ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、中国専門ジャーナリストの高口康太さんがファッション&ビューティと小売りの視点で分かりやすく解説します。今回のテーマは、「中国クイックコマース戦争」。かつては新しいビジネスが勃興するたびに発生していた過当競争ですが、最近は景気低迷のアオリを受けて沈静化。しかしクイックコマースには大手&新興という新旧の大手企業が入り混じってのガチバトルが勃発。勝ち抜くのは誰だ?(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月16日号の転載です)

中国EC(電子商取引)で、久方ぶりの“戦争”が始まった。注文から約30分で商品を届けるクイックコマースの覇権をめぐって、フードデリバリーのメイトゥアン、EC大手のアリババグループ、JDドットコム、そしてTikTokを擁するバイトダンスなどの大手IT企業が資金力で殴り合う戦いが繰り広げられている。2030年までには2兆人民元(約40兆円)市場になるとも予測されている中国クイックコマースを追った。

札束ケンカは中国ITの華

 「次のトレンド」が見つかると、ベンチャーマネーをたっぷり注ぎ込まれたスタートアップと大手IT企業が一斉に参入し、資金を武器にシェア拡大の戦いを繰り広げる。2010年代にさんざん繰り返された構図だ。

例えば15年の配車アプリ戦争では、外資のウーバー、テンセントが支援する嘀嘀、アリババが支援する快的の3社が血みどろの戦いを繰り広げた。シェア確保のために値引きクーポンやドライバーへの補助金を出しまくった結果、「バスよりも配車アプリの方が安い」「客を乗せたことにして空の車を走らせているだけで、補助金でウハウハ」という、不思議な光景が繰り広げられた。

シェアサイクルが流行になれば、中国全土で3000社もの企業が設立され、投入された自転車に使われた鉄は空母2隻分に相当するともささやかれた。ソーシャルコマース大手のピンドゥオドゥオは「100億元(2000億円)補助金」をキャッチコピーに大盤振る舞いのキャンペーンをたびたび展開。「テスラがたったの20円」などのクレイジーな目玉商品で話題をかっさらった。この状況に「薅羊毛」(羊の毛をむしる)なるネットスラングまで生まれている。サービスをとっかえひっかえ乗り換えて、特典をもらっていくという意味だ。特典に目がない、フッ軽な消費者が多くいることが後発企業が逆転するチャンスを高める。それだけにいつもなにかしらの領域で戦いが起きているという状況が続いていた。

ただ、20年のコミュニティーEC(注文すると、翌日に近隣の集配所まで配送されるスタイル。日本の生協の集団購入をヒントにしたとされる。食料品、日用品が中心)以降、こうしたバトルは影を潜めた。新型コロナウイルスの流行があったこと、B2C(消費者向け)分野の停滞、21年に中国政府がIT企業規制を打ち出したことで大胆な動きが取りづらかったことが要因だ。

大手が続々参入、その理由とは

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