2037年開業を目指すリニア中央新幹線の進捗はどうなっているのか。ジャーナリストの小林一哉さんは「静岡県は、新たに隣接する長野県への湧水流出問題への対応をJR東海に求めるつもりだ。これがねじれれば、開業時期がさらに遠のくことは避けられない」という――。


2037年開業も危ぶまれるリニア中央新幹線

写真=JR東海提供

2037年開業も危ぶまれるリニア中央新幹線



「課題リスト」に載っていないリニア問題

静岡県の鈴木康友知事は2月18日の県議会本会議で、約1兆3723億円に上る2025年度当初予算案を提案した。


その提案説明の中で、リニア問題を取り上げて、「JR東海との主な対話項目28項目のうち、5項目が対話完了」としたうえで、「残りの課題の解決に向けて、JR東海との対話をしっかりと進める」と述べた。


リニア問題を取り上げた2月静岡県議会本会議

筆者撮影

リニア問題を取り上げた2月静岡県議会本会議



昨年2月、静岡県はリニア問題を巡るJR東海との対話事項47項目のうち、17項目は解決、30項目は未了と発表した。


その後の新たな課題を含めて、静岡県は課題を28項目に集約、JR東海と対話していくと決めた。


鈴木知事はこれまでに5項目の解決を認めたから、残りの課題は23項目となる。


この23項目の課題を解決すれば、晴れてリニア南アルプストンネル静岡工区着工の運びになると誰もが考えてしまうだろう。


ところが、そうは問屋が卸さない。


実際には、28項目に含まれない課題が数多くあるからだ。


まだ始まってもいない「長野県との対話」

そのうちの大きな課題の1つが、工事期間中に隣接する長野県側へ流出する静岡県の湧水への対応である。


現在、静岡県は山梨県側へ流出する湧水の対応について対話を行っている。


山梨県側からの先進坑が静岡県境を越え、静岡県側の先進坑につながる工事期間中の約10カ月間に最大500万トンの湧水が山梨県側に流出すると見込まれる。


この流出に対して、静岡県は大井川の水資源への影響を懸念して、JR東海に「全量戻し」を求めてきた。


JR東海は東京電力リニューアブルパワー(RP)の協力を得て、県外流出量と同量を大井川の東電・田代ダムで取水抑制を行ってもらい、大井川の流量を確保することで何とか合意にこぎ着けた。これが「田代ダム案」だ。


山梨県側への湧水流出問題が解決したとしても、次は長野県境の工事でも同じ対話が待っている。長野県側にも静岡県から湧水が流出するからである。


それなのに、長野県側への湧水流出は28項目の課題に含まれていないのだ。


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