米国はEUと相互関税率などで合意した。写真はEUのフォンデアライエン欧州委員長(左)とトランプ米大統領(右)(写真:ロイター/アフロ)

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り1バレル=65ドルから71ドルの間で推移している。ロシア産原油に対する制裁強化への警戒などから、価格の上限は先週に比べて5ドルほど上昇した。

 まず原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国が構成するOPECプラスは7月28日に合同閣僚監視委員会(JMMC)を開催し、生産協定の完全な遵守と埋め合わせを達成することが極めて重要であることを再確認した。JMMCはカザフスタンなど協定を遵守していない国々に対し、8月18日までに最新の埋め合わせ計画を提出するよう要求した。

 4月以降、自主減産(日量220万バレル)を段階的に縮小しているOPECプラスの有志8カ国は8月3日に会合を開く予定だ。「9月も8月に続いて日量54万8000バレルの増産を決定する可能性が高い」との見方が一般的だ。

 OPECプラスはこのところ増産を続けているが、夏場の堅調な需要のおかげで原油価格が値崩れせずに推移している。

 中東の地政学リスクも残ったままだ。

 英仏独と欧州連合(EU)は7月25日、イランの核問題を巡る協議をトルコのイスタンブールで実施した。欧州側はイランが核査察などに協力することを条件に10月に予定されている国連制裁の復活に関する手続きを延期することを提案したが、イランはウラン濃縮を放棄することを拒否しており、合意への道筋は不透明だ。

 今週の原油市場を動かしたのはトランプ大統領だった。  

 トランプ氏は7月29日「ウクライナに攻撃を続けるロシアが停戦交渉で8月8日までに合意しなければ追加制裁を科す」と表明した。トランプ氏は7月14日時点で停戦までの猶予期間を9月2日までの50日としていたが、ロシア側の不誠実な対応を理由にこれを大幅に短縮した形だ。

 追加制裁の内容は、ロシアからの輸入品に100%の関税をかけるほか、ロシアから石油や天然ガスなどを購入している第三国に100%の関税をかける(2次関税)ことだ。

 これに対し、ロシア大統領府は7月30日「ロシアは既に制裁などへの免疫を得ている」と強気の姿勢を崩していない。

「猶予期間が短縮されたことで追加制裁の実施が現実味を帯びた」との観測が市場で広まり、原油価格は一時、1バレル=70ドルを突破した。

 ロシア産原油の2大輸入国の対応は対照的だ。       

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