外国為替市場で円は過去3カ月間、全ての主要通貨に対して劣勢を強いられ、足元ではさらなる下落局面を迎えつつある。背後にあるのは政治リスクの高まりだ。

  ストラテジストらは、先の参議院選挙での与党大敗が財政悪化につながる上、トランプ関税の影響で日本銀行の利上げが遅れるとみて、円の下落を予想している。こうした見方は、オプション市場で円安方向にポジションを取る動きとも一致する。

  米国証券保管振替機構(DTCC)のデータによると、28日の通貨オプション市場で円の対ドルでの下落に賭けるオプションの取引が、円上昇に備えるオプションの約4倍に達した。

  石破茂首相は弱体化した連立政権への支持をつなぎ留めるため、ばらまき的な財政出動に踏み切る恐れがあるとアナリストは警戒する。日本が米国との関税交渉で合意した総額5500億ドル(約80兆円)の対米投資が資本流出を招き、長期的に円安圧力を強める可能性もある。

  三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のグローバル市場調査責任者、デレク・ハルペニー氏は「選挙は終わったが、石破首相の辞任や9月に自民党総裁選が実施される可能性など、政治リスクは残っている」と指摘。円下落に備えるオプション取引の増加は「経済成長とインフレの短期的な下振れリスクを踏まえ、日銀の植田和男総裁が早期の利上げ示唆を控えるとの期待も反映している可能性が高い」と話す。

円は対ドルで200日移動平均線を試す動き

 

 

  こうした円に弱気な見方に対し、対照的な動きもある。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、アセットマネジャーは22日までの1週間に円の買い越しを拡大させた。レバレッジファンドも同期間に円の売り越しを縮小させている。

  円は4月に7カ月ぶりの高値を付けた後、参院選に対する懸念もあり、約6%下落し足元1ドル=148円台で推移する。

  円安を見込む市場参加者は、 石破首相が政権維持を優先し、財政負担を伴う野党の減税要求を受け入れると予想する。また、一部アナリストは石破氏が退陣した場合、後任に昨年の自民党総裁選で僅差で敗れ、積極財政や金融緩和を支持する高市早苗氏が就く可能性を指摘する。

  門田真一郎氏らバークレイズ証券のストラテジストはリポートで「いずれの政治シナリオにおいても、財政政策はより拡張的な軌道をたどるだろう」とし、「拡張的な財政政策が実施される場合、超長期債のターム・プレミアム(期間に伴う上乗せ金利)の変化に対する円の連動性を考慮すると、ドル・円は150円を超える可能性もある」と分析した。

  円安が進めば、相対的に金利の低い円を借り入れて高金利通貨で運用する「円キャリー取引」の人気復活を後押しする可能性がある。  

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  野村インターナショナルのシニア外国為替オプショントレーダー、サーガル・サンブラニ氏(ロンドン在勤)は、いくつかの理由でドル高・円安方向に関心が集まっているとし、「ドルの下落を見込んだ市場全体のポジショニングは行き過ぎで、ドル買い・円売りポジションは動意に乏しい夏場に優れたキャリー(金利差から得られる利益)を提供してくれる」と話す。

  円に対してより楽観的な見方も一部にある。最近のドルの上昇は長続きしないとの読みからだ。

  三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、日本の対米投資計画は資金流出を引き起こすとみられるものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに動くことで、円は年内142-143円に上昇すると予想する。

  30、31日開催の日銀の金融政策決定会合は、円の短期的な方向性を左右する材料となり得る。日銀は年内の追加利上げの可能性を視野に入れているとされ、投資家は利上げ時期を見極めようと植田総裁の発言に注目する。

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  翌日物金利スワップ(OIS)市場は、年内に日銀が利上げを行う確率を7割程度織り込んでいる。日米関税交渉の合意が発表される前の22日時点では6割弱だった。

  米国が日本からの輸入品に課す関税は当初予定の25%から15%に下がったが、企業や日本経済にとって新たな重荷となることに変わりはない。

  ステート・ストリート銀行の若林徳広東京支店長は、「日銀は関税の実際の影響を判断する時間が必要で、当面は様子見姿勢を維持するだろう」と予想。「円にとってポジティブな材料は多くない」とし、年内に150円を超えて円安が進む可能性はあるとの見方を示した。

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