対独戦勝80年記念式典でスピーチするプーチン大統領(5月9日、提供:Kremlin.ru/ロイター/アフロ)

プロローグ/ロシアの継戦能力は油価次第

 ロシア(露)経済は「油上の楼閣」にして、油価はロシアの生命線です。油価が上がれば国は栄え、油価が低迷すれば国は衰退します。

 1991年12月末のソ連邦崩壊の底流は、1986年から長期にわたる油価低迷でした。

 ソ連邦は1991年8月19~21日のクーデター未遂事件を経て、ロシア・ベラルーシ・ウクライナの3共和国首脳が12月8日、CIS(独立国家共同体)条約に調印。

 12月25日にM.ゴルバチョフ大統領が辞任発表。この日、核のボタンがゴルバチョフからB.エリツィン氏に渡されて、ソ連邦は実質消滅しました(法的消滅日は翌26日)。

 最初に結論を書きます。

 ロシアの継戦能力は油価(露ウラル原油)次第です。低迷する現行油価が続けば、今年末までにはロシア軍は継戦能力を失い、停戦・終戦の姿が透けて見えてくるものと予測します。

 ロシアが敗北すればロシア国内が流動化して、V.プーチン大統領失脚も視野に入ってくることでしょう。

 ウクライナ戦争は既に4年目に入りました。

 ロシアがウクライナ東部に全面侵攻開始する前までは露ウラル原油は右肩上がりで上昇していましたが、侵攻開始後、ウラル原油は右肩下がりで下落開始。

 これは、欧米による対露経済制裁措置の効果です。欧米が望んでいたほどの効果は出ていないとも言えますが、油価下落は確実にロシア経済に打撃を与えており、露財政悪化=経済弱体化を加速しています。

 油価低迷と戦費増大により各種経済指標が悪化。財政赤字は拡大の一途となり、戦費供給源たるロシア国民福祉基金流動性資産残高も減少。

 ロシアは今年中に継戦能力を失う構図が透けて見えてきました。

 その結果、現在の低迷する油価水準とロシア軍の戦費増大が継続すれば、上述の通り今年年末までに停戦・終戦の姿が浮かび上がってくることでしょう。

 本稿では、定量的にロシアの継戦能力を分析・評価したいと思います。

 米国のD.トランプ大統領は7月14日、対露経済制裁措置強化の一環として、対ウクライナ軍事支援再開を発表しました。

 しかし、対露制裁の中に石油・ガスに関する即時直接制裁は含まれておらず、完全停戦まで50日間の猶予が与えられたことに鑑み、7月14日の油価は大幅下落となりました。

 2022年2月以降、中国とインドはロシア産原油輸入を大幅に拡大しています。

 7月14日にトランプ大統領が発表した、ロシア産石油(原油と石油製品)・天然ガスを輸入する国に対する100%の2次関税が適用されると、ロシア産原油を大量に輸入している中国とインドは大打撃を受けることになります。

 7月14日の50日後は9月2日となり、9月2日は戦艦ミズーリ艦上にて日本が無条件降伏文書に調印した日です。

 ですから50日以内停戦の意味は、ロシアに対し、対日戦勝記念日までに停戦せよとの無言の圧力と理解します(註:ロシアの対日戦勝記念日は9月3日)。

 一方、EU加盟国は現在の対露経済制裁措置の一環として設定している露産原油最高限度油価バレルFOB$60を$47(FOB=Free On Board、本船渡し)にまで下げる案を検討しており、合意間近とも報じられています。

 この$47はとても重要な指標です。

 なぜなら、$47は現在の露井戸元原油生産原価相当の油価になるからです(後述)。

 原油の実需給は均衡・緩和しているので、地政学的要因を除けば油価は下落傾向に入っています。

 筆者はロシアの継戦能力に関する照会をよく受けますので、本稿ではロシアの継戦能力に関する定量的分析(私見)をご披露させていただきます。

 露プーチン大統領はウクライナ東部戦線における戦況有利とみて、停戦交渉を拒否しています。

 今夏のロシア軍大攻勢が報じられていますが、ロシア軍の乾坤一擲の大攻勢は成功するのでしょうか?

 これは第2次世界大戦西部戦線の「バルジ大作戦」、太平洋戦争の「陸のレイテ沖海戦」になるだろうと筆者は予測します。

 換言すれば、停戦交渉拒否は自ら墓穴を掘る構図となるでしょう。

 油価低迷が続き、欧米による対ウクライナ財政・軍事支援が続く限り、筆者はロシア敗北必至と予測しております。

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