だ。
NATOの公式な立場は明確だ。
32カ国が加盟する軍事同盟は領土の隅々まで防衛する。この固い決意は、ロシア国境に近いエストニアのタパ軍事基地で示されている。
タパ――エストニア語で文字通り、「殺せ」という意味――はかつてソ連の空軍基地があった場所だ。今ではエストニア陸軍と英国主導のNATO戦闘部隊の主要基地になっている。
エストニアの軍事基地にNATO戦闘部隊
筆者が先週タパを訪問した時、英国の王立戦車連隊(RTR)から部隊が到着したばかりだった。
フランスから派遣された小規模な分遣隊とあわせると、両国の部隊は基地にかなり立派な火力を備えており、英国の主力戦車の「チャレンジャー2」や自走榴弾砲の「アーチャー」、装甲兵員輸送車の「グリフォン」もある。
英国、フランス、エストニアの部隊は統合指揮構造を持ち、ロシアがエストニアに侵攻するようなことがあれば、一緒に戦闘に参加する。
タパ基地の駐留部隊はロシア軍による本格的な攻撃を撃退するよう訓練されている。
だが、西側の戦略立案者たちは、ロシアはむしろ、当初は漸進的に動きを進め、NATOの反応と結束を試すよう仕組まれた小規模で曖昧な作戦を実行する公算が大きいと考えている。
先週のエストニア領空の侵犯はこのパターンに合致する。
前の週にロシア軍のドローン(無人機)がポーランドに大々的に侵入した後だけに、特にパターンに合う。
一部のドローンはNATOの戦闘機に撃墜され、NATOはその後、東側の国境地帯への戦闘機配備を増強した。
NATOは週内にエストニアへの領空侵犯にどう対応するか議論することになっていた。
(編集部注:北大西洋理事会が23日に会合を開き、NATOは声明で「全責任はロシアにある」と非難し、「無謀な行動には断固たる対応をとり続ける」とロシアに警告した)
同盟内には、将来的には、NATOは加盟国の領空を侵犯したロシアの航空機を撃墜すべきだと主張する人がいる。
だが、特に米国には、戦闘機の撃墜は危険なエスカレーションになると考える人もいる。
ロシアはこうしたNATO内の潜在的な分裂を試すために、徐々に挑発行為を増やしていくかもしれない。
長らく議論されてきた一つのシナリオが、恐らくはロシア系民族の保護を口実としてロシアの地上軍がバルト諸国の一つに侵攻することだ。
クレムリンの究極の目標はNATOの条約第5条に定められた集団安全保障が無価値であることを証明することだ。
ロシアにそれができれば、欧州の小国を一つずつ切り崩していこうとするかもしれない。
その場合、ロシアは一度としてNATOの総力と戦わずに済む。
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