5月20日、英国は欧州連合(EU)および米国との貿易協定を進めつつ、中国にも接近している。19日、ロンドンで代表撮影(2025年 ロイター)
[ロンドン 20日 ロイター] – 英国は欧州連合(EU)および米国との貿易協定を進めつつ、中国にも接近している。トランプ米大統領がもたらした予測不可能な新世界秩序をうまく乗り切れるかどうかの試験台になった形だ。
世界に開かれ、世界貿易に依存してきた歴史を持つ英国は、トランプ氏が関税措置によって貿易戦争を引き起こして以来、いくつかの貿易協定を締結した。
インドと自由貿易協定の交渉を行い、米政府から関税緩和を引き出し、防衛、エネルギー、農業における対EU姿勢を再構築して距離を縮めた。
こうした姿勢についてアナリストらは、英国の貿易の3分の2を占める米国、中国、EUの忍耐力を試すものであり、限定的な経済効果があるとしても、その発現には時間を要するとみている。
かつて英国際貿易省の事務方トップだったマーティン・ドネリー氏は、現在の状況下では「楽勝」はあり得ず、戦略を誤れば「3大貿易圏から締め出されてしまう」リスクがあると言う。
貿易アナリストらの分析では、英国は現在の分断された世界において、米国の安全保障とテクノロジーの「衛星国」という役割を受け入れ、中国を圧迫する可能性のある一部のサプライチェーン(供給網)と鉄鋼の管轄権を米政府に委ねた。
一方で英国はEUとの連携を強化するため、米国による食品市場へのアクセス拡大の要求を退けた。EUが英国との軍事協力強化を望んでいるという事情から、英・EU協定の内容は緩和された。
英国は中国との関係改善にも努めている。中国による対英投資を確保し、中国のエリート層に金融サービスを売り込む狙いだが、一方で米国を怒らせかねないセンシティブな技術の共有は回避しようとしている。
英チャータード・インスティテュート・オブ・エクスポート・アンド・インターナショナル・トレードのマルコ・フォルジョーネ所長は、英輸出企業8万社の一部は既に、防衛や人工知能(AI)など高リスク分野を保護するためのサプライチェーン再編を進めていると言う。
フォルジョーネ氏は「全ての主要市場に対応できる戦略が必要だ」と指摘。EU、米国、中国に対してセクターごとに異なるアプローチを採るのは理にかなっているが、それは「一貫性があり、日和見主義ではないと相手から受け止められてこそだ」と付け加えた。
ある通商高官は、トランプ氏がEUに対しては渋るであろう譲歩を英国は引き出した上、EUが拒絶反応を示しそうな米国の衛星国的地位も受け入れたと解説。今後の課題は全てのパートナーを味方につけることだと述べた。
<ブレグジット>
英国は2020年にEUを離脱し、独立の立場で貿易を行えるようになった。その4年前に国民投票で離脱(ブレグジット)を決めて以来、交渉は紆余曲折を経ていた。
離脱支持者らは、これで成長著しいアジア経済圏との貿易協定を自由に結べるようになると主張していた。離脱派はまた、英国が米国との強固な安全保障関係を基盤に、食品や製品の貿易が拡大することも望んでいたが、これらは実現しなかった。
英国の予算予測機関によると、ブレグジット後の貿易弱体化により、EUに残留した場合に比べて15年後には英国の潜在的な生産性が4%低下すると予測している。
英国は2兆8000億ポンド(約3兆7000億ドル)の債務を抱えて経済成長に苦慮しており、不確実性が増した世界において成長と安全保障を実現するために同盟関係を模索している。
英国際貿易省の委員を務め、英国と海外で企業を経営してきたポール・ドレクスラー氏は、最近の合意が信頼構築に役立つと考えている。「地政学的な面でも、世界経済に照らしても非常に重要な時期だ。貿易を活性化させるための措置を講じる必要がある」
英国はトランプ氏との間で、限定的ながら関税引き下げで合意した最初の国になった。自動車および鉄鋼の関税が引き下げられたが、基本的な関税率10%は維持された。
欧州外交評議会(ECFR)のアジアプログラム・ディレクター、ヤンカ・オーテル氏は、この合意はトランプ氏に対抗するための統一戦線を望んでいたEUや日本を怒らせたはずだと言う。
この合意では、鉄鋼に関する安全保障の条項に、英鉄鋼産業から中国を排除する可能性が盛り込まれているため、英国の中国との関係にとって障害となりかねない。
スターマー英労働党政権は昨年7月の発足以来、中国との関係改善を外交政策の主要目標の一つと位置付けている。
在英中国大使館の報道官は、各国間の協定は他国を標的にすべきではなく、中国は「必要に応じて」対応する用意があると述べた。
オーテル氏は、中国が「他国がこうした協定に署名しないよう脅すための見せしめとして英国に非常に厳しい態度で臨む」場合、英国は困った状況に陥りかねないと指摘。「英国は自国をモルモットにしたようなものだ。快適な立場だとは思えない」と語った。
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