大分空港~大分市内が復活
水陸両用の船「ホーバークラフト」で大分空港~大分市内を結ぶ定期航路が、7月26日に就航した。この航路は2009年までホーバークラフトが運航しており、今回は別会社ではあるものの、16年ぶりの復活となる。
この就航で、60分程度かかる大分空港~大分市内が35分に短縮する。ホーバークラフトは、船の下の「エアクッション」に空気を送り込みつつプロペラで前進するというめずらしい方式をとっており、定期便が走るのは、イギリス・ワイト島と大分県のみだ。
大分県がホーバークラフトに期待するのは「空港への速達」だけではないという。さっそく現地に足を運び、開業日のホーバークラフトに実際に乗船してみた。
ホーバークラフト使用で駐車場無料! いたるところに「利用促進」「ホーバー眺め観光促進」の工夫ホーバーターミナルおおいた「HOV.OTA(ホボッタ)」
ホーバークラフトが発着する「ホーバーターミナルおおいた『HOV.OTA(ホボッタ)』」は、JR大分駅や県庁などの中心街から2kmほど離れた場所にある。当面は大分駅からの無料送迎バスが「ホーバー出航の25分前に到着、ターミナルの出発はホーバー到着10分後」で設定されているという(実証運行のため、後日変更の可能性あり)。
時間に余裕をもって移動したい場合は、大分バス「春日浦」バス停下車で、徒歩5分ほど。大分駅~別府市・鉄輪温泉間の「AS60」系統などが1時間に1~2本は停車するため、大分市・別府市側からも比較的アクセスしやすい。どのみち、ホーバークラフトはシートベルト確認などで「出航15分前集合」なので、早め到着するに越したことはない。
HOV.OTA(ホボッタ)のインフォメーション
このターミナル「ホボッタ」は、建物だけでもゆっくり眺めたい作りだ。太宰府天満宮仮殿や大阪・関西万博の会場デザイン(大屋根リングなど)を手掛けた藤本壮介氏が設計・デザインを手掛け、木材を多用した森林のような作りながらも、奥まで光が挿し込み巧妙な明るい空間となっている。
格納庫で出発を待つホーバークラフト。奥には予備船も見える
水しぶきを上げて西大分港を出港。屋上にはギャラリーが見える
2階の展望台から眺めてみたいのは「ホーバー出発・到着の様子」だ。ターミナルの屋上は展望台になっており、ホーバーが格納庫から外に出て乗船客を乗せ、水しぶきを上げて「ドドーン!!」と響きをあげて着水する様子が、一望できるのだ。
繰り返すが、この様子が見られるのは世界で2か所しかない。さらに、対岸から発着する「さんふらわあ」大分航路(ごーるど・ぱーる)を見渡すのにちょうどいい場所でもあり、すでに地元の子供が見学に押しかけるスポットなっているようだ。
ターミナル内のショップ
ホーバークラフト利用なら駐車場が無料に
ターミナル内は、期間限定出店のカレー・ラッシーのショップや、ホーバークラフト関連の書籍・おみやげなども買える。また、チケットの当日券売り場もあり(ただしオンラインの場合より高くなる)、時刻表や遅延情報・その日の揺れ具合も、インフォメーションボードで知ることができる。
そして、かなりオトクなのが「駐車場割引」。ホーバークラフトを使用して、近隣からクルマで来られる方は、駐車場を無料で利用できる。大分市内・大分駅からのアクセスは不便でも、郊外からここまでクルマで来て、そこから「ホーバー+飛行機」を使うなら、かなり便利と言えるだろう。
さて、さっそく乗船だ。最も便利な手順としては「LINEなどで事前予約・支払→QRコードで乗船」で、現地での改札は0.5秒とかからない。
さっそく乗船、ホーバークラフト。乗り心地は、座席、見どころは?
乗船は、ホボッタ北側から格納庫のなかをたっぷり眺めつつ歩き、最後にこれから乗るホーバークラフトのタラップを上がる。鉄道なら機関庫のなかから直接乗車するようなもので、このあたりは演出感たっぷりだ。
さらに、開業日は運航会社「大分第一ホーバードライブ」小田社長が、入り口で誰よりも深く頭を下げ続けていたのが印象的だった。
ホーバーの座席は比較的ゆったり、荷物スペース多量&雑誌付きホーバークラフトの船内
座席は幅ゆったりめのクッションシートで、リクライニングはないものの、それなりにくつろげる。さらに前方の網棚には、ホーバークラフトの仕組みや観光案内、なぜか「財界九州」まで常備。30分少々の乗船時間で退屈しないように、読み物をパンパンに詰めてくれている。
ホーバークラフト「Baien」は、約80席に50人ほどを乗せて、いよいよ出航! 10時45分の出航時間になると「ババッ」と音を立てて真下のエアクッションが膨らみ、船体はいったん浮き上がる。そのままホーバークラフトは静かに着水……と思いきや、思いのほか一気に「ドーン!」と海面に突っ込んでいった。
ホーバー経験者は語る。乗り心地は想像以上、見える景色も豊富!別府の街を一望できる
さて、乗り心地はどうなのだろうか? ホーバーターミナルに掲示されていた告知では「乗り心地・レベル3」。係員の方によると、風速、波の高さや視界によって1~5まで設定しており、訓練中は「2」が多かったとのこと。
この日は少々波が高かったため縦揺れがあったものの、昔のホーバークラフトに比べたら、まったく何でもない。また船内の騒音も、計測したところ常時80dB程度。エンジンの小刻みな揺れや爆音がない分、比較的快適だ。
ただ、普通のフェリーよりは揺れる……。その分、速度はフェリーの2~3倍、ずっと時速70~80kmを保っていた。とても個人的な感想ではあるが、「爆音は昔のホーバークラフトより激減」(注:筆者はホーバークラフトが就航していた香川県高松市出身、発着場と学校が近く、爆音を聴き続けている)、「揺れは特急ソニック(日豊本線の振り子特急)くらい」といったところだろうか。
普通に「九州財界」が読めて、ノートPCが使える程度の快適さであった(ただし、乗り心地は気候などで大きく変動するので注意)。そういうことで、船窓はじっくり楽しめる。
まず、見どころは「まわりの船」。この日ホーバークラフトとすれ違ったのは、自衛隊の船や同じホーバークラフトの「Banri」など。いずれも高速ですれ違うため、“お船見”をしたい方は、先にAISアプリ(Marin traffic)を開いて周囲の船を確認しながら、シャッターチャンスを狙った方がよいだろう。
景色もなかなか抜群で、普段さんふらわあからは見れない角度で、高崎山や「うみたまご」を眺めることができる。また国東半島のそびえたつ稜線は改めて眺めると「ここをバスで空港まで通ったら時間がかかるよなぁ……」と、実感させられる。
なお、ホーバークラフトは大分市側で着水して、2分ほどで時速70kmを突破、そのまま大分空港手前までトップスピードを保った。この加速の速さも、ホーバークラフトの利点だろう。
擁壁にめいいっぱい接近
ホーバークラフトは定刻少し前に大分空港のランプウェイ(地上走行路)に進入。減速して擁壁にめいいっぱい近づいてカーブを曲がり、大分空港側のターミナルに、無事到着した。
大分空港はシンプルなターミナル。徒歩すぐにチェックインカウンター
大分空港のターミナルはシンプルな作りで、ショップもない。かわりに写真撮影に最適な展望台があちこちに設けられており、ランプウェイを走って近づくホーバークラフトを、ほぼ正面から撮影できる仕掛けを作っているようだ。やはり、大分のホーバークラフトは「乗る」だけでなく「観る」も、楽しみ方に含まれているようだ、
そして、屋根付き歩道を歩いていけば、そのまま大分空港の国内線チェックインカウンターが見える。ほかにも長崎空港・神戸空港などで「空港行き連絡船」はあるが、ここまでチェックインカウンターが近い船は大分くらい。地上の移動距離の短さは、大分空港のホーバークラフトがずば抜けて一番だ。
度重なる事故やトラブルで前途が危ぶまれたホーバークラフトも、ようやく就航を迎えた。経営側は安全管理にずさんな部分もたびたび見受けられたが(事故を事故と認識せず対応を怠るなど)、就航へ向けて試行錯誤をされていた現場の方々の努力は、否定しようがない。
まずは、安全な運航を続け、1日4往復という運航体制の拡充を願いたい。さっそく海外の方も見に来ておられたようで、あくまでも安全を前提としたうえで、ホーバークラフトが世に知られてほしいものだ。
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