人間と植物との関係をテーマに作品を制作してきたアーティスト・平子雄一の個展「平子雄一展 ORIGIN」が、岡山県立美術館
で開幕した。会期は11月9日まで。なお、本展は香川、岡山、兵庫の3県8つの美術館で、日本人の現代美術家による作品を中心とした展覧会を開催する、瀬戸芸美術館連携プロジェクトのひとつとなっている。
平子雄一は1982年岡山県生まれ。1999年にイギリスに渡り、2006年にウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートの絵画専攻を卒業後、現在は東京を拠点に活動している。近年の個展に練馬区立美術館(2022)、Space
K(ソウル、2023)、奈義町現代美術館(岡山、2024)で個展を開催。2023年には岡山市にオープンした「岡山芸術創造劇場 ハレノワ」に常設作品が展示された。
本展は平子の故郷である岡山県で初の大規模個展となり、展示室のみならず、屋内広場や中庭など、美術館の建築を活かした展示が展開されている。本展について平子は次のようにコメントした。「まだまだやりたいことはありましたが、それでも過去最大の力を注いで完成させた個展です。あとは作品がすべてなので、みなさんが何かを見て、自然とはなにか、生活とはなにか、人間となにか、といった問いを持ち帰ってもらえれば」。
エントランスの吹き抜けでは、展覧会の垂れ幕の下に、平子が繰り返し自作のなかに登場させてきた、樹木の頭と人間の身体をもった存在の木彫立体作品が什器のうえに並んでいる。遠くから見ると山に、近づくと密集した森に見えるこの集合は、平子が自身の創作のテーマとしてきた植物と人間の関係と、それを担保している人間の社会を端的に示しているかのようだ。
展示室に入ると、円形のテーブルに載った大量の食材や料理の数々と、それを囲む木の頭を持った存在とや猫が来場者を迎え、これらはいずれも木彫によってつくられている。平子はこれらを「自然物と人工物の合間としての食」と表現する。よく見るとトマトが青色をしていたり、タマネギが赤かったりと、普遍的な野菜の姿とは異なる姿も見受けられ、品種改良によって人間の口に合うように植物の姿を変えてきた人類の歴史を想起させる。
また、壁面にはキャビネットを模した什器に生活用品や家電などを模した作品が載っており、平子作品に登場する存在たちが暮らすリビングを訪れたような気持ちになる。作品のカラフルな着色と相まって、誰もが作品を一点一点楽しめる空間となっているが、いっぽうで、人間が生活をするうえで必要となる物量の不自然さ、そして生活の空間に自然の象徴として植物が求められる不思議さが問いかけられていると見ることもできる。
奥行きのある細長い展示室では、木目がそのままに出たパネルとともに、平子がその多くを今年に入ってからと語る、立体、平面、ドローイングが並んでいる。展覧会の冒頭では立体作品が目立ったが、平子のキャリアの原点には専攻して学んだペインティングがあるといえる。ここでは、平子の平面作品における立体性、あるいは立体作品における平面性を意識しながら見ていくと、平子の表現の幅により迫ることができるはずだ。
最後の展示室には、シンプルに高さ約3メートル大型のキャンバス作品4枚が壁面に並ぶだけとなっている。そこれもまた、平子の絵画への愛着を示しているようにも感じられるはずだ。風景画、肖像画、静物画、あるいはその混合のようなこの4枚の作品からは、ただ自然がモチーフになっていて美しい、楽しいというだけではない、自然物の居心地の悪さやそれを求める人間の複雑さも浮かび上がってくる。
今回の展覧会では、いたるところで平子が観客が作品とより身近に触れ合えるような工夫も凝らされている。中庭に設置された、平子が考案した子供向けの遊具もそのひとつだ。家のなかには頭部が木になっている存在と猫の姿があり、作品世界に没入することが可能だ。
また、会場に特設されたオリジナルグッズのブースも、ひとつの作品といえるかもしれない。木製パネルの手づくり感あふれるブースには、平子自身の手でショップ名や価格が書かれており、例えば小さなサイズの木の頭部をもった存在のキーホルダーを購入することができる。自然の一部を自宅に置きたいという欲望と、展示の一部を自宅に持って帰りたいという欲望。ここにも平子の興味の対象が現れているようだ。
あまりにも素朴に自然や植物を人間の対概念ととらえてしまう現在において、あえてその不自然さを問いかける平子の大規模個展。親子連れでも楽しめる楽しい空間であると同時に、人間が自分たちの社会のなかで自然や植物を扱うこと、それ自体への違和感をも喚起してくれる展覧会だ。
文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)
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