コラム:世界の大半を覆う強力なディスインフレ圧力、米国だけ例外

 6月4日、投資家や消費者、政策担当者らが年内とそれ以降、関税に起因するインフレがやってくると恐れるのも無理はないかもしれない。だが今のところ、世界の大半で存在感を見せているのは強力なディスインフレ圧力だと言える。写真は4月、マサチューセッツ州メドフォードの食料品店で撮影(2025年 ロイター/Brian Snyder)

[オーランド(米フロリダ州) 4日 ロイター] – 投資家や消費者、政策担当者らが年内とそれ以降、関税に起因するインフレがやってくると恐れるのも無理はないかもしれない。だが今のところ、世界の大半で存在感を見せているのは強力なディスインフレ圧力だと言える。

経済協力開発機構(OECD)が3日発表した20カ国・地域(G20)の2025年の物価上昇率見通しは前年比3.6%。26年は3.2%で、24年の6.2%から低下が続く。

一方でOECDによると、米国は「重要な例外」で、物価上昇率は年内に4%弱で推移し、来年も米連邦準備理事会(FRB)が目標とする2%を上回ったままになるという。

4月に発表された米国の個人消費支出(PCE)物価指数の前年同月比上昇率は2.1%と4年ぶりの低水準、事実上FRBの目標に収まった。しかし、期待インフレ率は過去数十年で最も高水準のため、FRBは利下げを休止した。米国債利回りは、G10諸国の大半の国債利回りを上回っている。

ゴールドマン・サックスのエコノミストチームもOECDと同じような考えで、米国の物価上昇率は年内に4%近くまで跳ね上がると予想する。押し上げ分の半分前後は関税の影響だ。他の多くの市場関係者も、そうした米国の事情は例外的で、全体の法則にならないとの意見で一致している。

米国に次ぐ経済規模の中国とユーロ圏は、何とか物価下押し局面を抜け出そうとしている状況にある。とはいえ双方の貿易・金融面でのつながりがそうしたディスインフレ圧力に拍車をかけるばかりとなり、原油価格上昇を抑え続けるかもしれない。

<中国の深刻なデフレ>

5月のユーロ圏の物価上昇率は前年同月比1.9%と欧州中央銀行(ECB)の目標である2%を割り込み、今週のECB理事会で追加の25ベーシスポイント(bp)利下げが決まる流れを実質的に確定させた。ECBのさらなる利下げも視野に入っているように見える。

野村証券のエコノミストチームが指摘したように、インフレ・スワップ取引はユーロ圏の物価上昇率が少なくとも今後2年間はECBの目標未満で推移する展開を織り込んだ。ユーロ圏経済成長の勢いが米国の関税措置および中国発のディスインフレ圧力によって弱まっている点も踏まえれば、ECBは9月までにあと50bp利下げして政策金利を1.5%にしてもおかしくない。

もちろん、中国がデフレとの戦いに取り組んでいることは投資家によく知られている。ただ、物価下落局面の長さからすると、その深刻さを投資家は十分に感じ取れていないようだ。

中国の物価上昇率が前年比で1%を最後に超えたのはもう2年余り前で、それからずっと平均するとゼロ近辺で推移してきた。中国の10年国債利回りは、1月に記録した底の1.60%弱からほとんど上昇しておらず、投資家の間で物価上昇圧力がすぐに加速することに懐疑的な見方を広がっている様子がうかがえる。

こうした投資家の疑念には根拠がある。中国政府が昨年9月以来財政・金融面で景気てこ入れ策を打ち出しているにもかかわらず、デフレと国債の超低利回りが経済にブレーキをかけ続けている。また米国が中国からの輸入品に懲罰的な高関税を導入し、中国経済の先行きに大きな不確実性をもたらしつつある。

<スイスからの警告>

ここで大事になってくるのが為替レートだ。中国本土と本土外の人民元が先週、対ドルで昨年11月以来の高値に接近する中で、中国政府は表面的には高まる人民元上昇圧力を抑えようとしてきたように見える。

だが、人民元の実質実効レートで考えると、通貨価値は2012年以降最も低い。ブルッキングス研究所のロビン・ブルックス氏は、人民元が10%余り過小評価されているのではないかとみている。

世界で売られている中国製品が非常に安いということは、中国が事実上デフレを輸出していることを意味する。そして他のアジア諸国からすると、いくらトランプ米大統領から通貨高にしろと要求されたとしても、元安によって競争力維持のために自国通貨安誘導を続けざるを得なくなる可能性がある。

アジア諸国と世界、とりわけユーロ圏は、中国が米国向けだった製品を別の市場に投げ売りしてくる展開に不安を抱くこともあるだろう。

「関税イコール即インフレ」は単純化のし過ぎだという主張の根拠を確認したい向きは、今週スイスでそれを手に入れたことになる。スイスではデフレが復活し、マイナス金利の再導入が現実味を帯びてきたた。

確かにトランプ氏の関税が何もかも土台からひっくり返してしまう恐れはあるが、スイスの例は、世界的なディスインフレの力が拡散を続けていることを市場や政策担当者に警告している。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets – especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie

Write A Comment

Exit mobile version