ベトナムのハイフォンにあるコンテナターミナル。ASEAN諸国が漁夫の利を得られるかどうかは中国との関税率差次第(写真:ロイター/アフロ)

 オウルズコンサルティンググループによる「トランプ2.0時代のインド太平洋経済秩序と日本企業への影響」をテーマとした連続対談。第2回は、貿易論をベースにインド・東南アジアの政治経済を専門とする椎野幸平・拓殖大学国際学部教授と、同社チーフ通商アナリスト・福山章子による対談の概要をお届けする(9月11日実施)。

トランプ2.0下でASEAN諸国の「漁夫の利」は続くか

福山章子(以下、福山):最初にトランプ関税のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国への影響についてお伺いします。第1期トランプ政権(トランプ1.0)では、米国は中国に高関税を課し、ASEAN諸国は「漁夫の利」を得ていると言われました。データからも、ベトナムなどのASEAN諸国からの対米輸出の増大や、米中両国からの対ASEAN投資の増加がみてとれます。

 第2期トランプ政権(トランプ2.0)では、こうした点も踏まえ、ASEAN諸国を含む世界の多くの国に相互関税が課せられました。

 現時点でのASEAN諸国に対する相互関税率は、4月の公表時よりは下がった国が多いですが、それでもベトナムは20%、タイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン・カンボジアは19%と決して低くありません。このようなトランプ関税のASEAN経済への影響をどうみていらっしゃいますか。

 また、異なる関税率を課せられたASEAN諸国が、自国に有利な環境を築こうとすることでASEANの分断を招くのではないかという見方があります。他方、トランプ関税という共通の課題に対処するために域内経済統合が深まるとも考えられます。こうしたトランプ関税がASEANの経済統合に与える影響をどのようにお考えでしょうか。

椎野幸平氏(以下、椎野):まず、トランプ関税のASEAN経済への影響ですが、ご指摘のように、トランプ1.0では主として中国の幅広い品目に追加関税が課されたため、ベトナムを中心に東南アジア、インドに正の貿易転換効果が生じました。いわゆる「漁夫の利」です。

 トランプ2.0では、中国以外の国にも幅広く追加関税や相互関税が発動されていますが、中国にも引き続き高関税が課せられています。トランプ2.0では中国に30%の追加関税が現時点で課せられていて、今後引き上げられる可能性があります。これにトランプ1.0時代から多くの品目に課せられている7.5~25%の追加関税が加わります。

 これに対して、ASEAN諸国に対する相互関税は先ほどご指摘の通りですが、加えて、シンガポールが10%、ブルネイが25%、ラオスとミャンマーは40%となっています。インドに対しては、25%の相互関税に、ロシアからの原油輸入に対する二次関税として25%の計50%の追加関税が課されています。

 ここで鍵となるのが中国との関税率差です。

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