26日にオープンする「Apple 銀座」
米アップルのティム・クックCEOが来日し、26日オープンの「Apple 銀座」の視察や、政府首脳との会合などを行なっている。その中で、日本のアプリデベロッパーと直接対話する機会も持った。その様子に密着することができたので、会合の模様をお伝えする。
また、アプリエコシステムについてクックCEOから直接コメントを得ることもできた。その内容も紹介したい。
ティム・クックApple最高経営責任者と、平将明デジタル大臣で面会し、意見交換をさせていただきました。@tim_cookIt was a very meaningful discussion. Thank you.pic.twitter.com/u8dRX9p869
— 林芳正 (@hayashi09615064)September 24, 2025気象対策アプリ「アメミル」にクックCEOも関心
今回クックCEOと会ったのは4社のデベロッパー。それぞれ日本を中心に支持されたアプリだ。
最初に紹介されたのは「アメミル」(開発元:島津ビジネスシステムズ)。気象情報からゲリラ豪雨などの通知を受け、安全に過ごすことを目指したアプリだ。
「アメミル」の画面
同社によれば、日本は気候変動の影響から、この数十年の間に、甚大な気候災害の数が倍に増えているという。大雨による自然災害を避けることを願って開発が続けられている。
「アメミル」アプリは5人という少ない人数で開発されているが、そのうち4人が気象予報士というプロフェッショナルの集団だ。この点には、クックCEOも感嘆していた。
「アメミル」開発陣と談笑するクックCEO
地図の上に雨が降っている地域を示し、今後の予測を表示するのが主な機能だが、特に同社は、アップルのOS群が搭載する新機能の採用に積極的だ。
過去にもARKitを使った日本全域の立体マップ表示や、視野のどの方向に雨雲があるかを示す「3Dモード」などを搭載。AIの基盤技術である「CoreML」を使い、気象予報士のテキストから、その場所の情報にあった解説を自動生成する機能を搭載している。
今後の方向性として、台風の雲を3Dで表示する機能の搭載や、Apple IntelligenceのFoundation Frameworkを使い、「自分のスケジュールを加味して、それぞれの位置で将来の状況に合わせた予報の提示」ができるようにしたい、としている。
同アプリは気象データの関係もあり日本のみで展開されているのだが、クックCEOが「これは日本以外では展開されないのですか?」と聞くシーンもあった。
アメミル(App Store)
App Store連動でスタートダッシュを決めた「怪獣8号 THE GAME」
2社目は「怪獣8号 THE GAME」(開発元:アカツキ)。
大ヒットアニメのゲーム化作品だが、特徴的なのは「アニメの進行と同時にゲームが展開される」ことにある。
通常、この種の展開は「アニメやコミックがひと段落してから」行なわれる。ゲームの中で使われるアセットやシナリオを用意するには、作品がひと段落しないと難しいためだ。
だが本アプリでは、アニメの展開とほぼ同時展開で進んでいる。アニメで新キャラクターが出ると、その翌週にはゲームの方でも同じキャラクターが登場する。しかも、ゲーム内で使われるボイスは、ゲームのためにアニメと同じ声優を起用し、オリジナルのセリフを収録しており、この点でも同期している。
グラフィックスでは(手描きアニメのような)セルルックなキャラクターと生々しいモンスターの同居を目指し、iPhoneの高いグラフィック性能を活かした絵作りが進められたという。
本作は8月末にスタートした作品だが、スタートからの2週間で、全プラットフォーム累計300万ダウンロードを達成している。その中でもiPhone向けは、App Storeと連携して春からキャンペーンが行なわれた。その結果として、スタート時からのダウンロード数が好調に推移した、と同社は説明している。
クックCEOが「利用者の海外比率は?」と聞くと、同社からは「日本と海外で半々です」と答えている。アニメ自体も日本・海外の双方で人気だが、ゲームも同様にうまく展開できているということだろう。
怪獣8号 THE GAME(App Store)
Apple Intelligenceを活かした「LINE スタンプメーカー」
3本目は「LINE スタンプメーカー」(開発元:LINEヤフー)。
「LINE スタンプメーカー」の画面
日本人には馴染み深いLINEのスタンプを作るアプリだが、その中でApple Intelligenceの機能である「Image Playground」の画像生成を使っている。Image Playgroundでは、写真やプロンプトから画像を生成できるのだが、それにさらに装飾などを追加してLINEスタンプにして配布する……ということが可能になる。
LINEヤフーは「世界的に見ると、クリエイターは生成AIを使うようになってきている。LINEスタンプについても対応が必要だったが、自分たちで生成AIモデルを作るのは困難。コストもかかる上に、市場への投入に時間がかかる」と分析していたという。
そこで、Image Playgroundに注目した。この技術はApple Intelligenceが使えるiPhoneならどの機種でも無料で利用できるため、「参入障壁が非常に低い」(LINEヤフー)と判断したという。また、プライバシー・セキュリティ・安全性の面も確保されている。そのためすぐに採用を決め、アプリ開発に入ったという。
この種のステッカーでは、世界中のクリエイターの半数がすでに生成AIを使っており、「日本でもクリエイターが指数関数的に増えると予測している」(LINEヤフー)という。
クックCEOも活用の戦略性に同意し、価値を評価していた。
LINE スタンプメーカー開発者と話すクックCEO
LINE スタンプメーカー(App Store)
個人で40本以上のゲームを開発、海外で売れたものも
最後は、パズルゲームの「KaruQ」。開発しているのは、個人開発者の桑木龍司氏だ。
桑木氏は35年間のゲーム開発歴を持ち、キャリアの前半を家庭用ゲーム機向けソフトの開発者として過ごしていたという。
だが、2008年7月、iPhone 3Gの発売に合わせてApp Storeがスタートすると、「個人の開発者でもゲームビジネスに参入できる」とわかり、会社を辞め、以来、個人開発者として多数のゲームアプリを作り続けてきたという。
桑木氏はこれまでに40本以上のゲームを開発、今も多数の作品がApp Storeで提供されている。
桑木氏が開発、App Storeで配布しているゲームのリスト
中でも「スバラシティ」などは日本市場だけでなく海外でも販売され、幅広い人たちに愛されているという。
「KaruQ」は桑木氏による最新作で、足し算・掛け算を活かした算数パズルゲーム。シンプルな操作で幅広い人々が楽しめるのが特徴だ。クックCEOもルールの面白さを評価していた。
KaruQ(App Store)
個人を世界に導く。規制当局とも「どうするのが最善か」を対話中
各開発者との対話が終わったのち、クックCEOは記者からの質問に答えた。
――今日お会いした日本の開発者は、全員が最新のiOS技術を使って開発をしています。この点にどんな印象を受けましたか? そして、iOSの価値をより拡張する上で、どのような意味を持っていると感じますか?
クックCEO(以下敬称略):CoreMLにしろ、RealityKitにしろ、Liquid Glassにしろ、最新の技術が使われているのを見るのは素晴らしい体験でした。自分たちがすべてをかけて作ったものだからこそ、見ていて胸が熱くなります。オペレーティングシステムとハードウェアの双方が活用されているのを見られたのは、素晴らしいことです。
――個人のアプリゲーム開発者もいらっしゃいました。App Storeの素晴らしさの一つは、個人や学生でもアプリを作ることができ、それを世界全体に提供できることです。
クック:自分の家で、住みたい場所でアプリを作れるのは素晴らしいことです。ボタンを押すだけで世界175カ国に提供されます。すごいですね。
考えてみれば、これは(App Storeが登場する)以前には不可能だったことです。今は可能になり、Appleが人々に力を与えたことは素晴らしいことだと感じています。
もはや特定の場所に住んだり、9時から5時までの仕事に行ったりすることを強制されることはありません。自分でアプリを作って、起業家になることができます。
日本の開発者は昨年、App Storeを介して7兆円を稼いでいます。その大部分は開発者に還元されています。こうした動きの一部になることができてうれしく思います。
――今日会った開発者たちに、どのような印象を持ちましたか? 今後のコラボレーションの可能性は?
クック:非常に才能があり、非常に創造的で、非常に芸術的です。しかも、起業家精神にあふれています。パズルから気象アプリ、ゲームまで、非常に幅広いものです。皆さんに強い畏敬の念を抱いています。
彼らが私たちの技術を使って、彼らのアプリをさらに価値あるものとするのを見てみたいと思います。
例えば天気アプリ(アメミル)では、私たちがデバイスに搭載したFoundation Modelを使用し、さらにアプリを次のレベルに進めると話していました。このような変化を見てみたいと思います。
――現在、iPhoneは日本市場で最も売れているスマートフォンです。iPhoneが日本で最も人気のあるスマートフォンであるという事実と、日本のアプリ開発者から見た創造性との間には、どのような関係があると思いますか?
他方で、ビジネス環境や開発者、開発環境を危険にさらすあらゆる種類の脅威も存在します。環境やビジネス、開発者を守るためにはどうすればいいと思いますか?
クック:後者については、規制などについてですね。
――はい。
クック:私たちのブランドは、プライバシーとセキュリティ、使いやすさを重視しており、これからもこの方針を継続したいと思っています。
ですから、規制当局とは、今後どうするのが最善かを話し合っています。そしてこの点について、彼らが受け入れてくれることを期待しています。
前者(iPhoneが日本で支持されている)の質問には「共生関係」があると思います。要は、最も人気があることと、最も才能のある開発者がプラットフォームで働くことの間には大きな関連があります。
主な理由の一つは、人々が使用できる多くのツールを提供していること。それは、彼らがもつ情熱を追求できるようにするために、です。
気象学者の情熱は天気に向けられています。かっこいいステッカーを作り、自分のアートを世界に売ることができる人たちもいます。
我々は、人々が自分の情熱に従うのを見るのが大好きです。だからこそ、私たちは自分たちの仕事をしているのであり、そのための素晴らしいツールを提供しています。
1人の開発者から5人、大規模な開発者まで、開発者の幅が広いのは素晴らしいことです。
そして、彼らは皆、自分たちが思うような方向にビジネスを成長させています。
その様子を見られることは素晴らしい。自分たちの製品を世界に提供できる人たちを助けられるのは、素晴らしいことです。
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