「現代の式年遷宮を実現したいという依頼からプロジェクトがキックオフしました。ユースの子どもたちがプロとなり、引退後は後進を育てるという20年規模のタイムスパンと、建築のタイムスパンのサイクルが合わせられないだろうか。そうすれば人と建築が共に育つ、真にサステナブルな建築の在り方が実現できるのではないか。そんな問いから始まり、地域資源を活用し市民の力でスタジアムを建てる、そんな新しい文化を技術と共に未来に継承していこうという方針が決まりました」

具体的な建築設計から見ていけば、従来の小規模スタジアムでよく見られるメインスタンドに座席が集中する方式ではなく、高さ16m以下の2階建て住宅規模の断面を一周させる構造を採用。コスト高を招きやすいメガストラクチャーを避け、「ヒューマンスケールのスタジアム」を実現することで、コストを抑制しつつ施工性を高める。

ひときわ目を引くのは、茅葺きの三角屋根が連続する、福島・南会津の伝統的建築景観「大内宿」を彷彿させる屋根だ。半屋外型スタジアムの屋根は、逆アーチのような双曲放物面の形状が連続する「HPシェル構造」によって、大きな柱や梁を必要とせずに大空間を実現する。直線の製材を用いることで、加工や施工の容易さ、またさらなるコストの抑制も図る。

そして、スタジアムで使用するすべての材には福島県産の製材を用い、各部材を分解・再利用が可能な設計にすることで、地域資源の循環を目指してもいる。

1階には更衣室や控室、トイレ、売店等を配置。メインスタンド側2階にはVIP席・実況席など主要機能を設け、バックスタンド側には収益性を考慮しホテル機能を導入予定。

1階には更衣室や控室、トイレ、売店等を配置。メインスタンド側2階にはVIP席・実況席など主要機能を設け、バックスタンド側には収益性を考慮しホテル機能を導入予定。

IMAGE: VULD継承と循環を生む祝祭的建築へ

より注目したいのは、地域と、そこで暮らす人間の営みに近いスケールでの「資源循環・地域参加・技術伝承」という思想が、ハードとしての建築のみならず、それにいたるまでのプロセスにも組み込まれている点だ。その根底には、「リジェネラティブの本質は人間の生成力の再生ではないか」という、VUILDが常に念頭に置く問いが流れてもいる。

連続的な曲面を描く屋根のシェルは、オフサイトで人々の手によってユニットを製作し、現地での組み立てを可能にした設計となっている。この建築の部材を作る過程では、構成部材を地域参加者が運び、引き起こすことでシェルや懸垂屋根を組み上げる方式を計画しているそうだ。クラブ関係者や地域住民が「祭り」のように製作に参加できる、祭礼における神輿や巨木建てに倣った祝祭的な建設プロセスを据えることで、「建築工事」を超えた「復興的建設の象徴」となることを目指している。

「わたしたちVUILDの考えるリジェネレーションとは、人間の生成力を再生することを通じて地域や地球を再生することです。リジェネレーションというと、人ならざるものの議論になりがちですが、フェリックス・ガタリがエコロジーの定義を環境のみならず社会や精神の領域に拡張したように、人間の精神や創造性の再生が最重要であると考えています。モノをつくる能力の回復を通じて、人間の精神を前向きにし、それによって他者や異物との交流を促進し、その先にある社会や地球との回路を接続するといった考えです。このスタジアムのプロジェクトは、市民の生成力を高めることを通じて、地域の再生と環境の再生の両輪を回していくことを目指しています」と秋吉は言う。

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