自由な旅がままならない状況だった2020年代の幕開けもいまや遠い昔のことのよう。誰もが旅する楽しさを取り戻し、海外旅のニーズも高まる中、注目のデスティネーションがオーストラリアです。オーストラリア政府観光局主催のタスマニアとメルボルンの取材ツアーで体験した“おいしいとこどり”の旅、そのメモをシェアします。まずはオーストラリア最南端の地、タスマニア島から。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「ロンセストン蒸溜所」。格納庫を利用した蒸溜所の建物。

タスマニアの航空史とも密接なマイクロディスティラリー。

タスマニア島北部のロンセストン空港に到着後、まず目指したのはウイスキーの蒸溜所でした。「目指す」と言っても車に乗ったらわずか5分ほどの距離で、名前も空港と同じ「ロンセストン蒸溜所」。

「HANGER(格納庫)17」と書かれた建物は、1931年に建造された州内に現存する最古の空港施設で、現在の空港ビルが完成する1968年まで旅の基点として使われていたものだそう。蒸溜所のエントランスでは1930年代の空港の様子を収めた映像や、当時の航空機のシート模型など、貴重な展示が見られます。

ミニマムな蒸溜施設。反対側に熟成用の樽が並ぶ。

蒸溜所が創業されたのが2013年。製薬業界出身、島内のブルワリーやディスティラリーでも活躍したクリス・コルドンさんがヘッド・ディスティラーを務めています。大麦はタスマニア北部から、水は近隣のサウスエスク川からと、地元の素材を生かし、最高級のスコットランド産シングルモルトウイスキーの伝統・技法を受け継ぎながら高品質なシングルモルトウイスキーを生み出しています。

実はタスマニアは20を超える蒸溜所が個性を競い合うウイスキー産地で、2014年にはそのうちの1軒がオーストラリアの蒸溜所で初めてワールド・ウイスキー・アワードのワールド・ベスト・シングルモルトを受賞したほど。オーストラリアン・ウイスキーの注目すべきフロンティアとしても、航空史から見たタスマニアに触れる意味でも、ぜひとも立ち寄りたい場所です。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

テイスティング。クリスさん自らがナビゲート。

タスマニア産ファインワインのリーディングワイナリー。

夜間フライト明け、朝からウェルカムテイスティング的な蒸溜所訪問というハードボイルドな行程にわずかに足元をふらつかせながら向かった次なる目的地が「ジョセフ・クローミー・ワインズ」。近年、進化が目覚ましいオーストラリアワインの中でも高品質なワイン産地として名を馳せる、タスマニア州を代表するワイナリーの一つです。

畑を眺めながらのテイスティングは、ワイナリー訪問の楽しみ。

ロンセストン空港から車で約15分、レルビアという町にあるワイナリー&セラードアは1880年代の邸宅をコンバージョンしたもので、庭園の美しさも息を飲むほどでした。名門の風格漂うワイナリーは、ほぼ無一文でチェコからオーストラリアに渡り、精肉店から始めた事業を食肉加工・輸出業、不動産業へと拡大させ、一代で財を成したジョセフ・クローミーさんが2004年に創業。現在、94歳のジョセフさんは今もロンセストンに住んでいて、地域の経済発展に寄与したことから「タスマニアの父」と呼ばれる、生きるレジェンドです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

窓からの景色も美しいテイスティングルーム。

ここでも、早速試飲の洗礼を受けます(ウェルカム!)。タスマニアワインの代名詞、瓶内二次発酵のスパークリングワインは、スタンダードキュヴェとピノノワール主体の2019、同じくピノノワール主体のロゼ2017を。いずれも15~36月と長い瓶熟期間を経てリリースされるものですが、まだまだフレッシュ感があり、果実味も充実しています。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

セラードアに隣接するサンプルのぶどう畑。

ほか、イギリスの権威あるワイン誌「デキャンタ」のランキングで世界一を獲得したシャルドネや、近年評価を高めているピノグリなどもテイスティング。ワインはすべて、ワイナリー周辺と北部タマヴァレーに所有する61ヘクタールの畑で栽培するぶどうから造られています。次はぜひ、畑にも行きたい。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「トリュフファーム」二代目のアンナさんとトリュフ犬たち。

オーストラリア産トリュフ発祥の名門ファーム。

ウイスキー、ワインときたところで、旅の時系列に依らず、印象に残ったおいしいスポットを先にご紹介しましょう。タスマニア中北部の町、デロレイン近郊にあるトリュフ農場、「トリュフファーム」です。世界三大珍味の一つで高級レストランの料理に欠かせないトリュフ、ご多分に漏れず私も大好物なのですが、オーストラリア産トリュフについて深く考えたことがありませんでした。

調べてみると、今や、フランスやイタリア、スペインに次ぐ生産量世界4位で、その品質の高さも注目を集めているとのこと。南半球一のトリュフ産地・オーストラリア、その道筋を拓いたのが1999年、オーストラリアで初めてトリュフの収穫に成功した「トリュフファーム」の創業者、ティム・テリーさんなのです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

大きさ自慢をしていると「サイズより成熟度合い」とアンナさん。日本に持って帰りたかった!(涙)

ここで生まれて初めてのトリュフの収穫を経験することに。兄のヘンリーさんと共に二代目として農場を守るアンナさんと、完璧に訓練されたトリュフハンター犬に導かれ、犬たちが示す場所の土を手で優しく掘っていきます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

トリュフ入りチーズのサンドイッチに、フレッシュなトリュフをふんだんにかけて。

湿り気のある土の香りと混然一体になった堀りたてトリュフの香りは忘れがたく、さらにはそれをサンドイッチに“これでもか”とかけたものがランチに。この旅を通じての忘れがたき一食となりました。その他の美食メモは、後にまとめて。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

試験的に北イタリア原産の白トリュフ栽培を行う区画。すでにグランクリュの風格。

タスマニアの自然が凝縮。世界遺産の大地を踏みしめる。

できればおいしいものの話だけをしていたい胃袋系ライターに自然の素晴らしさや動物愛を語らせてしまうのがオーストラリアです。タスマニア島となればなおさら。面積がオーストラリア全土に占める割合は約0.9%という(“オーストラリア目線”では)タイニーアイランドですが、「北海道よりやや小さい(約8割)くらい」と聞けば、我々日本人の感覚では十分に広大。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

ウォンバットの赤ちゃん。愛情あふれるスタッフの方々の姿にも感激です。

冷温帯の雨林や高山砂丘、氷河湖、ボタングラス(オーストラリア南東部原産のスゲ科の一種)の平原などいろんな環境があり、生息する動物も多種多彩と聞いても、そりゃあそうでしょう、と秒で納得できます。空気中のCO2濃度が世界で一番低いことから「世界一空気がきれいな島」との異名も。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

クレイドル・マウンテン国立公園のビジターセンター。

この旅でも森林河川保護区のカタラクト渓谷でチェアリフトに乗ったり、「デビルズ アット クレイドル」という野生動物の保護を目的とした小さな動物園でタスマニアデビルやウォンバットの赤ちゃんにメロメロになったりと、自然や動物に触れる機会には事欠かず。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

夜行性の肉食有袋類。タスマニアデビルが生息するのはタスマニア島だけ。

ハイライトは、「クレイドル・マウンテン国立公園」でのダブ湖サーキットウォークでした。クレイドル・マウンテンを筆頭に標高1500メートル級の山々が連なる同国立公園は、ユネスコの世界遺産・タスマニア原生地域の中核を成すエリアで、手付かずの自然の美しさは、オーストラリアの中でも屈指といわれています。自然を楽しむショートウォークプログラムが大充実しているのも大きな特徴。小さな子どもや車いす利用者も楽しめる10~20分間のものから、3時間かけたブッシュウォークまで4段階の難易度から選べるようになっています。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

ダブ湖。水の美しさは空気の美しさの鏡なのか……。

我々が参加したダブ湖サーキットウォークは、ダブ湖の周り6kmのコースを2~3時間で歩くと言うもの。難易度は「中」だけれど「Grade 3」(4段階で難しいほうから2番目)とあって、え、楽なの? 大変なの? と、やや不安な気持ちでスタートしました。

氷河の浸食でできたダブ湖はクリアな水の輝きが宝石のようで、青い空と山々と湖だけで構成される贅沢な景色が、見る場所によって表情を変えます。冷帯雨林の森の中は薄暗く空気が一段と冷たく、土とさまざまな植物の香りが折り重なり、感覚が研ぎ澄まされる心地。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

冷帯雨林の森。ぐっと涼しく、明るさ、湿度すべてが変わる。

「運がよければ出会える」と聞いていた野生動物には残念ながら出会えなかったけれど、わずか6kmの間にタスマニアの自然の多様性が凝縮されているようで、非常に充実感のある体験でした。……と、思ったのは温かい部屋に戻って振り返ったときの感想で、サーキットウォーク中はとにかく脱落しないよう必死! 

後半は、景色を見る余裕も少なくなっていき、ひたすら自分の足元だけを見つめる修行のような時間に。もう少しリラックスして楽しめるよう、鍛え直してリベンジしたいと思いました。季節でまた、見える景色も変わるでしょう。必ずや。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

久方ぶり(に感じる)シティ、ホバートの町並み。

州都ホバートは、洗練とリラックス感の好バランス。

旅の最終日に、州都ホバートにも立ち寄りました。オーストリアのほかの都市同様、カフェやパブ、ハイレベルなレストランが充実していて、かつ、大都市にはない心地よいサイズ感、チルな空気がオーストラリア旅のリピーターにも人気です。頭のてっぺんから足の先までどっぷり自然に浸って過ごしていたので、ホバート訪問が待ち遠しかった! ホテルにチェックインしてすぐに歩いてディナーに向かったウォーターフロントエリアでは「ホバート・トワイライト・マーケット」なる市が立っていて賑わっていました。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

サラマンカ・マーケット。

たった1泊の滞在でしたが、運よく週末に重なり、ローカルにもツーリストにも大人気の「サラマンカ・マーケット」に行くことができました。天気もよく朝から大変な賑わい。グルメ、アートやクラフト、ウェアやアクセサリー、ナチュラルコスメなどなど、ありとあらゆるジャンルの店がぎゅぎゅっと軒を連ねていますが、そのほとんどがタスマニアのプロダクト。料理書も充実した古書店や古いポスターの店などもあり、じっくり眺めながら歩いているうちに時間があっという間に過ぎてしまいます。

毎回、こういう市場に来ると野菜や果物、加工肉などを買うことができない(日本への持ち込みが禁止されています)のが残念でならないのですが、帰国便のスーツケースの重さを算段しつつ、リキッドソープやキャンドルなどを買ってよしとしました。クラフトビールやジンをはじめとするクラフトスピリッツ、ワインなどの出店者も多々、それだけに的を絞って見て回りたいほどなので、訪れるならば、時間を長めにみておくのがおすすめです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

ホバートのレストラン「マリア」の内観。プリンス・オブ・ウェールズ湾の景色を一望。

タスマニアのグルメ&ステイ。

後から振り返ったときに、旅の印象を大きく左右するのがホテル、そして食事ですが、今回のタスマニア滞在は全体的に満足度が高かったです。ローンセストンで宿泊した「ホテル・ヴァージ」は、地域の初期の産業遺産から着想したインダストリアルなインテリアが特徴のブティックホテル。ラフさとラグジュアリーのミックス感が都会的でした。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「ホテル・ヴァージ」。インテリアやファシリティも機能的でグッドデザイン。

クレイドル・マウンテンを含む世界遺産エリアも、さまざまなタイプのホテルが充実しています。宿泊した「クレイドル・マウンテン・ホテル」は、国立公園の北端にあたる自然豊かなロケーションが自慢のホテル。バー併設のレストランやラウンジなども充実、客室のバルコニーでも自然との一体感を感じられます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「クレイドル・マウンテン・ホテル」の客室は高低差のある構造。

ホバートでは2024年10月に開業した「ダブルツリー・バイ・ヒルトン」に宿泊。新しいホテルは清潔で気がよく、ヒルトンランドならではの行き届いたサービスで安心です。中心市街地やベイエリア、サラマンカ・プレイスなども徒歩圏内という好立地です。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「ダブルツリー・バイ・ヒルトン」。ホバートにまつわる写真がインテリアに。

オーストラリアはオーガニック先進国で、良質な食材の宝庫です。レストランもカジュアルダイニングから高級店までその土台ありきの味づくりで、サービスも行き届いていながらフレンドリーで、リラックスして美食に没頭できる環境が整っています。タスマニアも例にもれず、どのエリアでも魅力的なレストランに出会え、食事も満喫しました。

オイスターと上質なスパークリングは「死ぬ前に食べたいもの」の一つ。「ジョセフ・クロ―ミー・ワインズ」にて。

「ジョセフ・クロ―ミー・ワインズ」のセラードア併設のレストランでは、オーストラリア屈指のスパークリングワインでタスマニア産のオイスターを決め、カタラクト渓谷火口付近にあるレストラン「スティル・ウォーター」では、オーストラリア最高峰の牛のタルタルに舌鼓。水辺に立つ製粉所を改装したレストランで、雰囲気も素敵でした。

タスマニア産グラスフェッドビーフ、ケープ・グリムビーフのタルタル。「スティル・ウォーター」にて。

クレイドル・マウンテンでのディナーは宿泊したホテル内のレストランで、サーモンの前菜やアーティーチョークのパスタを存分に楽しみました。パスタの旨さは、粉の旨さだなと。州都ホバートでの一夜限りのディナーは、話題のレストラン「マリア」で。ジュニパーベリーで香り付けしたオイスターとマティーニから始まるクリエイティブなコースが印象的でした。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

アーティ―チョークのタリアテッレ。パスタ生地の風味と食感がよい。

筆者の周りではメルボルンやシドニーなどオーストラリア各都市への旅をリピートする友人たちが、近年、こぞってタスマニアを目指しています。州都ホバートはノープランの気ままな町歩きも楽しそうですが、ほかのエリアはある程度テーマや目的地を絞って計画を練るのが得策です。ワインやウイスキーに三昧もよし、大いなる自然とたわむれるもよし、トリュフだって、一生に一度は自分の手で!(愛しさと旨さが格別です) 澄み切った空気の清々しさが、思い出もフレッシュ&クリアにパッケージしてくれます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「マリア」のオイスター。ジュニパーが香るシャレた味でした。

取材協力

オーストラリア政府観光局

https://www.australia.com/ja-jp

Text:Kei Sasaki

 

WACOCA: People, Life, Style.

Exit mobile version