チベット自治区シガツェ地区の海抜約5500メートルの高原で9月19日に行われた花火アートイベントに対し、環境破壊への懸念・批判の声がオンライン上で噴出。プロジェクトを実施した中国の高級アウトドアブランド、アークテリクスとアーティストの蔡國強が、ともに謝罪声明を発表した。

このイベントでは、色とりどりの煙を発する花火が山麓に壮大な龍の姿を描き出す《The Rising Dragon(昇龍)》が披露された。同作品は、火薬を爆発させて描いた蔡の火薬絵画《昇龍:外星人のためのプロジェクト No.2》(1989)に関連したものだが、写真や動画がネット上にアップされると、環境問題への配慮が欠けているのではないかとの批判が巻き起こった。

これを受けて中国当局も対応に乗り出し、CNNによると、「シガツェ市の共産党委員会と市政府はこの件を重く受け止め、直ちに調査チームの現地派遣を決めた」との声明を発表。また別の報道によると、当初シガツェ市の関連部署は手続きは合法だったとしていた。

カナダで設立され、2019年に中国資本の傘下に入ったアークテリクスは、公式インスタグラムで次のように謝罪している。

「今回の一件は、私たちのアウトドアへの取り組みや存在意義、地域社会と住民のためにこうありたいと考える姿とは正反対のものでした。このような事態が発生したことを遺憾に思い、深くお詫び申し上げます」

また、蔡の声明では、「私のスタジオと私は、今回の一件を重大なこととして捉えています。チベット高原でのアート制作に対するあらゆる批判を謙虚な心で受け止め、提示された懸念や指摘に心より感謝いたします」と述べられている。

蔡の作品は以前にも物議を醸したことがあり、最近では昨年、ロサンゼルスのゲティ財団による「パシフィック・スタンダード・タイム」プロジェクトの一環として行われた花火パフォーマンス後、負傷の報告や騒音・破片に関する苦情が寄せられた。

ロサンゼルス・タイムズ紙が報じたところによると、「南ロサンゼルス周辺の住民らは爆弾が爆発したかと思ったと話し、道に漂ってきた煙に不安を覚え、窓を閉める者もいれば緊急事態が起きたと考える者もいた」という。同記事で蔡は、「花火に不具合はなかった」とした一方で、その影響について「非常に心配で申し訳なく思う」と答えている。

なお、中国福建省生まれの蔡は1986年に日本に移ったのち95年に渡米し、現在はニューヨークを拠点に活動している。日本滞在中に制作拠点とした福島県いわき市を第二の故郷と呼ぶ彼は、いわき万本桜プロジェクトと共同で「いわき回廊美術館」を2013年にオープン。2023年6月には、白天花火《満天の桜が咲く日》をいわき市の海岸で実施し、東京・国立新美術館での大規模個展「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」の幕開けを飾った。(翻訳:石井佳子)

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