香川県・丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で「大竹伸朗展 網膜」が8月1日から開催されます。同館では2013年の「大竹伸朗展 ニューニュー」に続いて12年ぶりとなる大竹伸朗の個展です。
大竹は1970年代後半より作品発表を始め、ドクメンタ(ドイツ)やヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア)など重要な国際展への参加を経て、近年では東京国立近代美術館を皮切りに愛媛、富山へと巡回した大規模な個展まで、国内外での幾多の展覧会を開催してきました。その半世紀におよぶ活動を通じ、圧倒的な熱量が生み出した膨大かつ多様な作品の数々から、本展は〈網膜〉にフォーカスすることにより大竹の作品世界をさらに掘り下げようとするものです。
大竹伸朗展 網膜
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館[〒763-0022 香川県丸亀市浜町80-1]
会期:2025年8月1日(金)〜11月24日(月・休)
休館日:月曜日(ただし8月11日、9月15日、10月13日、11月3日、11月24日は開館)、9月16日(火)、10月14日(火)、11月4日(火)
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
観覧料:一般1,500円、大学生1,000円
※高校生以下・18歳未満・丸亀市内在住の65歳以上は無料
※障害者とその介護者1名は無料
※市民割(要証明書類):一般900円、大学生600円
※常設展「猪熊弦一郎展(仮称)」の観覧料も含む
アクセス:JR丸亀駅南口より徒歩1分
問い合わせ:0877-24-7755
美術館公式サイト
大竹伸朗〈網膜〉シリーズとは
〈網膜〉シリーズは、1988年に制作の拠点を移した宇和島のアトリエで着想され、1990年代初頭まで集中的に制作されたあとも、他のシリーズへの展開を伴いながら制作が続けられてきました。網膜とはそもそも眼球の最奥にある、光を感受し視神経を介して脳に情報として伝える機能を担う薄い透明の膜ですが、大竹は、廃棄された露光テスト用のポラロイド・フィルムに残された光の痕跡を大きく引き伸ばし、その表面に透明の絵具としてウレタン樹脂を塗布する絵画作品のシリーズに、この名をつけました。分離している「写真像の色面」と「透明の塗膜層」の2つが私たちの網膜を介して脳内で統合され、「時間」と「記憶」を内包した新たな像として立ち現れます。
新作の制作風景 Photo by Shimpei Yamagami
現在制作中の新作の〈網膜〉でもさらなる更新が試みられる一方で、長期間放置され変質した感光剤は、そこに蓄積する時間を像として刻印し、その像を透明の塗膜層が幾重にも覆うことで、一貫して〈網膜〉が発する情景は未だ見ぬ記憶として見る者を揺さぶり続けます。
こうして新たに創り出された渾身の新作〈網膜〉12点に加えて、〈網膜〉に音と光を組み込んだ、高さ約3mのレリーフ状の新作、そして1990年代初頭に制作された未発表の大型〈網膜〉をはじめとした作品群が核となり、構想時のサイズに更新した大規模インスタレーション《網膜屋/記憶濾過小屋》(2014)、2010年代半ばから続くグワッシュの連作〈網膜景〉や油彩のシリーズ〈網膜/境〉といった、「時間」や「記憶」を介して〈網膜〉と絶えず往還し続ける作品が骨格となります。本展では、さらに「眼」「フィルム」「写真」から〈網膜〉へと接続する膨大な数の作品をも取り込みながら拡がり続ける大竹伸朗の〈網膜〉世界を展観します。
見どころ
1.大竹作品のなかでも〈網膜〉シリーズに注目した展示
本展では、大竹伸朗の半世紀に渡る幅広い活動をたどる上で重要な〈網膜〉シリーズを中心に掘り下げて紹介します。1988年にアトリエを宇和島に移した時期に構想されて以来、継続的に制作されてきた本シリーズを、宇和島と同じ四国・予讃線沿線に位置する丸亀(MIMOCA)で展観します。様々な作品群との連関から浮かび上がる〈網膜〉の変遷をたどることで、大竹作品の魅力をより深く感じられます。
新作の制作風景 Photo by Shimpei Yamagami
2.〈網膜〉シリーズの最新作12点、未発表作品を一挙公開
本展にあわせて新たに創り出された新作〈網膜〉12点に加え、〈網膜〉に音と光を組み込んだ高さ約3mのレリーフ状の巨大な新作や、1990年代初頭に制作された未発表の大型作品の〈網膜〉をはじめ、これまで目にすることのなかった貴重な作品群をMIMOCAで初展示します。平面からインスタレーションまで多様な表現で展開する大竹の〈網膜〉の世界を、新たな視点から体感いただけます。
大竹伸朗《網膜屋/記憶濾過小屋》 2014年(ヨコハマトリエンナーレ2014での展示風景)©Shinro Ohtake Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo / Photo by Kei Okano
3.12年ぶりのMIMOCAでの個展
2013年以来、12年ぶりに丸亀で大竹伸朗の個展が開催されます。本展は1階エントランスから2階・3階の展示室まで全館を使った圧巻の展示構成になっています。MIMOCAでは1991年の開館以来150本を超える企画展を実施してきましたが、本展は同館の歴史においても最大規模と密度の高い展覧会となるだけでなく、大竹の現在地を示し、これからの展開を予感させる極めて重要な展覧会となることでしょう。
「大竹伸朗展 ニューニュー」での展示風景(2013年、MIMOCA) ©Shinro Ohtake Photo by Masahito Yamamoto
大竹伸朗・プロフィール
大竹伸朗 Photo by Shimpei Yamagami
1955年東京都生まれ。主な個展に東京国立近代美術館/愛媛県美術館/富山県美術館(2022-23)、熊本市現代美術館/水戸芸術館現代美術ギャラリー(2019)、パラソルユニット現代美術財団(2014)、高松市美術館(2013)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2013)、アートソンジェセンター(2012)、広島市現代美術館/福岡市美術館(2007)、東京都現代美術館(2006)など。またハワイ・トリエンナーレ(2022)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2018)、横浜トリエンナーレ(2014)、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)、ドクメンタ(2012)、光州ビエンナーレ(2010)、瀬戸内国際芸術祭(2010、13、16、19、22)など多数の国際展に参加。また「アゲインスト・ネイチャー」(1989)、「キャビネット・オブ・サインズ」(1991)など歴史的に重要な展覧会にも多く参加している。なお香川県内では、直島、豊島、女木島(女木島は瀬戸芸会期中のみ)で作品を公開している。
作家WEB サイト▶https://www.ohtakeshinro.com
約半世紀にわたる制作活動を経て、いまや世界的な現代アーティストとして知られるようになった大竹伸朗。尽きることのない創作への情熱のもと、「ビル景」「ニュータウン」シリーズや、さらには直島をはじめとする島々でのプロジェクトなど、多様なテーマを貫く作品を生み出してきました。なかでも、本展であらためて焦点を当てる〈網膜〉シリーズは、大竹が長年にわたり繰り返し取り組んできた重要なテーマです。今回は、シリーズ初期から現在に至るまでの約40年分の作品群に加え、新作12点など初公開作品も多数。私たちの「網膜」を通して入り込んでくるこれらの作品と対峙する時、心の奥にどのような像や記憶が浮かび上がってくるのでしょうか。ぜひ、ご自身の感覚でじっくりと体験してみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
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