南米チリの標高2,700mの高地に、次世代の天文学を担うヴェラ・C・ルービン天文台が完成した。米国立科学財団(NSF)と米エネルギー省(DOE)の共同プロジェクトとして、20年以上の歳月をかけてセロ・パチョン山頂に建造が進められてきた巨大な科学施設だ。

この天文台による観測がこのほどスタートし、10時間余りの試験観測で撮影された初の観測画像が、ワシントンD.C.で開催されたイベントで公開された。そこには数百万もの銀河と恒星、そして数千の小惑星が克明に映し出されている。

「ヴェラ・C・ルービン天文台は、科学技術の結集であり未来への投資です」と、ホワイトハウス科学技術政策局のマイケル・クラッツィオスは説明する。「ここで築かれる知の基盤の上に、次の世代が堂々と立つことになるでしょう」

ヴェラ・C・ルービン天文台が約7時間の観測で撮影した678枚以上の写真から作成された動画。地球から数千光年離れたトリフィド星雲(上)と干潟星雲を含む領域を映し出している。

Video: NSF–DOE Vera C. Rubin Observatory史上最大のデジタルカメラ

ヴェラ・C・ルービン天文台の中核をなすのが、史上最大のデジタル天文カメラ「LSSTカメラ」である。小型車ほどの大きさで、重さは約2,800kg。これまでにない高感度と広視野を誇り、一度の露光で満月45個分に相当する広さの空を捉えられる。

このカメラを用いて南半球の夜空の画像を毎晩1,000枚近く撮影し、3〜4日で全体を再走査するというサイクルを繰り返していく計画だという。一連の大規模撮像探査プロジェクト「LSST(Legacy Survey of Space and Time)」には日本の国立天文台の研究者を含む日本の研究者も多く参加しており、世界最大級の光学赤外線望遠鏡である日本の「すばる望遠鏡」との連携による新たな成果も期待されている。

ヴェラ・C・ルービン天文台から撮影した、おとめ座銀河団の一部。このダイナミックな宇宙の領域の壮大なスケールと詳細を捉えている。手前には天の川銀河の明るい星々が輝き、背景には遠くの赤みを帯びた銀河が海のように点在している。

ヴェラ・C・ルービン天文台から撮影した、おとめ座銀河団の一部。このダイナミックな宇宙の領域の壮大なスケールと詳細を捉えている。手前には天の川銀河の明るい星々が輝き、背景には遠くの赤みを帯びた銀河が海のように点在している。

Photograph: NSF–DOE Vera C. Rubin Observatory

この観測スタイルの特徴は、宇宙の静止画を蓄積するのではなく、時間の流れを捉える点にある。空のあらゆる変化を10年間にわたって記録し続けることで、“宇宙のタイムラプス”を構築するのが、ヴェラ・C・ルービン天文台の使命である。

この長期観測の主眼のひとつが、宇宙の構成要素の95%を占めるとされるダークマターとダークエネルギーの正体を解明することだ。これらは目には見えないが、銀河の運動や分布に決定的な影響を及ぼしていると考えられている。ヴェラ・C・ルービン天文台の超高精度な観測データは、こうした不可視の物質の分布や挙動を間接的に捉えるための鍵となる。

天文台の名称は、銀河の回転速度の観測からダークマターの存在を強く示唆した天文学者ヴェラ・C・ルービンに由来している。ルービンの志を受け継ぐかたちで、この施設は宇宙の構造と進化の謎に迫ろうとしている。

WACOCA: People, Life, Style.

Exit mobile version