時給2500円時代に突入するドイツ
3年連続でのマイナス成長が視野に入るドイツは、太っ腹な分配戦略を放棄できずにいる。ドイツの最低賃金委員会は6月27日、現在12.82ユーロである法定最低時給を、2026年から13.9ユーロに、また2027年から14.6ユーロに引き上げるべきだと勧告した。それでも、フリードリヒ・メルツ首相が目指していた15ユーロには届かなかったかたちだ。
写真=AFP/時事通信フォト
2025年6月26日、ブリュッセルで開催された欧州理事会の作業部会終了後、記者会見に臨むドイツのフリードリヒ・メルツ首相
ドイツでは、労使と学会の代表から構成される最低賃金委員会が、政府に対して最低賃金の水準を勧告するという体裁を取り、最低賃金の水準が決まる。現在、ドル不安もあってユーロ相場は堅調であり、1ユーロ=170円をうかがう勢いだ。このレートだと14.6ユーロは約2500円となる。つまり、ドイツは時給2500円時代に突入するのである。
企業業績が堅調で、それが配分されるかたちで家計の所得が増加するなら、何の問題もない。しかし、3年連続でのマイナス成長が視野に入るドイツの企業に、そうした余裕など存在しない。メルツ首相自身、経済界と近い中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)の党首であり、本来は所得分配を可能にするためにも経済成長を重視する立場だ
しかし、メルツ首相は2027年までに最低賃金を時給15ユーロに引き上げることを目標にしていた。これは、中道左派の社会民主党(SPD)出身のオラフ・ショルツ前首相が目指していた水準でもある。経済成長を重視するメルツ首相が15ユーロに最低賃金を引き上げようとした最大の理由は、SPDに「塩を送る」ことにあったようだ。
「最低賃金の引き上げ」の帰結としての高インフレ
メルツ首相が率いる現政権は、CDUとSPDの保革大連立だ。閣僚ポストはCDUが7、姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)が3、SPDが7と、SPDに配慮された構成となっており、分配政策を担う労働相のポストはSPDのバーベル・バス共同党首が務める。メルツ首相が最低賃金の引き上げを目指すのは、SPDへの気配りだろう。
裏を返せば、CDUとCSUがSPDに配慮するのは、ドイツで急速に支持を伸ばしている右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)を封じ込めるためでもある。AfDの意向が国政に反映されるのを防ぐという「大同」のためには、中道右派と中道左派という立場は「小異」となる。それゆえ、メルツ首相はSPDに対して融和的に臨んでいる。
WACOCA: People, Life, Style.