この2年、フランスの首都は人工知能(AI)熱に沸き、現在の評価額が62億ドル(約9,400億円)に達したMistralをはじめ、欧州で最も話題のスタートアップ企業をいくつも立ち上げてきた。その背景のひとつに、この業界に対する後押しがある。エマニュエル・マクロン大統領は、フランスのAIスタートアップに強力な政治支援を与え、通信業界の億万長者グザビエ・ニールも、この国家的野望に多額の資金と熱意を投資してきた。2023年9月、ニールは2億ユーロ(約320億円)を投じ、Mistral、AI研究所のKyutai、NVIDIAが主導するクラウド型スーパーコンピューターなどのスタートアップ企業にその資金を分配した。「わたしは起業家好きの古い人間で、ずっと同じことを考えています。この才能を流出させずに、ここで会社をつくってもらうにはどう手助けをすればいいか、ということです」とニールは言う。
電気通信会社Iliadを所有する、やり手のフランス人実業家であるニールは、欧州のAI企業がいま動けば大きなチャンスが生まれると信じている。「検索エンジンをゼロからからつくろうと思っても、25年の実績がある企業にはかないません。AIについてもまったく同じことが言えます」とニールは語る。欧州が米国と競うには、迅速に動く必要がある。「[そうでなければ]結局、この街は世界一の芸術の都ということになるでしょう。それも悪くはありませんが、もう少し違うことに挑戦してもいいと思うのです」
Mistral
欧州のほとんどの国に、OpenAIと競合するスタートアップ企業が存在する。だが、Mistralほど強力なライバルはいないだろう。同社はこれまで、マイクロソフトから受けた1,500万ユーロ(約24億円)の投資を含め、10億ユーロ(約1,600億円)を調達している。23年4月の設立以来、CEOのアーサー・メンシュ、ティモシー・ラクロワ、ギヨーム・ランプルの3人の共同創設者がこのスタートアップをまとめ上げ、主力の多言語テキスト生成モデルMistral Largeを含む12のモデルをリリースしてきた。それらは公開リポジトリから2,700万回ダウンロードされており、Mistralのクライアント(通信会社のOrangeや、Hugging Faceなど)は、同社のモデルを用いて宣伝文句をつくったり、独自のバーチャルアシスタントを強化したりしている。同社の無料チャットボットLe Chatは、OpenAIのChatGPTとよく似た機能をもち、Mistralのオープンソース技術を一般の人々が試せるよう設計されている。「オープンソースはますます注視されていることから、テクノロジーのスピードと安全性を高める手段としてオープンソースを推し進めてきました」と、めったに表に出ないCEOのメンシュがCNBCのインタビューに応じ、欧州はテクノロジー超大国と競争するための転換点にいると語った。「わたしたちには強い気持ちがありますし、必ず追いついてみせます」と彼は断言する。mistral.ai
Sweep
持続可能性を軽視する企業は、ふたつの大きなリスクに直面する。規制と評判だ。そう語るのは、2020年にヤニック・チェーズ、ラファエル・ギュラーとともに持続可能性に特化したデータ管理プラットフォームSweepを共同設立した、CEOのレイチェル・デラクールだ。「すべての企業は低炭素経済に移行する必要があります」と彼女は言い、事業全般の持続可能性の目標を追跡できることが、企業にとって競争上優位になっていると述べる。「最終的に、あなたの仕事の真価は、顧客、従業員、サプライチェーンから問われることになるでしょう」。同社はすでに、ロレアルや英国のエネルギーグループSSEをはじめとする数百の顧客と仕事をしており、クライアント企業は、サプライチェーン全体のデータをプールし、持続可能性の弱点を特定するために同社のプラットフォームを利用している。例えば、手洗いが必須のウォーターボトル製造社が顧客の場合、客が食器洗浄機でそれらを洗ったら、どの程度節水になるかが確認できるようになるとデラクールは言う。今年、iPodの生みの親であるトニー・ファデルの出資を受け、総額1億ドル(約150億円)を調達した同社は、米国への進出に力を注いでいる。sweep.net
Dust
Dustもまた、パリを拠点とする話題のAIスタートアップだ。共同創設者のガブリエル・ユベールとOpenAI出身のスタニスラス・ポリュが03年に立ち上げた同社は、企業用カスタムAIをつくっている。これまでのところ、PennyLaneやWatershedといった企業の500のチームを含むクライアントの大半は急成長を遂げているが、まだ厳密なプロセスは導入されていない。言い換えれば、チームは専門のコンテンツライターやフィードバック分析AIアシスタントを自分たちで自由に構築できるということだとユベールは説明する。2,000万ユーロ(約30億円)を調達した同社の背景にあるのは、オフィスワーカーに必要なのは、多目的AIアシスタントひとつだけではないという考え方だ。そうではなく、さまざまなタスクを実行するには、高度に専門化された一連のモデルから選択すべきだと考えているのだ。「このレベルのカスタマイズをすることで、報告書、[スプレッドシート]、実行可能なインタラクティブグラフなどを、必要なときに確実に入手できるようになります」とユベールは言う。dust.tt
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