2025年9月19日 午前7時30分

 【論説】坂井市の「新産業共創事業」が今夏、本格的に始まった。来春までの予定で、繊維、ドローン運航の2業種で独自技術を持つ県外スタートアップ(新興企業)5社が事業化に向け市内企業と連携していく。どう進展していくかが楽しみだ。

 8月下旬、ハピラインふくい春江駅近くに市が改修整備した事業拠点「SAKAI WEAVE(サカイ ウィーブ)」でキックオフイベントが行われた。

 繊維3社、ドローン2社の計5社は、▽砂糖の原料となる植物「テンサイ」の残りかすを活用した「微生物セルロース」によるマイクロ繊維製品化▽安全性が高く、かつ着やすく動きやすい船内・船外用宇宙服の研究開発▽ドローンによる長距離輸送サービス展開―などの事業化を目指す。

 そのうちの一社、Ensoa(エンソア、福岡県)は間伐材を原料とした木糸、オリジナルの天然染料を生かした製品開発を手がける。今回、木糸と生分解性ポリエステルによる低環境負荷の生地開発などに取り組む計画で、売り込み先としてアウトドアブランドを想定している。協力相手の経編ニット生地製造、アサヒマカム(坂井市春江町)の鈴木博之社長は「社としても挑戦が必要な時期でまずやってみようと。スタートアップ側からも学んでいきたい」と意欲を語る。市内企業の独自技術に光が当たり、新たな展開を見いだせる機会になることも期待したい。

 同共創事業は、投資やコンサルティング業を行うレガシー・イノベーション・グループ(東京)が運営に当たる。坂井市内では繊維の中間加工を手がける企業が多く、その前段階の素材開発に関する技術を持つスタートアップ企業が選ばれたという。今後も繊維を中心に毎年5社ずつ市内企業との連携を進め、5年後には10社程度が市内に拠点を設けるなど定着することを目標に掲げている。

 目指す産業クラスター(集積地)のイメージは具体的に定まっていないが「協業し合っていく関係性になれば」と同社幹部は話す。同社は担当者を市内に常駐させ、スタートアップ企業の社員のごとく伴走。市内企業との調整も担い、スタートアップ企業への投資を含めたリスクも負うと覚悟を示す。

 スタートアップ企業にとって坂井市はこれまで、縁のない土地だった。地元企業や市との信頼関係を築き、今後も市内で継続していけるか、研究開発環境や支援体制を見極めてもらいたい。ここ半年ほどが、同共創事業の成否の鍵を握る大事な期間となりそうだ。

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