チーズにレタス、2枚のビーフパテ、それを挟むごま付きバンズ。ポテトの入れ物には、「M」の文字。どれも奇妙に似ているが、マクドナルドではない。ロシアのファストフードチェーン「フクースナ・イ・トーチカ」だ。

  フクースナはマクドナルドのロシア撤退で生じた市場の空白を急速に埋めた、「偽マクドナルド」だ。ロシアが2022年2月にウクライナを全面侵攻し、国際的な制裁を科されると、マクドナルドだけではなくアディダスやザラなど、数百に及ぶ西側のブランドがロシアから引き揚げた。

  こうした中で、フクースナはマクドナルドの店舗網を引き継いだ。商標権は得られなかったが、模倣であることをほとんど隠そうともしていない。

  名称のフクースナ・イ・トーチカはロシア語で「おいしい。ただそれだけ」という意味で、Mの文字は入っていない。それにもかかわらず、ミニバーガーと2本のフライドポテトをかたどったという説明で、Mに似たロゴが使用されている。「ビッグマック」に似たバーガーは「ビッグヒット」、「ハッピーミール」は「キッズコンボ」、「クォーターパウンダー」は「ビッグスペシャル」という名前でそれぞれ販売されている。

  こうした模倣商品のほか、独自メニューも少しある。クルミの形をしたクッキー「オレシュキ」や蜂蜜のケーキ「メドビク」などだが、いずれもモスクワの影響力が大きかったソ連時代によく家庭で作られていたお菓子だ。

relates to 偽マクドナルドがロシアで大繁盛、「本家」に負けないと主張

ロシアのファストフードチェーン「フクースナ・イ・トーチカ」の店内(2023年、モスクワ市内)

Photographer: Alexander Zemlianichenko/AP

  西側の定番と地元メニューの組み合わせは、ロシアの模倣企業が現地に定着しつつある様子を示す。他の模倣企業も同様の戦略を採り、西側の「本家」がロシアに戻ってくるとしても顧客を奪われないよう対策を取っている。

  ウクライナでの戦争は終わりが見えず、消費者を相手とする西側の大企業がロシアに戻るにはまだリスクが高過ぎる。それが、ロシアの競合に準備の時間を与えている。

  ロシアは所得が記録的に伸びており、消費財企業は大成功を収めている。戦争で軍需関連の生産が活発化し、労働力が不足。その結果、賃金がインフレを上回るペースで上昇し、衣料品や食品への支出に回せる可処分所得が増加した。

  制裁にもかかわらず日常生活が大きく変わらなかったことで、消費者心理は戦争当初の不安から戦前を上回る水準に回復した。

  フクースナは2022年6月にマクドナルドのロシア事業をわずかな額で買収して以降、事業は好調で、今では1日の来客数が200万人、1年で50以上の新店舗を開店した。親会社システマPBOの売上高は2倍以上に増加し、利益は8倍に跳ね上がった。

  この成功を手放す用意はない。

  フクースナのオレグ・パローエフ最高経営責任者(CEO)は6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、「制裁が解除されても、以前と同じ状態にはならないと考えている」と述べた。同氏は戦争が始まった時、マクドナルドのロシア事業責任者だった。

  西側企業が提供していた商品をロシアが失ったわけではないと市民に感じさせる戦略をとっているのは、フクースナだけではない。スターバックスに取って代わったスターズコーヒーもそうだ。

  フクースナと同じく、スターズも公然と模倣している。同社のソーシャルメディアでは「スターバックスはいなくなったが、スターは残った」とアピール。ロゴはスターバックスそっくりだが、よく見るとロゴの中の女性は王冠ではなく、ロシアの伝統的な頭飾り「ココーシニク」を被っている。

RUSSIA-ECONOMY-STARSCOFFEE-RESTAURATION

スターズコーヒーの商品。模倣は明らかだ(2022年、モスクワ)

Photographer: Natalia Kolesnikova/AFP/Getty Images

  スターズはこれまでに82店を開店し、モスクワとサンクトペテルブルク以外にも拡大。グロズヌイやロストフナドヌー、ペルミなど、比較的小さい街の新たな地区にも進出している。ノブゴロド、ハンティマンシースク、ノボシビルスクでさらなる拡大を狙っているという。

  制裁下でのロシアの生活をテーマにしたコンテンツを多く配信している旅行系インフルエンサー、アンナワホバ氏は「自分の町にスターバックスが開店したことはなかったが、スターコーヒーは開店した」と述べ、 「時間は大きな要因になる。こうしたブランドが市場に長くいればいるほど、認知度は上がり、信頼も築いていく」と指摘した。

  スターバックスとマクドナルドはコメントを控えた。 

 

原題:Russia’s Copycat Brands Are Getting Ready to Defend Their Turf(抜粋)

WACOCA: People, Life, Style.

Exit mobile version