他社製エンジンのフェラーリなんてありえない
20世紀後半にTVRの経営者だったピーター・ウィーラー氏が、新モデルのサーブラウに自社製エンジンを搭載しようと考えた理由は、納得できるものといえた。ローバーが生産する、V8エンジンからの脱却でもあった。
「フェラーリやマセラティに、他社製エンジンが載っているなんて、ありえませんよね?」。1995年のAUTOCARの取材で、彼はこう答えている。
TVRサーブラウ 4.5と、ジャガー XKR 4.2-S マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
その時すでにTVRの拠点、グレートブリテン島西岸のブラックプールでは、V8エンジンが組み立てられていた。レーシングカー仕様のタスカンのために。改良は必要だとしても、新しいフラッグシップ・スポーツの動力源にすることは、充分に現実的といえた。
SOHCでも本質的にはレース用エンジン
そのアルミニウム製エンジンの型式名は、AJP8。開発者のアル・メリング氏とジョン・レイブンスクロフト氏、ピーター・ウィーラー氏の3名の頭文字と、気筒数を表していた。当初の排気量は4185ccで、フラットプレーンクランクが採用されていた。
技術的な特徴は多くなく、シングルオーバーヘッドカム(SOHC)で、バンク角は75度。1気筒当たりのバルブも2枚と平凡で、以前のローバー・ユニットと紙面上での大きな違いはなかったといえる。
TVRサーブラウ 4.5(1997〜2006年/英国仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
しかし、本質的にはレース用エンジン。6500rpmでの最高出力は365ps、4500rpmでの最大トルクは44.1kg-mと、格違いの性能を秘めていた。実用性へ配慮された2+2のクーペへ積むには、少し不釣り合いなほど。
同時に、開発が不充分なまま量産は始まった。発売後、オーナーや専門とするショップによって、真価が引き出されたといっても良かった。
モデル名の由来はギリシャ神話の番犬
サーブラウというモデル名の由来は、ギリシャ神話へ登場する頭が3つある番犬。2シーター・ロードスターのキミーラをベースに、ホイールベースを約280mm伸ばし、リアシートを追加する空間が作られていたが、アグレッシブなドライバーズカーだった。
発売から2年後に排気量は4475ccへ拡大され、426psと52.4kg-mへ増強。0-100km/h加速は3.9秒、0-241km/h加速は17.9秒が主張されたものの、AUTOCARが実施したテストでは、それぞれ4.3秒と21.1秒を記録している。
TVRサーブラウ 4.5(1997〜2006年/英国仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
今回ご登場願ったサーブラウ 4.5は、TVRを専門に扱うガレージ、ジェームズ・アガー社が管理する車両。調子は万全で、ハイオクガソリンを注げば445ps近く出るという。走らせてみると、確かに記憶にあるサーブラウより速い。
20世紀で最も完成度の高いTVR
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